ティグルはライトメリッツの客将として政務を手伝ったり、ライトメリッツの軍やエレオノーラにリムアリーシャと鍛錬したり、ティグルに興味を持って会いに来る貴族たちにリュドミラに応対したり、ライトメリッツ領内に住む者達と交流などしたりした。
その中で自分一人や時にはエレオノーラと共にライトメリッツの野山へと行って、自分の趣味である狩りも何度かした。
「お前もしっかりしているよな、ルーニエ」
『キュー』
そしてティグルが狩りをするときは必ず、エレオノーラが飼っている幼竜のルーニエがついてきてティグルが狩った獣の肉を要求するようになった。無論、ティグルはルーニエの要求に応えて肉をやっているし、エレオノーラからも狩りに是非とも連れて行ってやってほしいと頼まれている。
なんだかんだ自分なりにライトメリッツでの生活を楽しんでいる時……。
「ティグル、是非ともこれを解決してやってくれないか?」
「へぇ、確かに狩るには良い獲物だな」
ライトメリッツの公宮へと村々から、並の鹿より一回り以上大きな体躯を持ち、右側の角だけが異様に伸びた牡鹿が現れたという窮状を訴えた。
この鹿は白昼でも堂々と姿を現しては畑を踏み荒らし、農作物を好き勝手にかじって山の中へ姿を消す。農具でもって追い立てようとした村人は角で突きかかられて大怪我を負った。
山歩きに慣れた村の男を九人集めてとある村長が牡鹿に挑んだが、数日かけた挙句に逃げられたし、牡鹿の被害に遭った村々から腕利きの狩人が五人集まって山に入ったが三日三晩、牡鹿を追い続けてもついに仕留める事が出来なかった。
嗅覚も脚力も怪物のような牡鹿は尋常ではなく、罠を悉く見破り、人間が近づく事さえ出来ない断崖へ身を踊らせ、岩場を飛び跳ねて悠々と逃げ去るのだと狩人の家系の者として挑むべき獲物である鹿の情報を聞きに来たティグルに牡鹿の被害を受けた村の村長は語る。
それ以外にも牡鹿を狩ろうとして失敗した狩人たちにも牡鹿の動きや山道、獣道、岩場や川の位置について詳しく聞き、そうして例に漏れず、狩りについてきたルーニエと共に鹿の縄張りになっている山へと向かい……。
「悪いな……」
ティグルは岩場にて身を潜ませ、気配を隠しながら目の前に見える特性の短弓を構え、矢を番えて引き絞る。距離にして五百アルシンであった。
そして、牡鹿の動きを観察しつつ、刹那、矢を放ち、牡鹿の頭部を矢で射抜き、その場に倒させたのであった。
「ほらよ、お望みの餌だ」
『キュウ』
ティグルは鹿を解体してルーニエに鹿の肉の一部を放ってやった。
「持って帰れそうなのは角と毛皮ぐらいだな」
想像以上の大きさだったのもあって、解体に時間がかかり、夕方となってしまった。
とりあえず、牡鹿の象徴である角や毛皮は持って帰る事にし、自分で食べる用の肉も切り分けると鹿の死体は地面に埋めて埋葬したのであった……。