魔弾の王は戦姫と英雄譚を紡ぐ   作:自堕落無力

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八話

 

 ジスタート王国の南東にある公国の名はライトメリッツ公国であり、この国を治めるのは戦姫が一人、エレオノーラ=ヴィルターリアである。

 

そのライトメリッツ公国にティグルと彼の妻であるティッタはエレオノーラとの関係を深めるため、訪れる事になった。

 

 エレオノーラからは『アルサスで歓迎してもらったようにティグルとティッタが『新婚旅行』気分で楽しめるようにしてやる』と告げられてもいる。

 

 もっともテナルディエとガヌロンの権力争いの結果次第ではアルサスも争いに巻き込まれる事になるし、アルサスを留守にするのが長くなれば、なるほどつけ入る隙を与える事になる。

 

 ライトメリッツに滞在できる日数は短い。まあ、様子を見て短い滞在を繰り返すという形になるだろうか……。

 

 

 

 ティグルとティッタはライトメリッツに入り……。

 

「おお……流石は国というだけあって賑やかだな」

 

「ですねぇ、凄いです」

 

 ライトメリッツ公国の城下町――立ち並ぶ家々は石造りで屋根は黒か褐色出来ている物が多い。街路は大型の馬車でも楽に通れそうなほど広い上、石畳できちんと舗装されていた。

 

 罅の一つも当然、無い。

 

 そんな町で旅人や市民、商人や役人、職人など様々な人々が行き交っており、通りには幾つもの露店が軒を並べている。

 

 主婦たちは寄り集まって談笑し、商人は声を張り上げ、通りの角では吟遊詩人(ミネストレーリ)三弦琴(バラライカ)を弾き鳴らしているなどティグルが治めるアルサスよりも活気があり、賑やかであった。

 

 ティグルもティッタも城下町の様子に目を惹かれた。

 

 

 

「ふふ、気に入ってくれたか?」

 

「ああ、こんなにも町に活気があるのは治めている主の統治が優れている証だからな。それに暮らしやすそうで良い」

 

「そうかそうか」

 

 ティグルの感想にエレオノーラは快活な笑みを浮かべて言う。そうして、五百アルシン程進み、なだらかな坂を駆け上がれば……。

 

「ここが私の公宮だ」

 

 エレオノーラの公宮が見えた。当然、ティグルの屋敷よりも遥かに大規模である。

 

 そうして、エレオノーラの公宮に入った後……用意された部屋でティグルとティッタは移動の疲れもあるからと休憩をするよう言われたので休憩する。

 

 

 

「ティグルヴルムド卿……よろしいでしょうか?」

 

「ああ、良いぞリム」

 

 少しすると扉を叩く音共にリムアリーシャから声をなげかけられたのでティグルは扉を開けた。

 

 因みにアルサスでの交流によってティグルはリムアリーシャからもエレオノーラをエレンと呼ぶように、彼女をリムと呼んでも良い許可を取っている。

 

「エレオノーラ様から、ティグルヴルムド卿の『弓の腕を兵たちに見せてやってほしい』と」

 

「分かった」

 

 

 ティグルはすぐに持ってきた長弓と矢筒を装備する。

 

「そういう訳だからティッタ……俺の実力を見せてくるよ」

 

「はい、ティグル様気をつけて……」

 

 ティッタを軽く抱き締めながら、言葉をかけると部屋の前で待つリムアリーシャの元へと行く。

 

 

 

「じゃあ、案内頼む」

 

「はい」

 

 そうして、鍛錬場へとリムアリーシャの案内によって移動するティグル。

 

「エレオノーラ様、ティグルヴルムド卿をお連れしました」

 

「ご苦労、リム。ティグル……いけるな?」

 

「ああ、問題無い」

 

 鍛錬場にはエレオノーラがいて、周囲には彼女の部下である将と兵士たちがいた。

 

 そうして、ティグルは幾つか置かれた弓の訓練用の的から八百アルシン離れた位置へと移動する。

 

 

 

「じゃあ、始めろ」

 

「しっ!!」

 

 エレオノーラの指示と共にティグルは弓を構えて矢を番え、弦を引き絞って迷いなく矢を放つ。それは当然の如く、ティグルが狙った的の真ん中を射抜く。

 

「ふっ!!」

 

 次に矢筒から矢を複数抜き取り、そのまま素早い速度で連射する。これもまた、狙った幾つかの的の真ん中を射抜いていった。

 

「はっ!!」

 

 複数の矢を一度に番え、そうして矢を放つ。放たれた複数の矢はこれも複数の的の真ん中を……動きを入れながらや視線は的から明後日の方向を見ながら、矢を放って的の真ん中を射抜く。

 

 次々に曲芸染みていたり、神業としかいえない弓の技をエレオノーラの部下である将と兵士たちに見せていく。

 

『……』

 

 ティグルの超絶な弓の腕を目の当たりにしてライトメリッツ軍は全員が驚愕し、絶句する。

 

 まず、大陸では弓の最大射程は二百五十アルシン(約二百五十メートル)とされている。それもただ飛ばすだけならという条件が付く。

 

