魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

89 / 94
八十八話

 

 ジスタート王国において第一王子のジャーメインと第二王子のエリオットは対立であり、内戦をしていたが状況が激変した。

 

 ジャーメインに仕えていた元将軍のタラードが反乱を起こし、殺した事で地位を簒奪したのだ。その時、ジャーメインはティグル達を捕虜にしながらムオジネルへと身柄を渡し、エリオットに協力しているムオジネルを自分の方に寝返らせようと兵を動かしていたので守りに隙があったのだ。

 

 更に言えばティグルはジャーメインを警戒していたので差し向けていた兵を撃退しながら、逃亡するための人質にしようとしていたがその手間が省けた。もっともジスタート王からの命は完全に果たせなくなったが……。

 

 しかし、ティグル達はタラードとこのまま協力してエリオットと戦う事になる。何故なら、エリオット側へと交渉に向かったジスタートの戦姫の一人で外交役を務める事が多いソフィーヤが捕虜となってしまっているからだ。

 

 エリオットがムオジネルを味方につける事が出来たのはソフィーヤの身柄を渡すという取引を交わしたからである。

 

 そうしてひとまず、詳しい軍議をするために会議室へと向かう。

 

 会議室は客室より、一回り小さい部屋で窓と天井が無く、部屋の四隅に立っている燭台の灯りと吹き抜けの空から射し込む陽光が室内を照らしているという環境。

 

 中央には巨大な机が置かれ、その上には様々な大きさに地図や軍を表しているいるのだろう駒があった。壁にも何枚もの地図が置かれている。

 

 そして、会議室にはティグル達が入る前に一人の男がいた。三十代前半であり、ティグルとはやや色合いの違う赤い髪に温和そうな青い瞳、容姿、体格共に平均的。

 

 鎧はつけず、腰に剣を下げているだけの軽装である。

 

 

 

「ルドラーだ。この男をあんたにつける。役に立つ男だから、使ってやってくれ」

 

「バイルド=ルドラーと申します。ヴォルン伯爵、数々の武勇伝を持つ貴方と共に戦える幸運を、嬉しく思います」

 

「賞賛ありがとう。これから共に戦う者としてよろしく頼む」

 

 

 タラードがルドラーを紹介し、そうしてティグルは彼と握手を交わした。

 

 そうして、クレスディルが今のジャーメイン側の状況について説明を始める。

 

 このバルベルデの北西にルクス城砦があり、ここを守るレスターは一昨日、エリオット側に寝返ったとの事。

 

 タラードによるとレスターは剣技も兵の指揮もかなりのものだが、好みの若い娘を見つけると攫って城砦へ連れ帰ってしまう男であるという。タラードとはよく衝突していたとの事。

 

 レスターが寝返った理由についてはエリオットが領地か爵位をちらつかせたのだろうとの事だった。

 

 そんなエリオットの船団はバルベルデから北上し、沿岸にあるマリアヨの港町の沖合で待機しているという。

 

 ソフィーヤもこの船団の船のどれかに捕らわれているとの事。

 

 そうして、今後の事だがタラードは三千の兵で守られているルクス城砦を三千の兵を預けるので攻め落とせと頼んだ。

 

「いきなり、難しい事を頼んできたな」

 

 当たり前だが、攻城戦に攻砦戦は難しい。守る側の方が有利なのである。少なくとも普通に攻め落としたいなら、三倍の兵力で攻めるというのが基本の戦法である。

 

「(やれない事はないがな)」

 

 黒弓、オルガの竜具があれば砦の壁や門を破壊して乗り込む事が出来る。もっともアスヴァール側にそうした力があると知らせたくないので本当に最後の手段として、なるべく温存する事を考えているが……。

 

 タラード達はティグルが攻めている間に一万程兵をかき集め、砦を獲ったティグルと合流してエリオットを討つという。

 

 エリオット側が抑えているアスヴァール島の状態は全て把握しているので襲撃は可能との事。そうして、王都コルチェスターを攻めるふりをする事で戻ってきたエリオットを待ち構え、奇襲する事で討ち取る事をタラード達は考えていた。

 

 

 

「それで三千の兵はすぐに動かせるのか?」

 

「今すぐというなら、半刻後には発てる」

 

「良いな、そういう事ならルクス城砦に向かう」

 

 マトヴェイとオルガに目配せすると会議室を出ようとして……。

 

「ヴォルン伯爵、少し話をしたいんだが良いか?」

 

 こうしてティグルはタラードと二人で屋根の裏側へと行き、ちょっとした広さを持つ円形の足場に到着する。そこには弓と矢も置かれていた。

 

 

 

「俺はアスヴァールの王となって、アスヴァールの人々が平穏に暮らせるようにしたい。どうか、協力してくれティグル殿」

 

 円形の足場からはバルベルデの町が一望出来た。そして、町を見、ティグルを見てタラードは言う。

 

「俺もアルサスの町を守るために内戦に挑んだからな。良いだろう、だが貸し借りで言うならこっちの方が貸しはでかくなるからな。お前を王にするんだから」

 

「ふふ、あぁ……ちゃんと借りは返させてもらう」

 

 ティグルとタラードは握手を再び交わす。

 

 その後、ティグルはタラードが用意していた二本の矢の内の一本を渡され、黒弓を上空に向けて矢を番えて引き絞る。タラードも足場に置いてあった弓を手に取り、同じく上空に向けて矢を番えて引き絞る。

 

 そうして互いに矢を上空へと放つ。二人は矢をどちらが高く飛ばせるかの勝負を始めたのである。

 

「俺の勝ちだ」

 

「まさか、こうも差があるとは……ヴォルン伯爵、あんたの事をこれからはティグルヴルムド卿と呼んで構わないだろうか?」

 

 ティグルの矢がタラードの矢よりも高く飛んだ事でタラードは参ったとばかりに苦笑を浮かべつつ、名前の呼び方について尋ねる。

 

「好きに呼べ、呼びにくかったらティグルで良い」

 

 ティグルはそう答えると半刻後、マトヴェイにオルガ、ルドラーと共に三千の兵を率いてルクス城砦に向かうため、バルベルデを発ったのであった……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。