ジスタート王国の国王であるヴィクトール王の要請でアスヴァール王国へと第一王子であるジャーメインの密使として向かう事となったティグルはエレンの助言により、彼女の大切な親友であり、戦姫の一人であるアレクサンドラ=アルシャーヴィンことサーシャの治めるレグニーツァへと向かった。
サーシャは重病の身のため、下手をすれば面会も出来ない可能性があったがなんとか面会の許可が下り、ティグルはサーシャと面会し、そして愛称で呼ぶことを許されたし、当然、自分も愛称で呼ぶことを許した。
そして、エレン達の事を話すと今後もエレンの事を任されたのである。
そうした話が終わると本題であるアスヴァールの事に関して話す事になる。
「君も大変だね、ブリューヌでもそうだけど」
「まったくだ。俺は只々、アルサスの地を出来る限りの範囲で繁栄させながら、穏やかで平穏な毎日を過ごせればそれで良かったのにな」
「それはそれで大層、大きな望みだけどね……まあ、領主なら誰もが望む事でもあるけどさ」
「ああ」
苦笑を浮かべたサーシャへとティグルも苦笑で応じた。
「君はこのジスタートで自分がどういう立場に置かれているか分かっている?」
「まずは客将、そしてブリューヌに対する人質、後はブリューヌの勢力図を書き換えた厄介者かな。ジスタートの貴族たちにとっては」
「うん、そうだね」
そう、ティグルはジスタートの貴族諸侯にとっては厄介者である。
ブリューヌで大きな権威と勢力を持っていたテナルディエとガヌロンの両公爵との内戦を勝ち抜いたのだから当然だ。
それにより、テナルディエとガヌロンと関係を持っていた貴族諸侯の影響力を奪ったのだから……。
新たにティグルと関係を築こうにもエレオノーラにリュドミラとの結びつきが強いので食い込むのが難しいというのも問題であった。
「だが、今回の件はヴァレンティナ=グリンカ=エステスが絡んでいる気がする」
「ヴァレンティナが? 彼女も僕程では無いにしろ、病弱だと聞いているけど……」
ティグルの推測にサーシャは驚きながらも理由を聞いてきたのでティグルは一度、ヴァレンティナが眠りにつこうとしていた自分に接触してきた事を話す。とても病弱には見えないという主観も込め、いずれ会おうと言っていた事も含めてだ。
「……その話が本当なら、ヴァレンティナはかなりの策士だね。皆に警戒されないように振る舞っていたんだから」
「だからこそ、思い通りになりたくないってのはある。単純にこっちが面白く無いしな」
「なら、ひっかけよう」
サーシャはこれから、ティグルにプシェプスの港町ではなく、リプナの港町からアスヴァールに向かうように告げ、白イルカのマトヴェイとして名がリプナで有名な男を頼るように告げられた。
サーシャからヴィクトール王には伝えておくとも……。
「ありがとう、恩に着る」
「エレンにミラの大切な人なら当然さ」
その後、扉が叩かれた後にティグルをこの部屋まで案内した従僕が時間だと告げた。
「それじゃあ、アスヴァールから帰ってきたらお礼も言いたいし、どうか安静にしていてくれ」
「ふふ、分かった。ティグルが帰ってきてすぐに面会できるように体調を整えておくよ……それとアスヴァールから帰ってきたら、ルヴーシュ公国を治める戦姫エリザヴェータ=フォミナに会って話をしてほしい」
「恩人の頼みなら喜んで。それに色々助かる贈り物をしてもらったから、一度はお礼を言いに行こうと思っていたところだ」
「そうか、じゃあよろしくね」
「ああ、それじゃあ……またなサーシャ」
「うん、またねティグル」
こうして約束を交わしていくとティグルはサーシャの部屋から去る。その後、翌日の早朝にレグニーツァを発つ事にし、その前にサーシャに別れの挨拶をしようとしたが従僕からサーシャの体調がすぐれないと聞かされた。
言伝を頼むとリプナへの行き方を書いた地図を貰い、マトヴェイという男の特徴も教えてもらい、サーシャからマトヴェイへの手紙を貰うとお礼を言ってティグルはレグニーツァを発ち、リプナへと向かうのであった……。