 そんな常識を弓を蔑視し、嫌うので有名なブリューヌ王国の者であるティグルが覆してしまったのだ。

 

「(……ああ、なんて素晴らしい……)」

 

 そして、ティグルの弓の腕に魅了された者がいる。ライトメリッツ一の弓の使い手であり、二百七十アルシンまで矢を飛ばす事が出来、ジスタートの王都シレジアで行われた弓術の大会でも優勝した男、艶のある黒髪を肩まで伸ばしている優男然とした顔だちのルーリックである。

 

 三百アルシンまで飛ばせるようになることを目指し、その時はジスタート一を名乗ってやろうかとまで思っていたルーリックはそんなのは自分の思い上がりであり、井の中の蛙である事をティグルによって思い知らされたのだ。

 

「こんなところで良いか?」

 

「ああ、十分だ」

 

 ティグルとエレオノーラのやり取りを見……。

 

「この私に貴方の弓をお教えくださいっ!!」

 

 ルーリックは一番にティグルに弓の指導をしてもらうよう、仰いだ。

 

 彼はティグルを弓における生涯の師として弟子入りする事を望む。勿論、彼がライトメリッツにいる間は世話係になる事も辞さない。

 

「俺もよろしくおねがいしますっ!!」

 

「俺もっ!!」

 

 そうしてライトメリッツの弓兵たちが次々とティグルに指導してもらうよう頼む。

 

 

 

「ふふ、人気者だな……頼めるか?」

 

「勿論」

 

『ありがとうございます!!』

 

 こうしてティグルは鍛錬終了時刻となる夕方までの間、自分に指導を仰ぐ者へ自分も弓の鍛錬をしつつ、指導をしたのであった。

 

 その後、夕食をとったりして……。

 

 

 

 

「じゃあよろしく頼む、リム」

 

「こちらこそ」

 

 ティグルはエレオノーラの許可の元、ジスタートの歴史やエレオノーラによる政務の記録、軍記に兵法をリムを先生として学ぶ事にして自分に与えられた部屋にて勉強を始めた。

 

「……今日はここまでで良いでしょう。お疲れ様でしたティグルヴルムド卿」

 

「ああ、リムもな。本当に良く分かりやすかったよ」

 

「私としても教え甲斐がありましたから」

 

「それは光栄だ。明日もよろしく頼む」

 

「ええ、喜んで」

 

 夜も深くなろうという時間まで勉強した二人はそれで止め、最後には微笑み合ってリムは去って行く。

 

「それじゃあ、寝ようか」

 

「はい、ティグル様」

 

 お茶を出すなどティグルとリムの勉強をサポートしていたティッタにティグルは言い、そうして寝台に一緒になって眠る。

 

 

 

 

 

 

「さてと……」

 

 まだ夜明けになるまで大分時間がある時間帯にティグルは起き上がり……ティッタを起こさないように静かに寝台から抜け出すと鞘に納めた剣を佩いて鍛錬場へと行く。

 

「ふっ、しっ……」

 

 そうして鍛錬場で鞘から剣を抜き、振るい始めた。

 

 しばらく鍛錬していると……。

 

 

 

「お前が強くなった理由が良く分かるな」

 

「エレン……随分、早起きだな」

 

「冗談にしては笑えんぞ……まあ、良い。せっかくだ。一緒にやろう」

 

 エレオノーラに声をかけられたので苦笑すれば、溜息を吐かれて呆れられる。そんな彼女は木剣を二つ持っていたのでティグルは彼女の意図を察した。

 

「今回は私が勝つからな」

 

「いいや、今回も俺が勝つ」

 

 そうして、二人は木剣にて戦闘を始めた。互いに縦横無尽に動き回りながら、激しく鋭く流麗な舞いとしか思えない動きにて剣を振るい、技と駆け引きを応酬する。

 

「うっ!! 参った」

 

 そうして、ティグルの剣撃がエレオノーラの剣を弾き落とし、直ぐに首に剣を突き付けた事でエレオノーラは降参した。

 

 

 

 

「さて、私はこれで寝る事にする。お前ももう寝ろよ……それとな、ティグル」

 

 エレオノーラはティグルに言いながら、近づき……。

 

「私はお前に会えて楽しく思っている……こうして、私の国に居てくれている状態もな」

 

「俺もお前の国に招待されて良かったと思っているよ。ライトメリッツは気に入った」

 

「そうか……」

 

 エレオノーラはティグルを抱き締め、そんなエレオノーラをティグルは抱き締め合いながら言葉を交わす。

 

「ふふ、やってみると存外良い物だな。男との抱擁も……いや、お前だからか」

 

「そう言ってもらえるのはとっても光栄だな」

 

 そんな言葉を交わすとどちらともなく離れる。

 

「じゃあ、おやすみティグル」

 

「ああ、おやすみエレン」

 

 そう挨拶を交わしてエレオノーラは去って行き、ティグルも鍛錬場から自分の部屋へと戻るのであった……。

 

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