ティグルは自分達を捕え、ムオジネルを味方につけるために取引材料としようと兵を差し向けたジャーメインに対して逆に人質にする事でアスヴァールから逃走しようと行動を開始した。
差し向けてきた五十の兵に対して迎撃しながら、軟禁状態にあった屋敷を脱出してジャーメインの城館へと向かった。オルガが自分の竜具であるムマの竜技を使って、城壁を破壊した城館の中に入った。
すると丁度、城館内ではタラードがジャーメインに反旗を翻しており、ティグルがジャーメインの元に向かえば、タラードの剣によって切り伏せられた直後であった。
こうして、話をする事になったが一旦、城館の三階の客室へとティグル達は通され、夜明けまで休むように客室まで案内したクレスディルに言われたのでひとまず、毛布を三人分貰って、クレスディルが火を入れた暖炉の前で固まると温まりながら気を休めた。
「待たせたな」
夜明けになるとタラードがクレスディルを伴ってティグル達のいる客室に入り、部下に椅子を運ばせる事でティグル達と向かい合うようにして座った。タラードの後ろにはクレスディルが、ティグルの後ろにはマトヴェイがそれぞれ立つ。
「さて、どこから話したものかな。そうだな、何を聞きたい?」
「その前に反乱の成功、おめでとう。上手くやったな」
「ありがとう。ずっと前から機会を伺っていてようやく、絶好の機会が舞い降りたからな。ティグル殿たちのお陰もあるからこちらこそ、礼を言おう」
「どういたしまして……じゃあ、本題に入ろうか。これからタラード殿はどうするつもりか?」
「ジャーメイン王子に代わってティグル殿たちと手を組みたい。ジャーメイン王子との取引の条件はどうなっていた?」
タラードの質問に対し、ティグルはジャーメインへとヴィクトール王が持ちかけていた条件を教えた。
「……ティグル殿、俺も出来ればおおむね、その条件でジスタート、ブリューヌと友好を結びたいのだが良いかな?」
「おおむねとはどの程度だ」
「我々への支援についてだ。軍だの船団だのはいらない。あんたと隣の戦姫殿に協力してもらいたい。兵を率いて戦場に立ってもらいたいんだ。そうしてエリオットを討ったら、アスヴァール王国としてジスタート、ブリューヌの両国と正式に友好を結ぼう」
「今、そちらの戦力は?」
「すぐに動かせるのは三千だ。歩兵が七百、騎兵が二千、傭兵が三百」
「騎兵が多いのは大したものだ」
「ああ、だがエリオットの兵力は二万から三万だと聞いている」
「数でみれば十倍だが、向こうの兵力の大半は海賊……勝機はあるな」
「ほう、心強い言葉だ。それにやはり、鋭い」
ティグルの言葉に対し、タラードは瞠目しながら笑みを浮かべる。
「それで、兵を率いて戦場に立ってほしいと言ったが、報酬はあるんだよな?」
「勿論。領土は差し上げられないが、それぞれに金貨を五袋、用意しようと思っている。マトヴェイ殿も戦場に立ってくださるなら金貨を三袋お支払いしよう、そしてティグル殿には見合う称号を「いや、称号は別に構わない」そうか……」
称号の話をティグルは断る。
「後は……エリオットに囚われているソフィーヤ=オベルタスを保護し、貴方にお渡ししよう」
「……エリオット王子にしてやられたのか。ジャーメイン王子が俺達に対してやろうとしたようにムオジネルへの取引材料になっている訳だ。いがみ合っていたとはいえ、そうしたところは兄弟なんだな」
「まったくだ……ソフィーヤ殿に関しては貴重な人質だから粗雑に扱う事は無いだろう、十日前の情報では無事だった」
「タラード殿、エリオット王子にジスタートはジャーメインやタラード=グラムに味方していないと思わせたいから、エリオット王子との決戦直前まで俺達の名前は公にしないでほしい」
「分かった。俺の名にかけて明かさない事を誓うし、そのような噂が出たら即座に否定もしよう、それでよろしいかな?」
「俺達三人が貴方に協力する点についてはそれで良い。だが、ジスタートとアスヴァールとの契約に関してはエリオット王子を討った後、協議を重ねて調整していきたい。ジャーメイン王子との契約をそのまま使う訳にはいかないからな」
「承知した。これで成立だな、よろしく頼む。伯爵」
「ソフィーヤ殿の件、くれぐれもよろしくお願いする」
握手を求めたタラードのそれにティグルは応じる。ソフィーヤを助けるのはジスタートの客将となっている彼にとっては立場としても個人的な関係としても当たり前の事だ。
「(内戦を片付けたと思えば、別の国の内戦に関わる事になるとはな)」
自分を取り巻く運命に対してティグルは内心、苦笑を浮かべるのであった……。