ティグルはジスタート王国内の公国の一つ、レグニーツァ公国を治める戦姫アレクサンドラ=アルシャーヴィンの協力により、リプナの港町にいる水夫の一人、『白イルカのマトヴェイ』を頼ると彼の船で商船だという『
早速、船に乗り込んで出航の時を待とうとしたが、そこでどう考えても良からぬことをしようとしていた三人の男に追われていたオルガという少女に出会った。
ティグルはオルガへと殴り掛かったごろつきの拳を受け止めつつ、捻じり上げながら脅す事で三人とも撤退させた。
そうしてティグルはオルガと共に『誇り高き白イルカ号』に乗ったのである。
「船という物に乗るのは初めてだが、波というのはこんなにも揺れるもんなんだな」
船の甲板にて船の浮き沈みと共に波の揺れを感じたティグルはそんな感想を呟いた。
マトヴェイの商船である『誇り高き白イルカ号』は港に停泊していた船の中でも大きい部類の船だ。帆を畳んだ太いマストは二本そびえ立っており、甲板の下は船底も含めて三重構造になっている。
甲板はティグルが思うより狭いし、並んだ樽や張り巡らされた網の間を水夫たちが忙しく動き回っている。
「これが船の雰囲気という奴か……さっさと船室に行こう」
「はい」
船に乗る前にフードを被り直したオルガが頷くのを見る。因みに彼女は連れはおらず、一人で世界を旅しているのだとか……。
船尾にある梯子を下りると潮風と木材の混じった匂いが充満する通路を歩くと乗船の際に教えてもらった部屋へと向かい、そうしてその部屋の前に立つ。
「さ、どんな感じかな?」
扉を開けるとひどく小さな部屋があり、壁と床に固定されたベッドの他には足の踏み場が三、四歩分ぐらいの空間しかない部屋である。
荷物を置いて寝るぐらいの事しか出来ない部屋だが、鍵としてごつい錠前を渡されているので少なくとも荷物の盗難を心配する必要は無いのでこれだけでも大分、安心感は違った。
「まあ、狭くはあるが荷物の盗難を心配する必要は無いだけマシだな」
ティグルは部屋の様子を見て少し考えると苦笑して納得した。
「それでは、これで」
「あー、良かったらオルガの部屋も見せてくれないか?」
「どうぞ」
頭を下げてティグルから離れようとするオルガにティグルは声をかける。
彼女が誇り高き白イルカ号の水夫の一人に渡していた乗船許可証はティグルのより、ランクが下の物だったので彼女の部屋も自分のものより生活しにくい部屋になっている可能性を考えて確認してみる事にしたのだ。
実際、オルガの部屋は大人数が共同で使う広いだけで何も無い部屋でしかも内乱中のアスヴァールに向かうとあって傭兵のような男たちが十ニ、三人いた。大体が剣や甲冑で武装しているし、武装していなくとも全身から剣呑な雰囲気を放っており、それぞれが警戒しているという。
快適さなど全くない部屋であり、しかもオルガ以外の者は全員、男である。
雰囲気や歩き方などからオルガもかなりの実力者だとは察しているが流石にオルガをこんな部屋で宿泊させる気にはならない。
「オルガ、折角の縁だ。俺の部屋に来てくれよ、一人の旅人どうし話でもしよう」
「良いのですか?」
「ああ、勿論」
少し驚いたオルガの問いにティグルは頷き、こうして同居人をティグルは得る中、『誇り高き白イルカ号』はリプナを出航したのであった……。