魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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六十五話

 

 ティグルはライトメリッツの公宮へと複数の村から伝えられた窮状――並の鹿より一回り以上大きな体躯を持ち、右側の角だけが異様に伸びた牡鹿が畑を踏み荒らし、農作物を好き勝手に齧るという事を聞き、その鹿を狩りに向かった。

 

 嗅覚も脚力も怪物のような牡鹿は尋常ではなく、罠を悉く見破り、人間が近づく事さえ出来ない断崖へ身を踊らせ、岩場を飛び跳ねて悠々と逃げ去るので村の狩人たちも敵わないと聞いて元は狩人の家系である血が騒いだのだ。

 

 そうして、ティグルは見事に鹿を狩った。

 

 鹿を狩った証明のために右の角を切り離したり、毛皮を剥いだりすると日が傾いてしまう夕方近くになったので野宿をするしか無かったが……。

 

 夜が明けるとティグルは焚き火の処理などをして荷物を持って山を下り、隣でルーニエが羽ばたいてついてきた。

 

 こうして村人たちに鹿を狩った証明である角を見せると喜ばれ、夜においては祝いの宴を開かれつつ、鹿をどうやって狩ったのか、軽く弓の腕を見せたりする事で賞賛を受けたりした。

 

 翌日、村を出てライトメリッツの公都へ向かい、ルーニエがいるが故に目立つのでひとけの無い道を通る事で公宮に到着する。

 

 

 

「ティグル様、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいまティッタ」

 

 公宮を囲む門をくぐって馬から下りたところでティグルの妻であり、現在、この公宮内で侍女をしているティッタが近づき、そうして互いに笑みを浮かべ合う。

 

 するとルーニエがティッタへと羽ばたきながら、近づきそうして抱き締められつつ、甘えた。ティッタは幼児をあやすかのようにルーニエの頭を撫でてやる。

 

 そしてティッタより、エレオノーラとリムアリーシャが呼んでいると伝えられ、荷物の整理や工房へと毛皮を運ぶのは彼女がやるというので任せ、荷物の無くなった馬を厩舎へと連れて行き、馬丁に預けた。

 

 そうして外套の汚れをしっかり払って公宮に入り、執務室へと向かって扉を叩いて呼び掛けた。

 

 

 

 エレオノーラからの返事により、ティグルは執務室の中へと入った。

 

 

 

「ただいま。エレン、リム」

 

「おかえり、ティグル。牡鹿はどうだった?」

 

「お疲れ様でした。ティグルヴルムド卿」

 

 ティグルがエレオノーラことエレン、リムアリーシャことリムに声をかければ二人とも笑みを浮かべて歓迎する。

 

 

 そして、リムは三人分の銀杯と葡萄酒の瓶を用意し、銀杯に葡萄酒を注いでいく。

 

 

「では、ティグルが狩りをやり遂げたことを祝って乾杯」

 

『乾杯』

 

 軽くティグルの帰還を祝して葡萄酒を飲み合い、ティグルは牡鹿の狩りについて話をするのであった……。

 

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