魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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少し前から読み始めた作品とのクロスSS。

続けるかどうかは不透明ですが、とりあえず反応次第ということでお送りします。


プロローグ

 

 

その日を今でも覚えている。

 

自分の自慢の兄が聖騎士という国の誉れに正式に任命されるのではないかと、家全体が沸き立っていたのだ。

 

その全てが裏切られた時も鮮明に覚えているからかもしれないが。

 

ともあれ……。

 

「レオーネ、空なんてみてどうした?」

「レオンお兄様」

 

バルコニーから夜空を見上げていた自分にかかる声。

自分の自慢の兄。いずれはオルファー家を継ぐべき長子。

 

後ろを振り向くと、その精悍な顔が見えていたのだ。

 

「流れ星が見えないかと思って、お兄様が聖騎士になれるようにと願いたいのです。天上領が見えると願い事が叶うとも聞きますが」

「ははっ、妹にそう願われると嬉しい限りだ」

 

レオーネの言葉に笑顔を見せるレオン。だが、その顔が少しだけ陰にこもる所を見てしまった。気のせいかと思ったが、しかしそれに対して今ならば分かる。

 

兄はきっと、この頃から―――。

 

そうして 空を見上げていた頃……何か光るものが見えた。

 

「流れ星!?」

「―――いや、違う。確かに光っているが―――ヒトだ!」

 

どこから手に入れたか望遠鏡なる筒状のもので、遠くを見たレオンによって正体が分かったあとには。

 

「こちらに降りてくる、か。レオーネはここに」

「私も行きます!レオンお兄様はいずれ聖騎士になられる身。万が一があれば!!」

「馬鹿、俺なんぞどうでもいい。『天上領』からろくでもないものが落ちてきた可能性もあるんだ。危険すぎる!」

 

だが問答している暇は無くなるぐらいに、そのヒトはオルファー家の邸内に落ちようとしている。

 

結果的に、家人たちも事態の異常に気付いて―――。降りてきたヒト。意識を失っている『少年』は、レオンによって地面に落着する前に受け止められた。

 

赤い衣……何か強力な『加護』を感じさせる。魔印武具をイメージさせるものに包まれた少年の顔を見たレオーネが顔を赤くしている辺り、兄として『やれやれ』と思いながらも、ともあれこの少年を放っておくことは出来なかった。

 

 

「つまりだ。お前さんは名前以外は何も覚えていないのか?」

 

「そうなりますね。天上領、天上人……カーライル王国。自分で言うのもなんですが現実味が無い」

 

「だが、これからどこに帰るつもりだ。「セツナ・トオサカ」?言っちゃなんだが、身元不明で不詳な少年が路頭に迷うのは忍びないな」

 

それはこの国の騎士ではなく、大人としての世話だったのだが、予想外にも彼ははっきりとしたことを言ってきた。

 

「名前以外にも覚えていることがあります。俺は鍛冶師で料理人でもあります―――何処かに仕事はありましょうよ。紹介状を書いていただければ世話になった代金をすぐにでも返済できます」

 

「……ほぅ」

 

その言葉に少しだけ考えるはレオンであった。最初は、この少年はハイランド……天上領の実験体でなんらかの理由で廃棄された存在だと思えていた。カーライル及び多くの国に降り立つ―――というかやってくる『武姫』と同じくそういう非人道的な措置を施して捨てられたのではないかと。

 

そういう噂は常々、どこからともなく耳に入っていたのだから。

 

だが名前の響きから東方圏の人間であるとも考えて……。

 

(答えは出ないな)

 

温情というほどではないが、レオンはこの少年を手元に置いておくことで監視しようと思うのであった。

 

仮にそうであったとしても、そうでなかったとしても、色々と考えるのだから。

 

そうして、鍛冶屋としての腕前はすぐには見られないので料理人としての腕前を見ることにするのだった。

 

「立てるか?」

「正直、体感では五日間もベッドにいたので身体が鈍りそうでしたよ」

 

ベッドから出て立ち上がるセツナ。上体だけは起き上がらせていたベッドだったが下半身はどうだか分からない。ともあれ、無事のようだった。

 

「厨房はこっちだ。お前さんの実力、見せてくれよ」

「とりあえず一宿一飯の恩は返しましょう」

 

それだけで済めばいいがな。と内心で皮肉を覚えながらもこの少年の正体を知るには……やはりオルファ―家で引き取るべきだろう。父もまた様々なルートで天上領に近い人間に接触をもっているが、この少年に対して反応は鈍い。

 

仮にこの少年が天上人にとって重要な人物であるならば山狩りならぬ地上狩りぐらいはしそうなのだから……。

 

 

