ティグルはルクス城砦を攻めるのにおいて、自分の手勢となる部隊を欲した。
タラードから与えられた軍の中にいるアスヴァール兵ではそもそも、ティグルは異国の者なので心から従う事は人間的な感情からしてあり得ない。しかし、三百人だけザクスタンにアスヴァールにブリューヌ、ジスタートと異国の者達で構成された傭兵部隊がいたのでその隊長のサイモンと交渉して自分の部隊に出来た。
そして、ティグルはブリューヌの内戦において万の軍勢を指揮したが、彼個人で言えば数百を指揮するのが性に合っているのだ。
自分が指揮できる部隊を手に入れながら、残りのアスヴァール兵の指揮をしているルドラーと共に数日間かけてルクス城砦へと向かう。
その中でティグルは周辺の村や町で領民を雇う事を提案し、その理由として疑兵であり、ルクス城砦のレスター軍を揺さぶるため、更にはルクス城砦を攻めるときに陽動に使うためだと説明した。
「良い考えです」
こうして、周辺の村や町で千八百人の疑兵を集める事に成功した。
また、ルクス城砦は城壁の高さが十二アルシン(約十二メートル)だと聞き、攻城用の梯子の高さは六アルシンで意味がないので先端に鉤を結び付けた縄を用意し、弩用の太矢に縄を括りつける事でティグルも含めて弩の扱いに長けた傭兵によって、届かせる事をティグルは思いつく。
「良し、悪くない」
「ああ、良い感じだ」
いけるかどうか実験も行って確かめた。
そうしてティグル達は黒い岩を積み上げて築き上げた堅固な造りのルクス城砦の南に辿り着く。五百アルシンほどの距離を保って幕営を築いた。
ルクス城砦は濠は無いが、高い城壁に北に二つと南に一つの城門、南側が正門で分厚い鉄板に樫の板を挟んだ頑丈な作りだ。北側にある裏門は二回りほど小さく、鉄板も一枚だ。そして、裏門のすぐ隣にある第二の門は門というより、鉄の扉と呼んでも差し支えない大きさである。
更に城砦の北には黒々とした森が広がっていた。
この城砦を実際に観察するとティグルは襲撃は夜明け前とし、千八百の疑兵に声を上げさせて威嚇させつつ、ルドラーと千二百の部隊で正面からの攻撃を行わせる。それと同時に別の五百の兵で十中八九、対策はされているが地下水路へと奇襲もさせる事とした。
ルドラーの部隊でレスター軍の気を引くうちにティグル達が西の城壁を乗り越えて北にある裏門を開けつつ、事前に疑兵で陽動しながら、森に潜ませた千のアスヴァール兵を突入させる作戦を考えたのだ。
「私が使者として城砦へ赴きたい」
全体的な作戦が決まろうとしたところでオルガはレスターがオルガくらいの年齢の娘が好みだと聞いた事で潜入からの暗殺を提案した。
「駄目だ」
ティグルは危険性が高いので拒否したが夜になるとマトヴェイと共にオルガは姿を消していた。マトヴェイを怒らないでほしいという手紙を残して……。
「まったく」
ティグルは頭を抱え、溜息を吐く。
ともかく、作戦通りにルクス城砦を夜明け前にティグル達は攻めていく。
「ふっ!!」
西の城壁に回ったティグル達……。
「ふっ!!」
ティグルはタラードに頼んで普通の弓兵よりかなり多い矢と矢筒を用意させており、そうして城壁を守るレスター軍に対して複数の矢を番えながらの超速連射や超速同時射劇などをして矢を群れの如く放って次々と射抜く事で用意した縄を弩で届かせつつ、それで城壁を登る傭兵部隊を助ける。
こうして、傭兵部隊が城壁に登ってレスターの兵たちを蹴散らしたところでティグルは持ち運べるだけの矢筒と矢を携帯しながら、黒弓を肩に担ぎつつ、縄を伝って軽々とした動きで自分も登っていく。
「いくぞおおおおっ!!」
『うおおおおっ!!』
城壁に登り切ったティグルは自分が作った片手で振るえる片刃の剣を舞い躍らせながら、レスター兵を切り裂きながら北へと城壁上を傭兵部隊を率いて進んでいく。
「降りるぞ」
北門の上へと辿り着いたのでティグルは先陣として縄を掴んで地上へ降り立ち、向かってくるレスター兵を剣の舞で切り裂いていった。これに傭兵部隊も続き、門を開ける事に成功して森に潜みながら待機していたアスヴァール兵が乗り込んでくる。
その後、ティグルは傭兵部隊と共に城砦の中に入り、レスターのいる最上階の城主の部屋を目指すが守備兵たちが追い付く。
「すまない、サイモン。足止めしてくれ。無論、報酬は上乗せする」
「指揮官の首の報酬を譲るならな」
「オルガが討ち取っていなければ、良いだろう」
サイモンとそう会話を交わすと彼は傭兵部隊と共に守備兵の相手を務め、ティグルは最上階の部屋へと向かっていくのであった……。