ティグルはルクス城砦に籠る事で二万以上の海賊を率いてやってきたエリオットの相手をする事になった。
まずは罠に嵌めるため、城門は閉じているが、栓をせず、城壁には軍旗を掲げず、兵士も立たせず、完全に無人の状態にしたのである。
「犠牲に出来る兵がいるのは便利だよなぁ」
罠に嵌めれはしたが、思った以上の戦果にはならなかった。良くも悪くも死んでも良い海賊を大量に用いて罠かどうかなどを探れるのは厄介ではあった。
そうして、五十人以上の海賊を罠に嵌めた後は雪崩れ込まれないように完全に城門を閉じて完全なる籠城をする。
しかし、勿論本当に籠城戦をする気はない。なので、今度は軍旗を掲げたし、海賊たちが城砦を包囲しているのに対し、兵たちと城壁の上で守る体勢をぎりぎりまで見せたが、海賊たちが帆柱を作るようなやり方で森の木々を加工するのを見ると地下水路から智稲岡の麓へと脱出しながら地下水路に毒を放ったし、地下道も崩した。
そうして、本来エリオット軍の相手をするために選んだサリエンテスの野に向かった。
ルクス城砦から南へ一刻と少しばかり歩いたところにあるところで起伏のゆるやかな草原が広がる一帯でこの季節には色褪せた緑色と枯草の黄色、土色のまだら模様に染まる場だ。
その中でわずかな隙間を埋めるように
東には小高い丘が点在し、天気の良い日に丘の上に立って北を見れば、森を背にそびえるルクス城砦の威容を確認する事が出来るのである。
実はエリオット軍が来た時にはティグルにオルガ、マトヴェイに二百の兵しかいなかったが残りはエリオット軍の数を恐れて逃げ出したと見せるために様々な方向に人の足跡、馬の足跡、軍旗などを散らす工作をさせながら、サリエンテスの大小二つ連なっている丘の大きい方に登って野営をさせた。
勿論、それも見せかけである仕掛けをしながらだが……。
そうして、翌朝に二万を超える軍でエリオットはティグル達を滅ぼすべく進軍してきた。
五千の海賊と長弓隊とティグル達は知る由も無いが、エリオット軍のために食糧と水を運んできたムオジネル人の軍、六千が本陣を築きつつ、それぞれ五千の海賊による四部隊がティグル達がいる丘の野営地を目指して突撃する。
『い、いないっ!?』
しかし、野営地に突撃していくと藁人形に兜と鎧、槍を持たせたものが多数いるだけで後は食糧も何も無く、燃やすための木々などが転がっていた。だからこそ、気づく。
これは罠だと……そうして海賊たちの後ろで火がつけられた松明が投擲され、それはばらまかれた油を燃やし、その炎は野営地を辿り、激しく野営地を大炎に包んで海賊たちを燃やした。
そうして……。
「て、敵襲だぁぁぁぁっ!?」
エリオットの本陣から海賊が放たれたのを見計らって、すぐにティグルは方々に分けて潜ませていた部隊を持って、全方向から三千の軍で突撃する。
大量の兵で襲っていると見せかけるために兵には多めの軍旗を持たせながらだ。
「はああっ!!」
ティグルは馬を巧みに操りつつ、黒弓に複数の矢を番えて弦を引き絞り、矢束をエリオット軍に放つ。
「うぐあっ!!」
長弓隊もなんとか抵抗をしたが、ティグルは矢を放って打ち落とし、オルガも斧の竜具であるムマを操り、打ち払い、そうして攻め込んでいき、更にティグルは超絶的な超速連射で長弓隊を率いるハミッシュを射抜いた。
そうして次々に本陣を進んでいき、逃げるエリオットを見つけたので彼の操る馬の頭を射抜き、馬ごと地面に倒れさせる。
「奴を捕らえろ」
ルドラーが素早く兵たちに指示をした。ティグルはオルガと共に本陣を探して行き……。
「もう大丈夫だ、ソフィー」
「……ティグルヴルムド卿……?」
とある天幕の中で両腕に鉄の枷をはめられ、それに鉄球付きの鎖が伸びているという拘束状態であったソフィーヤに歩み寄り、優しく声をかける。ソフィーヤはティグルがいる事に戸惑いながら、次の瞬間に彼女の瞳が潤んでいき、大粒の涙が溢れて頬を伝い、勢いよくティグルへと迫り、そうして抱き着いて来た。
「良く頑張ったな」
ティグルはソフィーヤを優しく抱き締め、背中を撫でて彼女を安心させる事に務めるのであった……。