アスヴァール王国の第一王子であるジャーメインを殺し、その座を奪還したタラードと協力する事になったティグルはマトヴェイにオルガ、そしてタラードから傭兵三百を含めた三千の兵とタラードの部下のルドラーと共にジャーメインに仕えていたが、裏切ってエリオット側に付いたレスターを城主に三千の兵で守られているルクス城砦を攻め落としに向かう事になった。
先ず指揮系統の混乱を防ぐためと味方の指揮を下げないためにアスヴァール人の兵士たちの総指揮官はルドラーに任せ、ティグルにオルガとマトヴェイはタラードの親しい友人で客将という事にした。
だが、それとは別に自分が動かせる部隊は欲しい。そして丁度、タラードから与えられた兵の中には三百の傭兵部隊がいる。
その傭兵部隊を束ねる男はサイモンと言い、年齢は今年で三十、傭兵の部下達は誰もが認める歴戦の傭兵である。中背だがその肉体は傭兵生活で鍛えられているので中々、逞しい。
その上にあるのは短い黒髪と鋭い目つき、顔としては十代と言っても通じるような童顔、左頬には大きな戦傷があった。
そんなサイモンの幕舎へとティグルは向かって行き、そうして中に入る。
「何の用だ?」
幕舎を訪れたティグルを傍にいる二人の傭兵と共にサイモンは威圧する。傭兵というのは舐められたら終わりな世界で生きている。それに相手を威圧するのは雇い主の実力を図るためにも必要な手段であった。
「挨拶の前にブリューヌ話は分かるか?」
「当然。あらゆる国の言葉に精通していなきゃ傭兵はやっていけないからな」
「失礼……傭兵のあなたたちに魅力的な提案があるんだ。あなたとあなたが率いている傭兵三百を俺の指揮下に入れたい。ルドラー殿の許可は取ってある。報酬はタラード卿が支払っているものに加え、一日あたり銀貨一枚、五十人以上を統率している者は銀貨二枚、百人以上を統率している者は銀貨三枚。あなたには銀貨五枚を約束する。どうだろうか?」
ティグルは自分の命で従えられる兵を求めていたので傭兵部隊がいるのは丁度良かった。
傭兵の仕組みというか相場についてはエレンからも聞いているので提案としては十分な物を提案したのだ。
「どうして俺達なんだ? ルドラーに言って、アスヴァールの兵を借りれば良いだろう?」
「俺が必要とするのは命令が正しいと判断したら多少の危険は厭わず突き進んでくれる兵だ」
「あいつらの忠誠心は中々のもんだと思うがな」
「タラード卿の友人というだけで異国の人間、良く知らない人間に兵が命を預けてくれるとは思えないからな。士気だって違ってくるだろう」
サイモンに対してティグルはそう返答した。
「俺達なら言う事を聞くと?」
「アスヴァール兵と比べて、金で信頼に信用をつなぎやすいし、異国の人間が指揮官でも問題にならないからな」
「話を聞こう。あんたの提案が納得できる物ならさっき言った値で従ってやる」
「その前にもう一つ、提案しよう。俺は弓の腕に自信があってな。貴方の部隊から弓が得意な者を五人選んでくれ。弩は無し、弓だけの勝負で一人でも俺より矢を遠くまで飛ばせたら、さっき言った手当てに銅貨を十枚ずつ上乗せする」
「良いぜ、乗った」
こうして行軍の合間の休憩で傭兵たちと弓の勝負を行い、ティグルは凄まじい弓の腕を披露する事で敬意を抱かせ、傭兵たちの信用に信頼を勝ち得たのだった。
そうして、夜営においてはティグルとマトヴェイ、オルガの三人に与えられた天幕の中で……。
「ありがとうな、オルガ。このほうが無駄な緊張をしなくなるし落ち着くんだ」
「それは私もだ、ティグル」
横になる時、ティグルはオルガを背中から抱擁し、彼女の温もりを得ながらお礼を言うとオルガも顔を赤らめつつ、ティグルの抱擁に身を任せるのであった……。