ティグルはアスヴァール王国に来た目的である第一王子のジャーメインと密使として接触する事が出来た。そうしてジスタート王からの書状を渡したり、偶然、出会った時から同行したオルガの戦姫としての実力をジャーメインに仕える騎士との手合わせで証明する。
「……それでは交渉に戻るが、一つ聞きたい事がある。何故エリオットではなく、私を選んだのだ? つい先日までは奴に味方していたのだろう」
オルガの実力を目の当たりにして唖然としていたジャーメインだが、気を取り直してティグルへと問いかけた。
「エリオット王子が率いている兵の大半は、海賊です」
この大陸において海賊は北の海全域にわたって暴れ回っており、アスヴァールにブリューヌにジスタートも被害を受けていた。
「成程、分かりやすい理由だな。正当性がどうだの言い出したら、そなたらを追い返していたところだ」
ジャーメインはティグルの言葉に頷きながら、感心したとばかりに言った。
「ジスタートにブリューヌが私を支援する見返りとしては私が王になった後の両国との友好、不可侵条約、共同での海賊殲滅、更に対ムオジネルへの支援だったな」
ジャーメインはジスタート王からの書状の内容を振り返りながら言う。
「悪いがこれほどの事となると幾人かに相談しなければならぬ。それまではこの城館近くの屋敷で旅の疲れを癒してくれ」
「陛下のお言葉、ご温情に深く感謝をいたします」
ジャーメインへとティグルは頭を下げる。
「ところでもう一つだけ申し上げたい事が……」
「なんだ? 言ってみるがいい」
「殿下の兵が、民に非道を働いている事についてです」
ティグルはジャーメインに対してはっきりと言い、そうして沈黙が訪れて緊迫した雰囲気が漂う。
「ジスタート、ブリューヌの両軍が殿下を助けるためにこの地を訪れたとして、民の怒りや恨みが我々に向けられるような事があっては困るのです。この地の民は殿下のものでございますが、彼らに兵の区別はつきましょうか」
「……そなたの言い分はもっともだ。こちらも他国の兵に民や村を害されたくはない……分かった。しばらくはそうした行動を改めさせるよう通達しておこう」
ジャーメインは不機嫌ながらもティグルに対し、そう言った。
「殿下のご配慮に、深く感謝いたします」
ティグルは再び、ジャーメインに頭を下げる。こうしてジャーメインとの謁見は終わった。
ティグル達は小さいながらにしっかりとした造りの屋敷であり、二階建てで部屋は多く、どの部屋も綺麗に掃除されていて清潔感がある屋敷に案内される。
ただ、外出は万が一という事があってはならない事とティグル達は公的な使者では無い事から外出を禁じられた。
武器はちゃんと返してもらっているが軟禁状態である。
「マトヴェイ、明日はよろしく頼む」
「私からもお願いします」
「ええ、お任せください」
翌日にマトヴェイには使用人たちをごまかす留守を務めてもらう事でこの屋敷からティグルとオルガは抜け出し、街を見て回るという作戦を立てた。
それが成功したその次の日はマトヴェイが抜け出せる道を探し、逆にマトヴェイに街を見て回ってもらうという作戦も立てているのでマトヴェイは留守の役割を引き受けてくれたのであった……。