アスヴァールの第一王子であるジャーメインは五十の兵を動員し、密使としてやってきたティグルにマトヴェイとオルガを捕える命令を出した。
ムオジネルの使者を呼び、エリオットとの関係を切り、自分と手を結ぶように取引するためである。
『月光の騎士』に戦姫一人ならムオジネルがこちらにつく可能性は高いとジャーメインは考えている。そもそもムオジネルはジスタートと戦っている時に背後を脅かす存在を求めているのでエリオットが絶対という訳でもないとも考えていた。
ティグル達に危害を加えるのはブリューヌとジスタートを敵に回すことだが、ブリューヌは内乱からまだ半年で国内は安定していない。ジスタートもアスヴァールに対応する前にムオジネルに対応しなければならないのでそう簡単にアスヴァールに対して動けないという判断もしている。
そもそも、ティグル達に手を貸せば三つの国の兵がうろつく事になるのでそれが許せなかった。更には個人的にティグルはこの国に似つかわしくない寛容さを持っていた父王を思い出すのでそれも気に入らなかったのである。
こうして、ジャーメインの命を受けた五十の兵は太り気味の三日月が空高く昇った頃にティグル達のいる屋敷へ向かった。甲冑を身に着け、腰に剣を下げており、五人につき一本用意していて、十を数える炎が闇の中に揺らめいていた。
この部隊の隊長が裏手に十の兵を送り、それから正面を二十の兵で固め、残った二十の兵を屋敷の中へと送り込んだ。
ティグル達が二階の奥の部屋にいる事は使用人から聞いて知っている。剣を抜き放って階段を駆け上がって廊下を走り、目的の部屋の扉に肩から体当たりをし、扉をぶち破る事で室内への侵入を果たした。
「ふっ!!」
そんな彼らを出迎えたのはオルガが振るう斧の竜具のムマによる轟斬だ。更に闇夜の室内に潜んでいたティグルが矢筒から五本の矢を抜いたかと思えば超高速で弓に番え、弦を引き絞って矢を放つ。その速さは弓弦の音が一度しか聞こえないのに五本の矢が飛来し、兵に突き刺さる程の隔絶したものであった。
『う、うわあああっ!!』
ティグルが遠距離から矢で狙撃し、近距離ではオルガが暴れるという遠近それぞれ優れた者が得意な戦法で挑む事でティグル達を襲おうとした兵は全滅した。
「良し、じゃあ打ち合わせ通りにジャーメインを人質にするぞ」
こうして、まず窓の下で控えるジャーメインの兵十人に対して元々、常人よりも優れに優れた夜目もあるが、松明の火を目印にティグルが優れた弓の技で狙撃し、その間にオルガが窓から縄を伝って地上に降りる。そうして、残りの兵をオルガが蹴散らす。
そして、次にマトヴェイが、次にティグルが縄を伝って地上に降りた。
ジャーメインがいる城館まではまっすぐ進むだけで良い。そうして、城壁の前まで辿り着く。
「下がっていて」
オルガはムマを振り上げ、淡い燐光を纏わせるとオルガの周囲の地面がうなりを発して振動し、地の底から突き上げられたかのように音高く弾け、無数に隆起すると鋭い先端を持つ大地の柱が幾つも屹立していき、細かな石礫が空中を漂い、光の粒子の渦となってムマに吸い込まれていく。
そうして、ムマは形を変え、柄が倍近くに伸び、刃は二回り以上大きくなった。
「
オルガは巨大になったムマを振り下ろし、城壁を破壊した。
するとムマは元の大きさに戻った。
「急ごう、兵が集まってくる前に」
「ああ」
「……アレクサンドラ様にもあのような力があるのでしょうか……」
息をついたオルガの意見にティグルは頷き、マトヴェイは唖然としながら呟いた。
オルガが破壊した城門を通り、城館の後手へと回り込む。そうして見張りとして部屋の前に立っていた二人の兵の一人をティグルが狙撃し、もう一人をオルガが切り伏せながら兵士の懐を探るなどして鍵を手に入れ、扉を開けて中に入る。
「ありがたい事に別の奴が内乱を起こしているようだな。想像はつくが」
「誰ですか?」
「タラードだよ」
狩人として鍛えた耳が戦いによる金属音や悲鳴などを聴いた。そうして、ティグルはオルガにティグルは確信している内乱を起こした者の名を告げる。
実際、謁見の間へと行くと……。
「兵を差し向けられたから、意趣返しに人質にしようと思ったんだが手間を省いてくれたようだな」
「そうだったのか……ヴォルン伯爵、色々と話したい事があるんだが聞いてもらえるかな?」
「良いだろう」
謁見の間ではタラードとクレスディル、二人の部下である兵士たち、そして玉座に座ったままに切り裂かれて死んだジャーメインであった。
そうしてティグルとタラードは今後の事について話を交わす事になったのであった……。