魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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六話

 

 

 ブリューヌ王国の辺境の地、アルサスの領主であるティグルはヴォージュ山脈を通じて国境を接しているジスタート王国が有する公国の一つ、ライトメリッツを治めるエレオノーラの勧誘に応じた。

 

 アルサスの国力ではジスタート王国に攻められ続ければ抗いきれないし、それに自国で勢力争いしているテナルディエとガヌロンの二人が進軍してくればこれもまた、抗いきる事は不可能だ。

 

 それに抵抗すればアルサスがそれだけ荒される事にもなる。そうした事を考えればむしろ、エレオノーラの仲間になった方が彼女の力も得られるのでその分、安心できる。

 

 ティグルには王家に対する忠誠心は父親やマスハスと比べれば全然、小さく……それにディナントでの戦いでレグナス王子の救援に逃亡を助けているのでティグル的には王家に対する義理を果たしているだろうと認識していた。

 

 とはいえ、いきなり仲間になれば悪戯にテナルディエやガヌロンにアルサスを攻める口実を与える事になるし、自分がエレオノーラの事を理解するためやエレオノーラにも自分の事を理解してもらう関係作りなど色々な事を含めてまずは同盟関係から始める事にしたのである。

 

 そうして……。

 

 

 

 

「どうだ、アルサスの地は?」

 

「中々、穏やかで心が安らぐ良いところだな。気に入ったぞ」

 

「各村も活気があって、民たちはティグルヴルムド卿の事を信頼し、慕っている。良い統治をされているようですね」

 

 先ずはティグルからという事でエレオノーラと彼女の副官であるリムアリーシャが旅の騎士に扮し、ティグルは二人をもてなすという事でアルサスの地、村を紹介していた。

 

 ティグルの言葉に対し、エレンもリムも良い評価を述べた。

 

「他から見れば小さくとも俺にとっては広い領地だからいろいろと苦労はしているけどな。やるべき事は出来る限り、やっているつもりだ……気に入ってもらえて良かった」

 

 ティグルは二人に対し、苦笑を浮かべながら言う。

 

「それにしても驚いたぞ……まさか、お前に妻がいたなんてな」

 

 エレオノーラは村を巡る前にティグルの屋敷で出会った彼の妻であるティッタの事について言及する。ティグルが侍女であるティッタの事を妻と紹介した時、エレンとリムは驚愕もした。

 

 

 

 

「ディナントの戦が始まる前夜に真剣に告白されたからな」

 

「ロマンチックな話じゃないか」

 

「物語にすれば、人気になりそうですね」

 

 そんな話をしながら、ティグルはエレンとリムにアルサスを紹介し……。

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

「やはり、弓においてはずば抜けているな」

 

「……まさか、これ程とは」

 

 ティグルが設けた鍛錬場にて彼は八百アルシン程離れた場所から的に対し長弓を使い、剛矢でもって射貫いたり、後ろを向いた状態から弓だけを立てかけた槍の穂先を向け、矢を射る事で命中させたり、他にも矢の軌道を上手く曲げて当てたり、速射に連射と次々に超絶的な弓の技量をエレンとリムに見せ、驚愕させる。

 

 

 更に……。

 

「ふっ!!」

 

「おおっ!!」

 

 ティグルとエレンは刃を潰した訓練用の長剣を持って、手合わせを始める。

 

 荒ぶる暴風の威容を連想させる剣舞を繰り出すエレンに対し、ティグルは鋭く流麗な剣舞を繰り出す事で対抗する。

 

 お互いがお互いの剣撃を弾き合い、あるいは回避し合って直撃を防いでいく。

 

 

 

「ふふ、弓だけじゃなく剣もこれだけ使えるとは……それに分かるぞ、想像できないくらい鍛え上げた事が」

 

「元々、俺は剣なんかの才能が無かったからな」

 

 エレンはティグルと剣舞を応酬させる中で彼の剣が放つ血反吐を吐くという表現すら相応しくない程の過酷な鍛錬で磨き抜かれた剣の輝きに目を惹かれていた。

 

 勿論、愚直に基礎を積み上げた結果、一つ一つの所作が絶技と化し、魔性の域にもなった技の冴えにも又、惹かれている。

 

「おおおっ!!」

 

「はあああっ!!」

 

 鍛錬場を所狭しと縦横無尽に動き回りながら、剣舞を激しく応酬させていく二人。

 

 

「しっ!!」

 

「なっ!?」

 

 ティグルはエレンへと向かいながら、跳躍しながら身を捻って旋回するという軽業を披露するとそのままエレンの背後に着地すると彼女の首筋で剣を軽く叩いた。

 

 

「俺の勝ちだな」

 

「参った……しかし、それだけの腕があって尚、弓を使うのだな、ティグルは」

 

「俺は弓が一番得意だからな。当たり前の話だが、一番得意な武器で戦をするのが一番だ」

 

「それはそうだな……お前との手合わせは楽しかったし、それに負けたままでいるつもりもない。これからも手合わせをしてもらうぞ」

 

「望む所だ。俺だって負けるつもりなんてない」

 

 微笑み合いながら、二人は握手を交わす。

 

「お二人とも……大変素晴らしい手合わせでした」

 

 エレンとティグルの元へ駆け寄り、リムは二人にそれぞれ手拭いを渡した。

 

「ありがとう、リム」

 

 エレンは手拭いを受け取り、汗を拭き始めた。

 

「俺もありがとう、リムアリーシャ殿」

 

「いえ……それと私の事はリムと呼んでいただいても構いません。貴方の弓と剣に対する敬意です」

 

「そうか、じゃあよろしくなリム」

 

「はい、ティグルヴルムド卿」

 

 リムとそうした会話をしながら、ティグルは彼女から貰った手拭いで汗を拭いた。

 

 

 それから少しした後、エレンとリムを招いた屋敷内で……。

 

 

 

 

「おっと」

 

「っあ」

 

 夜、鍛錬場で夜の鍛錬をしようと歩いていた際に曲がり角から歩いてきた者と軽くぶつかってしまった。するとその者が抱えていた袋が落ち、中身が少し姿を現す。

 

「っと、すまないなリム……ん、それは食堂で飾っていた熊の人形か?」

 

「いえ、こちらこそ……それと、はい……」

 

 ティグルにぶつかったのはリムであり、袋から出てきたのは元は食堂に飾られていた熊の人形。リムはぬいぐるみを集め、飾ったりする趣味があった。

 

因みに熊のぬいぐるみはティッタの手製である。

 

「ぬいぐるみが好きなんだな。安心しろ、言いふらしたりする趣味は無いし、心を切り替えたり、豊かに出来る趣味を持っているのは良い事だ」

 

「あ、ありがとうございます。ティグルヴルムド卿」

 

 リムは深々と頭を下げてティグルに感謝を示しティグルが趣味について理解のある相手を見つければ良いというアドバイスをすれば、ティグルにそうした相手になって欲しいと言ったのでティグルは受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 因みに……。

 

 

 

 

「ありがとうなティグル、リムの良い相手になってくれて……今後もよろしく頼む」

 

「ああ」

 

 長年の付き合いであるエレンはリムの趣味を知っていて、ティグルに礼を言ったのであった……。

 

 

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