ティグルにマトヴェイとオルガはジャーメイン王子に仕える百騎長のタラードと彼の部下であるクレスディルの案内の元、ジャーメイン王子がいるバルベルデに到着し、そうして城館へと向かった。
その道中、タラードが街の人たちに慕われ、声をかけられている様子や彼自身が王になろうという野望を抱えているのをティグルは見抜き、初めて会った時より彼は只者じゃないと印象を抱いていたが、それは間違いでは無いと確信した。
こうしてティグル達三人は城門の前で半刻程待たされた後、ジャーメイン王子のいる謁見の間へと通された。
奥行きのある広間も質実剛健な造りであり、壁や床の装飾は控えめである。
天井にある豪華なシャンデリアと最奥に設えられた玉座の二つだけが壮麗な輝きを放っていた。シャンデリアは銀の環を二重にして内側に宝石を飾ったものであり、環に並んだ蝋燭の灯りが宝石に反射して幻想的な光を床に投げかけている。
玉座もまた絹布をふんだんに用いており、真珠や珊瑚を始めとした数々の宝石で華やかに飾り立てられているなど、飾れるところは煌びやかになるよう、派手に飾っていた。
そして玉座に座っている男こそ、ティグルが密使として会いに来た第一王子のジャーメインである。
今年二十七歳で顔の輪郭も突き出た腹も丸く、顔立ちは秀麗だが全体的に肉が突きすぎているので美形だった面影を残しているような感じだ。背も高いからこそ、腹の大きさが余計不自然だ。
ジャーメインのそばには侍従だろう老人が控えていて、両脇には槍を持ち、甲冑を纏った騎士が五人ずつ並んでいた。
因みにティグル達においては黒弓に剣、マトヴェイの剣、オルガの斧は城門に預けているので皆、丸腰である。
「ジスタート王国からの使者と聞いたが」
ティグルは野太い声を発したジャーメインに対し、ジスタート王に持たされた細長い筒を捧げるように前へ出しながらその場に膝をつく。オルガとマトヴェイもそれに倣った。
「ティグルヴルムド=ヴォルンと申します。まだアスヴァール語には不慣れなため、通訳を使う事をお許しください」
そうして、ティグルはマトヴェイに自分の言葉を通訳させながらジスタート王の意思を伝えつつ、侍従に親書のある筒を渡した。
侍従は筒を受け取り、親書を取り出してジャーメインの元に戻った。
そうして、ジャーメインからは皮肉めいた笑みを浮かべられながらブリューヌ人である事を指摘された。ジスタート王に仕えているのかと……ティグルはそうでなく、客将のみである事を伝えた。
「成程、だがジスタートはエリオットめに肩入れしておるはずだが……かの国に七人しかおらぬ戦姫の一人が公式の使者として訪問、滞在中の筈だ」
「時勢も状況も変わるもの……ジスタート王は貴方こそアスヴァールの王になるべきだと判断したのです。外交というものはそういうものでしょう」
「私の兵を打ち倒すのも外交か……」
「我々は己の身を守っただけにございます。交渉の余地も無かったですし」
ジャーメインからの悪意と敵意を浴びながらもティグル達は慣れているので平然としていた。
そして戦姫であるオルガの事を紹介すれば、小柄な見た目のためにその実力を疑われた。オルガは斧を返してもらえれば、この場にいる十人の騎士を倒してみせると言い、これに騎士の一人で体格は良く、身体つきも逞しい者が槍を隣の同僚に押し付けながら進み出て素手での手合わせをオルガに申し出た。
そうして、オルガはその挑戦を受け、素手での手合わせを行うとオルガはその騎士をあっという間に投げ倒したのであった。
「まだ続けますか?」
「……いや、流石はジスタート王国が誇る戦姫だ。お見事」
小柄な少女が自分の背丈を上回る男を悠々と投げ倒してしまうという常識はずれな光景にジャーメインは唖然としつつ、少しの間を置いて手を打ち鳴らし、オルガの実力を賞賛するのであった。
もっともその笑みは引きつり、声にも力は無かったが……。