魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『十人十色! 思惑渦巻く入学式?』

 

 

「それじゃ後で向かいますので、レオーネお嬢様のことお願いします」

「ああ、君も入学式に間に合うように来てくれよ」

 

ラファエルからの入学通知は唐突……というほどではないが、それでも何の準備もしていない。荷造りもしていなかったのでフライギアポートで王都に直で向かうお嬢さん方三人とは違い、後から向かう形となる。

 

「ちゃんと来るわよね?」

「主家の令嬢には疑われたくなかった」

 

不安そうなレオーネの言葉にそう返しながら、飛び立つ巨大な機械鳥を見送ってからセツナは動き出す。

 

工房の家探しされるのも面倒なので色々と『トラップ』を仕掛けた上で、戸締まりをして、ラファエルによって買い上げられたとはいえ、オルファー家の屋敷にも低級霊を使役することで定期的な掃除を実行させる。

 

この世界に来てから今までやってこなかった魔術師・遠坂『切那』(セツナ)の手並みが発揮された。そうしてから―――。

 

「レオーネならば先に王都に行ったよ」

「そうか。まぁ会うわけにはいかなかったからな」

 

食堂の壁枠の柱……兄妹が背丈を測りあった場所をなぞっている男を見ながら言う。

 

ここに何をしに来たのか……目線で問う。

 

「王都では入り用だろうから、オルファー家の隠し財宝という形で見つけるようにしたかったが、こっちも色々あってな」

 

などと奇妙な木造の『立像』をテーブルに置くレオン。その内部には換金しやすい宝石類が収蔵されているのを確認。要はレオーネに対する『仕送り』のだった。

 

「適当に大旦那様からの『万が一』の時のための贈り物ということでレオーネに渡しておくよ」

「すまんな」

 

レオンが謝ったタイミングで間髪入れずに、急所を突く。

 

「ノーヴァの街では領民から評判の良かった天上人を魔石獣にしたそうだな。こんな無差別テロルを行うためにアンタは『旅団』に入ったのか?」

「やったのは俺じゃない―――などとは言わんさ。だが、これに関しては評判の良し悪しじゃない。あそこにはあってはならんものがあったのさ」

 

イングリスとラフィニアが見たという地上から大地を剥がして浮遊させるための魔法陣……実物ないし、2人がそれをスケッチするだけの絵心があれば何かあったのかもしれないが、まぁ無理だった。

 

「当人の人格の良し悪しが行動の善悪を決めるわけじゃない。そして、どこまでいっても驕り高ぶるものは変わらないな」

「……」

「俺を捕らえるか?」

「あんたを捕らえるためにここで取っ組み合いをするわけにはいかない。屋敷を荒らすわけにはいかないからな」

 

第一、セツナはオルファー家の従者なのだ。

主家に刃は向けられない。

 

「その役目は聖騎士やこの国の騎士たちのものだ。俺のような『はぐれもの』には重すぎる」

「そうかね? 俺としてはここで聖騎士の任に背いたオルファー家の長男という逆賊を討って、主家の姫を嫁に……ヒロイックサーガの王道も良くないか?」

「全く胸が踊らないよ。アニキ」

 

その言葉を最後に一礼をして辞する。本気でそんなことを考えているわけでもないくせにと苦笑気味のレオンに内心で悪態をつきながら木造蔵を手に屋敷を出るのだった。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

セツナが去ってから再び一人だけとなった食堂―――いや、本当はもう一人いたのだが今まで隠れていた女が出てきた。

 

「結局、お前は何をしたかったんだ?誘いを掛けるならばとっとと言えばよかろうに」

 

怒りと呆れの半分半分で、レオンに言ってくるシスティアに苦笑する。

 

「システィアさんこそ取り押さえるなり何なりすればよかったでしょう?団長が執心しているのはご存知だったのですから」

 

その言葉を受けて表情を固くするシスティア。どうやら彼女もセツナに何かを感じ取ったようだ。

 

「―――お前の弟……あの小僧は異質だ。私が隠れ潜んでいることに気付き、さりげなく構えを取っていた……それどころか。私を縛り上げてきた……」

「―――そういうご趣味をお持ちで?」

「刺すぞ。ここが、お前の生家と言えどな」

 

言いながらも旅団の天恵武姫であるシスティアの肌もあらわな衣装のそこかしこに汗が付いていることから、セツナはレオンに気取られずにシスティアを威圧していたと気付く。

 

(頼んだぜ。他力本願だがお前こそが全てを変えるんだからな)

 

妹ではなく自分の弟ならば何かを変えてくれるかもしれない。ノーヴァの街で団長とシスティアに立ち向かったイングリスではなく、レオンはセツナに期待をするのであった。

 

 

 

王都の騎士学校こと、カイラル王立騎士アカデミーの入学式の日がやって来た。

 

「天上領より機甲鳥の供給も始まり――これからは騎士の運用や戦術も大きく変わって来る。諸君らにはその最先端を行き、新たな時代を切り拓く事を期待したい」

 

壇上に立つ豪奢な衣装とマントに身を包んだ金髪の美青年が、整列した新入生達に向け激励の言葉をかけてくれていた。

 

