ティグルはマトヴェイにオルガの二人と共にアスヴァール王国の第一王子であるジャーメインの密使として会うために旅をしている。
その道中で村を見かけたので一晩泊めてもらうよう、村長と交渉して受け入れてもらう事に成功した。
そして、食事の時間まで村長の家の二階で休んでいると妙な連中が村へと入った。
三、四十人程の男たちで全員が粗暴な雰囲気を纏っており、武装はしているが装備に統一性は無い。鋲を打った革鎧を身に着けている者もいれば、鎖帷子を着こんでいる者もいた。
武器も剣や槍、斧に鎚矛と不揃いである。
この村の連中はこの集団の事を知っているようで素早く、家の戸を固く閉ざしながら中へと籠っていた。もっとも畑へ出ていた数人だけは逃げ遅れ、家畜の馬や牛と一緒にその場に立ち尽くしていたが……。
男たちは家の一軒に目をつけると槍や鎚矛を叩きつける事で扉を壊して家の中へと踏み入って悲鳴を上げさせた。
それ以外にも違う家へと襲ったり、畑に向かった者達が農夫を囲んで殴りつけたり、楽しそうに笑いながら家畜を叩き殺していく。
「野盗じゃ無いな……随分とあの連中はのんびりとしているし、それに村の人も家の中に籠るだけで逃げようとしていない」
「……確かに、何故でしょうか?」
ティグルは状況を観察しながら、疑問を呈するとマトヴェイも同様の疑問を抱く。
「それはあの方々がジャーメイン殿下の兵だからです。どうか、お願いです。変な真似はしないでください。じゃないと村が……」
村長の家族である四十代半ばの女性が説明しながら、ティグル達へ男たちに手を出さないように懇願するが……。
「マトヴェイ、この人とこの家にいる者は全員縛って一階に転がしておけ。それと何を使っても良いから、一階を塞げ。戸口も窓も全てだ」
ティグルがマトヴェイに指示すれば、彼は直ぐに女性を羽交い絞めにする。
「オルガ、お前の力が必要だ。俺と一緒に来い」
「っ、分かった」
ティグルは黒弓を持ちつつ、矢筒を腰に下げると窓枠に足をかけ、軽やかな身のこなしで外の壁に取り付き、すばやく屋根の上によじ登った。オルガもティグルと同様の方法で屋根へとよじ登る。
「どうして、あの家の者を縛る指示を出した?」
「俺達が邪魔をされないように彼らを縛り上げたという事なら、村に対して面目は断つからな」
ティグルはオルガの質問に答えながら、非道の限りを尽くしているジャーメインの兵たちを観察する。
「オルガ、あいつらを蹴散らせ。逃亡させればそれで良いし、降伏したならそれを受け入れても良い。俺も援護する」
「色々と考えているんだな、分かった」
ティグルの指示にオルガは屋根の上から飛び降り、着地しながら駆けだし、装備していた斧を抜く。するとティグルが今まで見ていた物より、巨大となっていた。
それがオルガの竜具の力の一つなのだろう。
ともかく、オルガはジャーメインの兵に対し、斧による轟閃を振るう事で薙ぎ払っていく。
「ふしっ!!」
ティグルは屋根の上から周囲を観察しながら、複数の矢を番えた弓より連射によってジャーメインの兵の指揮官やその周囲にいる兵たちを射抜いていく。
こうして瞬く間にジャーメインの兵の指揮官に副官は死に、半数以上の者もティグルとオルガによって葬られて残りの者の殆どは逃げ出し、逃げ遅れた更に少人数の兵は武器を捨てて降伏するのであった……。