アスヴァール王国の第一王子であるジャーメインに仕える百騎長のタラードと彼の部下であるクレスディルと出会ったティグル達は二人に連れられ、村を出ると昼を過ぎたころにジャーメインのいるバルベルデに到着した。
バルベルデの城壁は高さと厚さを備えており、大通りには石畳が隙間なく敷き詰められ、上水道と下水道の設備も整っていて都市としての機能は十分にあるが、実用性重視したが故に華は無かった。
「灰色の町だな」
「ですな、ジャーメイン殿下の性格なのでしょうか?」
ティグルは立ち並ぶ建物の壁は灰色で屋根には暗褐色のレンガを用いており、通り沿いに点在する露店も同じような感じである事から、呟いた言葉にマトヴェイが言う。
「いや、殿下は華やかなのは好きだぞ。ただ、派手だったり賑やかだったりするとちょこまか動き回るからこれぐらいなのが良いんだ」
先頭を歩いていたタラードがティグル達の方へと近づきながらマトヴェイに対し、答える。
「ところでティグル殿、その弓はなにで出来ているんだ。イチイでもニレでもないようだが……」
タラードはティグルが背負っている黒弓を見て問いかける。イチイもニレも弓の材料として使われる木だ。
「こいつは俺の家の家宝なんだが、恥ずかしながら良く知らないんだ。ただ、普通の弓よりは良い弓ではあるぞ」
「そうか……だが、そうやって弓を持ってきているのを見ると弓には自信がありそうだな。俺も弓は得意なんだ。機会があれば勝負してみたいな」
自分の弓の弦を軽く弾きながらタラードは言う。
「ああ、勝負は好きだぞ。機会があれば良いけどな」
ティグルは苦笑で答えた。その後、今までに射たもので最大の獲物は何か、どこまで矢を飛ばせるかなど弓についての話をしていく。
「ティグル殿、この都市についてどう思う?」
「北から東にかけて小高い丘が連なっていて、西には森が広がっているから相手としては攻めにくく、こっちとしては守りやすい良い拠点だと思う」
「良い目の付け所だ。流石は使者に選ばれるだけはある」
タラードはティグルの肩を親し気に叩きながら言う。
「もっと言うとここから北西へ二日ほど行ったところにルクス城砦があって、王子に仕えるレスターという騎士が三千の兵と共にそこを守っている」
「エリオット王子の軍勢が海を渡ってもマリアヨの港町とルクス城砦の二つの防壁があるわけか」
「そういう事だ。そして、このバルベルデはゼフィーリア女王が大陸に攻め込んだ際、最初の拠点とした都市なんだ。『覇王』の偉業にあやかろうって訳だな」
「成程な」
ティグルはタラードが覇王と口にしたとき、彼の双眸が強い感情を漲らせたのを見て王者になろうという野望を秘めているのを見抜いた。もっともそれを口にする事は無いが……。
そうして、バルベルデの城館に向かう道中、酒場の娘や職人らしき中年の男、巡回中の兵士など色んな人から慕われ、声をかけられているのを見てやはり、タラードは只者でないとティグルは思う。
そのまま進んでいき、ティグル達は尖塔に赤い竜を描いたアスヴァールの国旗がはためいている城館を目にしながら、そこへと近づいていくのであった……。