魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『国士無双! 一世の傑物はここにあり!!』

 

 

 

本来新入生たちは騎士科、従騎士科に分かれているのだが、今回に限り分け隔てなく全員がアカデミーの敷地内にある運動場に集められた。

 

そこには巨大な円盤状の石の闘場が用意してあり、その中心に若い女性が一人、ポツンと立っていた。

 

手には杖の魔印武具らしきものを持っている。 ひらひらと可愛らしいデザインのローブに身を包んだ、亜麻色の髪の美人である。

小さな丸眼鏡に、にこにことした表情が印象的だ。

 

「みなさんこんにちは~。私が校長のミリエラで~す。よろしくお願いしますねっ」

 

若い女性が校長というか重職に就いていること自体は別にセツナにとっては珍しい話ではなかった。院長補佐(バルトメロイ)もそんな歳であったことを考える。しかし、ミリエラ校長はバルトメロイよりも軽い雰囲気である。 ただ、実力は間違いないだろう。

 

そんなミリエラ校長の手に輝く魔印は特級印だった。イングリス・ユークスの目が輝いているのに気付く。

 

「では面倒な前置きはナシにして、オリエンテーションを開始しますねっ! このアカデミーの授業内容を紹介していきますから。まずは全員で準備運動です。はい全員、リングに上がっちゃって下さーい。あ、騎士科の子は魔印武具は持って上がっちゃダメですよ~」

 

ミリエラ校長が、生徒達にそう呼びかける。オリエンテーションというからには全員で素手で組手でもやれとか言われるのかと思っていたのだが。

 

「何が起こるんだろうねー。やっぱり全員で殴り合えとか言われるかな?」

 

拳を握りしめて目を輝かせるイングリスと同じ方向の思考であったことに内心でのみ嫌悪感を覚えつつも、言われたとおりにコロッセオというには小さいその闘場に上がる。

 

そして全員がそこに立つと―――。瞬間、のし掛かるような重さが自分を襲う。

 

(重力負荷か)

 

どうやらミリエラ校長のあの杖のアーティファクトは、ある種の重力操作を行えるようだ。負荷だけでなく『軽減』も出来るならば、この上なく面倒なものだが……。

 

(呼吸を整えろ。血流をこの重力に対応させろ。取り込む酸素を筋肉・臓腑全てに循環させろ)

 

武士の呼吸法。覚醒武技を用いることでこの状況を乗り越える。この程度のものに魔力を用いるほどではない。

 

(おそらくこの高重力環境は闘技場全体に対してではなく、ここにいる全生徒に掛けているものだ)

 

であれば石畳にも何かしらの高重力による『撓み』が発生しているはず。石畳がすり減っているのは元々のここでの戦いでの歴史なのだろう。

 

そう断じてから。

 

「レオーネ、いつぞや教えた呼吸を実践して」

「う、うん―――――」

「ふ、普通にセツナ君が歩いてやってきた!?」

 

難儀しているお嬢の下に赴き、ビックリしているラフィニア嬢には何も言わず、アドバイスをするのだった。ズルいと言う勿れ。自分はオルファー家の従者なのだ。だから―――。

 

「この高重力下で組手をするのもいいと思いませんか?」

「あいにくながらレオーネ優先だ。あっち行ってろ」

「フラれたー」

 

高重力をなんとも思わない。というかどうやらある種のフィジカルエンチャントを施しているようだ。ある意味、ズルではないかと思うイングリスを追い払いつつ、レオーネの呼吸を整えさせる。

 

大剣を振るうために腰と腿が大きくなることを危惧したレオーネお嬢に対して、ある種の特別な呼吸法を教えていたのだが……やはりあの剣を振るう以上、魔印によるフィジカルの強化はあれどそれでも……太ましい足になることは避けられなかったのだ。

 

「組み手は、ともかくとして、セカンドステージなのか、お前さん向きの案件だぞ」

 

第二の試練としてなのかミリエラ校長は、岩石作りのヒトガタ……俗にロックゴーレムと呼ばれるものを3体作り出したのか、もともとあったのかは不明だがそういう巨人の使い魔が入り込み。

 

「この3体のロックゴーレムが鬼として皆さんを追い回します!!見事10分間逃げ切れば食堂の無料優待券を1ヶ月分進呈しちゃいましょう」

 

