ティグルはジスタートのヴィクトール王の命によってアスヴァールの第一王子であるジャーメインに対する密使としての役割を果たした。
とはいえ、ジスタートからの交渉については考える必要があるとしてティグルにマトヴェイ、オルガの三人は城館の近くにある屋敷を用意され、ジャーメインが答えを出すまでそこで暮らす事になった。
しかし、実質的にはティグル達は軟禁状態となった。
屋敷の外ではティグル達が屋敷から外に出ようとした時、止めるためのジャーメインの兵が控えていた。
とはいえ、屋敷を抜け出せない訳では無い。オルガが荷物として縄を持っていた事もあって二階の窓から、ティグルとマトヴェイはジャーメインの兵の目を掻い潜って抜け出した。
マトヴェイには部屋での留守を務めてもらっている。
そんな中、バルベルデの大通りを旅人を装ってティグルにオルガは歩いていく。
「すまない。俺達は旅人なんだがここでの料理は味付けとかされているのか?」
ティグルはジャガイモの露店にてその店主に軽いお金を渡し、味わい方を聞いた。
「ここでは味付けをされた食い物はパンを除けば、港町にでもいかない限りないぜ。自分で味付けをするんだ」
店主はそう言って、地面に筵を広げて小瓶を並べた露店を顎をしゃくって示す。
「左から塩、酢、魚醤、チーズ、辛子、獣脂、蜂蜜だよ」
「ありがとう、ジャガイモを二つ買わせてもらうよ」
「どうも、あ、これはちゃんとチーズで味付けしてあるからな」
ティグルは店主に礼を言いつつ、ジャガイモを買い、別のところでウナギの串焼きを買った。ウナギの串焼き用に塩を買ってふりかける。
そうして、ティグルはウナギとジャガイモを二人分買って、オルガと味わった。
その後は道具屋へと行って、矢と矢筒を購入した。オルガも同じく矢筒一つとそれが満杯になる分の矢を買った。
こうした物を買うのはジャーメインを警戒してだ。ティグルはジャーメインと話した事で彼が信用や信頼ならない人物だと判断している。絶対に何か仕掛けてくると警戒すらしているのだ。
また、タラードについて大通りの者達に話を聞いてみれば元は五千の兵を率いる将軍であったが、ジャーメインに兵による略奪を止める様に言った事で目を付けられ、降格されたとの事だった。
次には小さな酒場へとティグルとオルガは入って、
「ティグル……あまり素性を話さない私を受け入れてくれた事、感謝している」
「どういたしまして。だが、俺としても戦姫の力を借りれて嬉しいよ」
そんな前置きの話をし……。
「……ティグルは王になりたいと思った事はあるか?」
「いや……性に合わないしな」
「私も無かった」
ティグルの苦笑に対し、オルガはそう言う。
オルガは元はジスタートの東部で狩猟と遊牧を生業として暮らす騎馬の民であった。
だが、十二歳の時に竜具であるムマに選ばれ、ブレスト公国の戦姫となったのである。
しかして急に国の統治を治めろと言われても出来る訳では無い。失敗もいろいろした事でオルガは逃げ出し、王とは何かを考え、探し求めるための旅を続けて二年になるとの事だ。
因みにジスタート王国内の公国の多くは戦姫がいなくても問題無いように官僚制になっている。オルガがいなくても一応、統治に関しては、問題無かった。
「私は駄目な王だ……」
「駄目なんかじゃないだろ。ちゃんと改善する意思もあるわけだしな。それに他の戦姫姫に相談するという手もあるから協力するよ」
「どうして、私にそこまで……」
「交流する中でオルガが真面目な性格で善人である事が分かってるからな、それに俺は面倒見が良いんだ」
「それは確かに……ありがとう」
「どういたしまして」
こうして、ティグル達は楽しい食事の時間を過ごして帰り、翌日はマトヴェイに屋敷を抜け出させ、ティグルとオルガはマトヴェイが抜け出したのを悟られないように留守を務めた。
そうして返ってきた時、マトヴェイによるとルクス城砦の守備隊長であるレスターがエリオット側に寝返ったと言った。
「不味い事になっているな」
「はい、唯一、良い事はエリオット王子がムオジネルと組んだ事ですね。我が国と組む事に前向きになるでしょう」
とはいえ、マトヴェイが町で聞いたのは噂話の範囲である。全く逆の話題などもあったとの事だ。
「いつでも動けるように荷物を纏めろ。ジャーメインはどうにも信用できないからな……兵も物々しいし」
夜においてなにやら、屋敷の外にいるティグル達の見張りを務める兵の雰囲気やしぐさなどが妙な事になってきているので襲撃を仕掛けてくると察し、ティグルはマトヴェイとオルガと共に迎え打つための準備を始めたのであった……。