ティグルはリプナの港町へと行き、レグニーツァを治める戦姫であるアレクサンドラことサーシャがアスヴァールへ行くために頼るように言われた『白イルカのマトヴェイ』という水夫に接触を図った。
そして、マトヴェイにサーシャからの手紙を渡せばその内容がティグルを助けるようにと書かれていた事でマトヴェイは自分の船、『誇り高き白イルカ号』にティグルを乗せる事を了承した。
つまりはそれだけ、サーシャはマトヴェイに恩があり、恩を返す気になる信頼が築かれているという事だ。それを汚すような事をしないようにティグルは内心で誓う。
「それで船は何時頃、出航するんですか?」
「貴方は運が良い。私は元々アスヴァールへ向かう予定だったのです。此処に来るのがもう少し遅ければ会う事もかなわなかったでしょうな」
「じゃあ、アレクサンドラ様が巡り合わせたと感謝する事にしましょう」
「ふふっ、ですな……誇り高きイルカ号は商船で他にも様々な客を乗せておりますので貴方が目立つという事は無いでしょう。船腹に外套を羽織った白イルカを描いていますので、それが目印になるかと」
ティグルへとマトヴェイは自分の船の目印を教えると後、四刻半程いる必要があると言ったので仕事の邪魔をしたくないので船の方へと行く事にする。
マトヴェイはティグルが自分の船の方へと行く事を伝えるとマトヴェイが深紅の上着のポケットから銀貨のようなものを出してティグルに差し出した。
その銀貨のようなものにはマトヴェイの深紅の上着の背中に書かれている白イルカの絵と同じものが彫られていた。
「どうぞお待ちください。これは乗船許可証のようなもので船の者達に見せれば笑顔で通してくれますよ」
「ありがとうございます」
ティグルは銀色の許可証を受け取るとその場を離れる。
「――すいません」
「なにか?」
横合いから手に小さな荷袋を提げた小柄な中性的な容姿の人が薄汚れた外套に身を包み、フードを目深に被っているので顔のごく一部しか見えない。黒い瞳がまっすぐティグルを見上げている。
「誇り高き、白イルカ号、という船を探しているのですが、ご存じありませんか?」
声にはティグルの知らない訛りがあった。
「ああ、知っている。というより俺はそれに乗るんだ。一人か、連れがいるならその人も……」
ティグルは会話をしようとしていたのだが……。
「てめぇ、俺達が案内してやろうと言ったのに逃げるたぁどういうつもりだ!!」
二十歳に満たない男が三人、肩をいからせて歩いて来た。言動に見合う雰囲気、つまりはごろつきの若者であった。
「迷惑です、追いかけてこないでください」
「く、クソガキっ!!」
男が激昂してティグルへ声をかけた中性的な人へと殴り掛かるも……。
「そうやって、反応するのは良からぬことを考えてる証拠だな」
ティグルは割って入りながら男の拳を受け止めながら、捻り上げる。
「これ以上、俺の連れに何かするならこの腕を折るぞ。さあ、どうする?」
「うぎ、わ、分かった」
「そら、とっとと行け」
男の腕を更に捻り上げながら言うと男は観念したのは解放しながら、思い切り男の背中を蹴り飛ばす。
するとごろつき達はティグル達の元から逃げ出していった。
「あの、ありがとうございました」
「気にするな……俺はティグルヴルムドだ、同じ船に乗る者どうしよろしくな」
ティグルに対する感謝と誠意のためか中性的な容姿の人はフードを外した。
そうして現れたのは十三、四歳くらいで薄紅色の短髪、月の模様をあしらった髪飾りをつけた青空の瞳の少女であった。
「私はオルガです。よろしくお願いします、ティグ、ルヴルヴル……」
「呼びにくかったら、ティグルで良い」
ティグルは言いにくそうにするオルガに対し、苦笑しながら愛称で呼ぶことを許しつつ、握手を交わすのであった……。