そんな風な報奨を宣うのであった。その言葉に大喰らい二人の目が輝き、オルファー家の家宰としてセツナも目が輝く。

 

「ふむ。お嬢をちゃんと食べさせるならば、そいつは魅力的な提案だな」

 

「お父様からの隠し資産もあるし、そこまでしなくても……」

 

「確かにレオーネの燃費の良さはこの2人にまさるが、だからと貴族子女が食えていないのはマズイ」

 

将来どこかに嫁ぐことになった時に健康状態がよくないのはマズイ。

 

そんな風なことを考えていたわけだが。

 

「ほほう。私達がまるで餓えたグールのような評され方だ! ヒドいな!!」

「失礼な!食材が悪くなって破棄してしまうのは一番、貴族にとって領民に対する背信なんだよ!!」

 

イングリスはともかく、そんな高尚な思惑がラフィニアにあったとは……少しだけ認識を改めつつ、それがカーリアスの貴族たちなどの意識であるならば。

 

(……北の国との共同で食材保存庫……俺の世界で言うところの『冷蔵庫』を作れれば―――)

 

その恩恵は大きい。オルファー家の再興にも近づける。

 

「そこー、男1人に女3人のハーレム作ってるんじゃないですよー♪」

 

独身女(推測)のヒステリーかと思う言葉だが、言葉に従ってロックゴーレムが向かってくる。

その追い回しを避けながら狭い闘技場を駆け回る。

 

「意外だな。お前のことだからあのロックゴーレムを叩き落とすぐらいはするかと思ったんだがな」

「それでは訓練の意味がない。この状況下でどれだけ動けるかを伸ばすのが問題なのだから」

 

訓練の意図をぶち壊すぐらいはすると思っていただけに、その言葉にまんざらバトルジャンキーではないのだと思いながらも、ロックゴーレムの追い回しから逃れていく。

 

とはいえ、セツナとイングリスを追い回すことよりも他の動きの鈍い連中を狙うことにしたようだ。

 

「ターゲットの選定基準は自動じゃないな。ミリエラ校長先生の意を汲むぐらいのことはあるようだ」

「ということは……」

 

あちこちでつまみ上げられてロクな抵抗も出来ずに、ロックゴーレムの指……一本だけでも大人の腕以上に太く長い指で摘み上げられて場外に投げられていく。

その際にも何かの緩衝術を使っているのか然程の怪我は無いようだ。

 

周りを注視していると、目立つ連中はいい感じに動く。それはミリエラ校長の視線が鋭くなる人間。

 

「あの男子……」

「キミを熱い目で見つめていた人間だな」

「違うだろ。セツナを見ていたんだよ」

 

男に見つめられて嬉しい趣味はないのだが、栗色の髪をした騎士科の少女……なんかリスっぽい少女に頼られているのか頼っているのか分からないが、金髪の従騎士科の少年と言い合いながらも、ゴーレムを何とか躱している。

 

プラムというのが少女の名前で、ラティというのが少年の名前のようだ。

 

そんな訳で、その2人に関してはそんなところで他に目立つ所では典型的なお嬢様のような貴族の少女が威勢よくゴーレムに『私の首は取らせない!』とか姫騎士の典型文句(テンプレート)の『くっころ』みたいなことを言っているが……。

 

(まぁどうでもいいか)

 

彼女もイングリスに対して視線を向けている―――ように見えて、どうやら俺に目を向けている。

 

(リーゼロッテ・アールシアね)

 

聞こえてきた名前に特別感じるものはない。結局のところラファエル及びウェイン殿下の差配でセツナが配置されていた後方軍の指揮官が、宰相閣下であったというだけ。

 

結果として彼を助けただけだ―――ということだ。

 

残り60秒になった瞬間に重力負荷が強まるが、セツナは既に身体は順応させている。だが、他の人間はそうではないらしく、限界となりロックゴーレムに捕まっていく。

 

かなりセクシャルな捕縛をされているレオーネを助けるべきかどうかと思うも。

 

「ラニを私も助けなかったんですから、キミも動かないでほしいな」

 

ぐいっとイングリスに袖を引っ張られて制止されてしまう。そうしていると、最後までの生き残りであったイングリスとセツナにゴーレムが殺到する。

 

