ティグルはレグニーツァの戦姫でエレオーラの大切な親友であるアレクサンドラことサーシャに相談に乗ってもらう中でヴィクトール王空に手紙で事前に書かれていたプシェプスの港町からアスヴァールへと向かうルートを変更した。
サーシャの知り合いである『白イルカのマトヴェイ』がいるリプナの港町からアスヴァールへと向かうルートにしたのだ。
ともかく、レグニーツァを発って二日後に太陽の高さが中天に近くなり、日差しが強くなってきた頃にリプナの港町のある城門が見え、そうして城門を潜ってリプナの港町へと入る。
「おお、これが港町って奴か……」
リプナの港町では様々な肌の色や顔立ちをした男女が道を行き交い、幾つもの国の言葉が飛び交っている。
そう、ジスタート人は勿論、ブリューヌ人にムオジネル人にザクスタン人、アスヴァール人がいて多数の国による異文化交流が成り立っていた。
異国人同士が当たり前のように言葉を交わし、言葉が通じない場合は絵を描いてみたり、身振り手振りで意思の疎通を図っているのである。
そして、やはり絵が一番人に伝わりやすいからか酒場や宿屋の看板は絵で表現されていた。
「あんた、この町は初めて?良かったら案内してあげるけど、どう?」
後ろから肩を叩かれたので振り返れば赤い髪を腰まで伸ばし、年は二十半ば、豊かな胸が強調された煽情的な衣装が似合うスタイル抜群の美女がザクスタンの訛りがある声で問いかけてきた。
「喜んでと言いたいところだが、行くところは決まってるんだ」
「そうなの。それは残念ね」
「代わりと言っちゃあなんだが、港近くで美味い食事を出してくれる店を知らないか?」
「それはあたしを食事に誘っているのかしら?」
「まあ、そういう事だ。一人じゃ寂しいしな」
「ごめんなさい、さっき食事は済ませちゃったの。でも知ってる店は幾つか教えてあげるわ」
そうしてティグルは女性から三つの店を教えてもらい、女性にお礼として大きめの銅貨を一枚、渡すと女性は笑顔で受け取り、手を振って人ごみの中に消えた。
ティグルは歩き出し、港へと向かい、辿り着くと……。
「港と海か……」
初めて目にする港と海の様子にそれなりに衝撃を受けた。
そして、気を取り直すと近くで魚や貝を焼いている水夫達に声をかけ、銅貨を渡して食事を分けてもらい、味わった。
その後、マトヴェイの事を水夫たちに聞いていく事で北側の船着き場に移動し……。
「貴方が私に用件があるという方ですか」
かなり大きく、逞しい筋肉質の体で短い髪に日に焼けた赤胴色、鋭く光る眼と中々の威圧感を持つ黒絹の帽子と金の縁取りがされた深紅の上着を着た水夫ことマトヴェイに接触した。
「初めまして。ティグルヴルムド=ヴォルンです」
ティグルはサーシャからの手紙をマトヴェイに渡すと……。
「ふむ、貴方に同行し可能な限り、お助けせよと……大恩あるアレクサンドラ様の頼みとあっては断れませんな。私の自慢の船『
マトヴェイは手紙の封を切り、中身を見ると頷きつつ、ティグルへと言う。
「よろしくお願いします」
マトヴェイに対し、ティグルは頭を深く下げるのであった……。