「美味しいわ!!この鶏の丸揚げなんて、どういう調理をしたの!?」

「確かに、これは素晴らしいな……今までにない独創性を感じる」

「こちらにあるライス料理も美味しいわね……」

 

オルファー家一同で、その料理を食べることにした。

レオンは厨房で見ていたのだが与えられた立派な鶏のマルを全て使い切ったのだ。

 

(ヤツいわくユーリンチー、トリカマメシ、トリツクネのスープ……)

 

与えられた材料を逃さず内蔵から骨まで使ったセツナの手並みは、尋常ではなく家人である料理長も関心どころか、教えを乞うていたほどだった。

 

「如何でしたか、ミスター・レオン」

「何も言うことは無いぐらいに美味だったな。ったくお前さんの正体がわからなくなる」

 

鶏皮の脂が破裂したユーリンチーを食べながらコックコートの少年に興味を持つ。

それ以上に興味を持つものがいた。

 

(レオーネの眼がずいぶんと輝いているように見える……)

 

その抱いているかもしれぬ感情に兄としてはどう言ったらいいのか分からぬが、ともあれ。

 

「親父、彼は鍛冶職人としての技能も持っているそうだ」

 

「ふむ。だが、アールメンには鍛冶工房は無いぞ」

 

意外というわけではない。これはレオンも知っていることだ。

この街には恐ろしい『化け物鳥』がいるわけで、兵の数もそれなりに常駐しているのだが……吹き上がる煙、高熱の冶金鍛造の類が化け物鳥の『氷』を溶かすのではないかと、危惧を覚えさせたのだ。

レオンが生まれる前どころか親父も生を受ける前のアールメンの領主によって、それらの工業職人は離れた場所での労働となったのだ。

 

「お兄様、それならば我が家の工房をセツナくんに使わせればいいのよ!」

「レオーネ……いや、けどな。年若いお前さんには分からんだろうが」

「火入れぐらいは出来ますよ。お嬢様からお聞きしましたが、要は煙をあまり出さないようにすればいいんですよね」

 

何を吹き込んだのかは分からないが、ともあれ大言壮語ばかりを吐いているとは思えぬぐらいに何かがあるのだろうと言える確信を以て言うセツナ……。

 

「分かった。ならば、一振り―――俺とレオーネに相応しい剣を鍛ってもらえるか?」

 

「承知。お嬢様は短剣でよろしいですか?」

 

「ああ、頼む」

 

力強くこちらを見てくる少年の眼差しに、好感を覚える。

 

そうして……目まぐるしい数日が過ぎていき。

 

数年が経った頃には、オルファー家にとって大事な家族が出来たのだった……。

 

だから。

 

月下の夜。

 

眼の前の少年が降りてきた日のような夜に、レオンは決意したのだ。

 

 

「セツナ、俺と来い。お前の武器鍛造技術(エンチャント)こそは、天上領に対する反撃の嚆矢になりうる―――」

 

「俺は……大旦那様から禄を貰っている人間だ。若君、アナタの大義にどれだけの理があろうと、それを裏切るわけにはいかない」

 

「お前の兄貴分として―――義弟がこのまま朽ち果てるのは見たくない。お前とて見てきたはずだ。腐りきったこの世界の在り方を」

 

「だとしても、そんな世界でも歯を食いしばって生きている人間もいる。必死になっている人間もいるんだ。あのラーアルが醜悪な下衆だからと、その立場の弱い人にも苦難を発生させようとすることを見過ごせない……第一、分かっているのか?聖騎士という立場にある人間が反体制的な集団に入るということは」

 

「ああ……そうだな。親父や妹のことを考えれば踏みとどまるべきなんだろう。しかし、もはや決めたんだよ!!聖騎士としてではなく、オルファー家の長男としてでもなく、ただ1人の男として―――」

 

この理不尽な世界に立ち向かう。

 

その最後の言葉に、レオンの武器としてあるはずだった(オンナ)はセツナの後ろで苦衷の表情を浮かべ眼を伏せた。

 

そしてもう1人の『オンナ』は……。

 

(最初はエリスさんと戦えればよかっただけだったのに、まさかこんなチャンスが巡ってくるとは、うーむ。セツナ君が持つ『得物』にも興味はありますし、レオンさんのアーティファクト。雷獣を生み出すのにも興味津々だ!!どっちとも戦いたいのに悩ましい!)

 

いっそのことセツナが従者としてレオンの方に忠誠を誓っていれば、反逆しようぜ!という誘いに乗ったならば諸共に戦えたというのに、実に残念だ。

 

などと場違い極まるバトルマニアな思考で場を見ていることにはセツナは何となく気付いていた。

 

このアマ!と罵りたい気分を抑えながらも、月明かりのもとムラマサという銘を与えた『カタナ』という武器を抜き放ち、月光の下に輝かせるのだった―――。

 

 

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