「俺が右」「なら私は左だ!」

 

簡単な言葉のみで動き出そうとしたゴーレムを迎撃する。

 

(拳じゃ無理だな)

 

体格で上回り硬度も人間のそれではないものを倒すならば、それは体を使ったものでしか無い。

 

即ち―――歩法を刻みながら相手に対して背を向ける。ロックゴーレムの行動。その手指がセツナを摘みあげるより先に、背中から身体ごとぶつかる八極拳の術理が刻まれる……。

 

八極拳奥義・鉄山靠

 

インパクトの瞬間に踏みしめた石畳が砕けたことからその威力は知れる。

 

本来の強化された身体ならば場外に行くべきロックゴーレムだが。

 

後ろから倒れ込むだけで終わる。当然だ。そしてイングリス・ユークスを見ると……。

 

(まぁ別にいいのだけど……)

 

ドカドカととんでもないグラップリング(跳んだり跳ねたり)でロックゴーレムを倒したイングリスであるが……蹴り技が主体であるだけに純白の下着が丸見えである。

 

(スパッツを履こうという考えはないんか)

 

女の下着を見た程度で興奮するような欲求不満はないのだが、恥じらいよりも戦いを行うアマゾネスに人知れず嘆息する。

 

「しゅう〜〜りょ〜〜。では優待券はイングリスさんとセツナ君にプレゼントです!」

 

そんな訳でとりあえず目的は達成するのだった。そうしてからレオーネの下に行く。

 

「レオーネ、大丈夫か?」

「ええ、もう少し出来ると思えたんだけどね……」

 

そこまで悔しがるようなことだろうか?本当に悔しそうな顔をするレオーネに疑問を持ちつつも、近づいてきた校長先生に向き直りながら言う。

 

「優待券はキミが使えよ――――ということでよろしくお願いします」

「ええ……色々な所から聞いていましたが、アナタも規格外ですねセツナくん」

「何を聞いているかは伺わないでおきますよ」

 

少し前まで校長先生に『ハイラル・メナス』の疑いを掛けられていたイングリス・ユークスも目を輝かせながらこちらを見てくる。

 

ともあれそのオリエンテーションの後には履修に関するガイダンスなど諸々ありつつもそれで一日は終わったわけだが……。

レオーネが女子寮でアレコレあった時分に、セツナにとっての問題も男子寮で発生していた。

 

「北国からわざわざご苦労なことだ。俺のような平民に骨折りだな。ラティ・アルカード王子殿下」

 

「―――知っていたのか?」

 

「この国にだって諜報分野の機関だってある。お前さんがアチラでどういう扱いであるかぐらいは既に掴んでいる……」

 

なぜかその情報をどこからか自分に寄越してくる輩はいる。別にセツナには王室に対する敬愛はない。どちらかといえば、オルファー家への忠節が最優先だ。

 

「俺が権力奪取の為にお前に接触を図ろうとしていると見たか?」

「剣や槍……武器を持ったところでそんなことが出来るわけがない。俺の武器がたとえ無印者にも扱えるアーティファクト並の器物だからと……お前一人で全てが変えられるわけがない。たとえ一軍にそれを与えたとしても、だ」

 

まさかそんな夢物語を信じていたわけではあるまい。目をキツくしながらラティに言う。

 

「そうだな……そんなことは分かっていたんだ……」

「―――だからお前の『目的』を言え。ソレ次第で俺はお前に一振り武器を鍛えてやる。虚言はなしで言ってくれ」

「―――分かった……」

 

そうして苦しい顔をしながらもラティ・アルカードは自分の目的を口にする。そしてアルカードの窮状を答えていく。

 

将来的に予測される『状況』もまた……答えられていく。

 

「……国の大事に関しては俺が関わるべきことじゃない。そしてハイランド由来ではない魔石獣に対する力を欲する気持ちは正しい―――」

「では!」

「俺の鍛える武器は確かにアーティファクトよりも簡易で、魔印の有無に関しては置いておくとしてもそれを振るえるだけの膂力が無ければならない……ラティ、お前の覚悟を見せてくれ」

 

そうして男子寮での一幕で運命(ものがたり)の一つは変わるのであった……。

 

 

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