「しかしながら、そんな中でもヒトの強さとはそれだけでは決まらないと私は個人的に思っている―――。魔印の格でも、武芸達者でも、智略上手でも、強靭な精神でもない」

 

「そこに『心』が無ければ、全ては悍ましくなる。魔印はただのヒトとの差を示すものになり、武芸達者はただのヒトを惨たらしく殺す暴力へと、智略はヒトから多大な恨みを買う権謀術数へと変わる―――強靭な精神は、退くことと恐れを知らぬ狂戦士へと変わるものになってしまう」

 

「諸君、何であってもいい。誰かを何かを慈しむ、慈悲の心を以て守りたいもののために邁進してくれたまえ」

 

それをただの理想論にしたくないと語る男こそが、清濁併せ呑んで『国事』に当たらなければならない人間だ。だからこそ、そう言っているのか。はたまた綺麗事で終わらせるのかは分からないが―――なにはともあれ。

 

(プリズマーを国境に置いたアンタが言えた道理かよ)

 

と皮肉げに思いながらも語るウェイン王子の言葉に平淡な表情でおくのであった。

 

ともあれ若く麗しい青年なので、周囲の女生徒達の熱視線を一身に浴びている。一番うしろの長椅子でその様子を眺めていたセツナはやれやれと思う。当初こそラフィニア・イングリス・レオーネの三人組の所に誘われたが、とりあえず自分は平民なのだから『貴族位』の人間と一緒にいるのはどうかということで遠慮しておいた。

 

レオーネはすごく悲しそうな顔をしていたが、それでも従者としてはイングリスとは身分が違いすぎるのだ。ともあれ女3人の中に男1人は肩身が狭いので勘弁してくれということで収めた。

 

次から次へと名前を呼ばれていく中、やはり聖騎士ラファエルの妹ということでラフィニアは注目の的だ。

 

その後に呼ばれたイングリス・ユークスはその美貌からやはり注目の的で……まぁ当人の心は知らん。

 

そしてレオーネが呼ばれた時にやはり多くの嫌悪の声や口さがない言葉が響く。従者でありオルファー家に仕えている身としては中々に苦しいが、そういうヤツラを黙らせるほどに全てをお嬢は変えていかなければならないのだ。

 

「セツナ・トオサカ!」

 

レオーネから10人ほどの間を置いて、自分が呼ばれた。最後の登壇者というわけではないだろうし、特に王国の貴族でもないので大きな声こそ聞こえなかった。『知らない家名だ』『平民か?』など、無責任な聴衆のような声が聞こえてきただけで、それだけだった。それでも耳を注意深く傍立たせると……。

 

『ラティ!彼が例の人ですよ!!』

『ああ……どうにか接触出来ればいいんだがな……』

 

『あの人がお父様を守ってくださった方?……』

『『リーゼロッテ様?』』

 

などという言葉が聞こえてきたが、ともあれウェイン王子がいる場所まで赴く。

 

「ようやく私の誘いに乗ってくれたか……」

「さて、どうでしょうかね」

 

片目だけを上げながら、顔だけは真面目な面持ちで安堵しているウェイン殿下に言う。

 

「君はもう少し自分の能力を誇るべきだ」

「無用な争いは起こしたくないのですよ。それが私の『心』です殿下」

 

先程の演説は何だったんだと言いたくなるほどに傍から聞けば変節しているとしか思えない言葉に、嘆息しそうになるのを抑えながら校章を受け取るのであった。

 

セツナの言葉に王子殿下も自分の発言の二枚舌に気づいたのか少しだけ赤い顔をしながらも言葉を重ねる。

 

「励み給えよ。マイスターセツナ・トオサカ」

 

不敬罪を取られなくてよかったと思いながらも一礼をしてから王子殿下の前を辞するのであった。

 

 

「王子殿下と何を話していたんですか?」

「中々、首を縦に振らない生意気な平民だからな。小言を言われた」

 

明確に聞こえてきたわけではないようだが、長々と話していたことはイングリスの耳目を集めていたようだ。

 

同じ『従騎士課』の人間であるからか、とりあえずイングリスと自分は一緒に行動せざるを得ない。いや別にセツナは一人でもいいのだが。

 

入学式の後のオリエンテーリングは『騎士課』との合同らしいのだが、こうして一度だけ分かれることになった。

 

「ところでセツナ、先程からこちらを見ている男子がいますね?」

「そんなものいくつもあるぞ。主に君を見ている人間だがな」

 

イングリス・ユークスという美少女を呆けて見ている視線とは別に、真剣な目で見ている人間がいる。

 

少しくすんだ金髪の少年。生意気な少年盛りという表現が正しいか分からんが、少しすればウェイン殿下のような美男の王子として見られるだろう。

 

そう、彼が『プリンス』であることをセツナはよく知っているのだ。

恐らくその目的も『セツナ』にあることを。

 

「さっさと行こうぜ。キミがひっつくことで嫉妬の視線が飛ぶのはあまり愉快ではない」

 

「では更にひっつきましょうか♪」

 

「やめいっ」

 

何このいたずらっ子。セツナの腕に自分の腕を絡めようとするネコのようなイングリスの所作をひらりと躱しながら指定されたオリエンテーリング会場へと向かうことにする。

 

 

 

 

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