魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『勇往邁進!これが私の進む道!!』

 

 

「本当はね……リーゼロッテさんの言うことも分かるのよ……私が、セツナを縛り付けているってことにも」

 

「レオーネ……」

 

入浴後の一悶着でリーゼロッテ・アールシアという少女が今さら部屋の割り当てでレオーネがいることに異議を申したてて、その際にレオーネが叛逆の聖騎士の妹であることだけでなく……。

 

『アナタが、セツナ・トオサカを従者という立場だけに置いていることが私は気に入らないのです!!』

 

そこにまで噛みついたことがレオーネを傷つけたのだ。ともあれラフィニアの心といろいろあってレオーネはラフィニアとイングリスの部屋にやってきたのだ。

 

一緒のベッドに座り込みながらラニのいびき(就寝中)をBGMに話す。

 

「ラファエル様が言っていたことだけど、お父様がご存命だった時に、戦場に出たセツナは配置された後軍の指揮官であるアールシア宰相の危機を救ったそうなのよ」

 

「それがオルファー家の屋敷でラファ兄様が言っていたことなのか」

 

「アールシア家からセツナを譲ってくれないかっていうことが家にも来ていたのだけど……セツナは頑として首を縦に振らなかったわ」

 

「レオーネのお父さんはどうしたかったの?」

 

「……セツナの気持ち次第だって言っていたわ。本心かどうかは今となっては分からないけど」

 

―――私は、俺はオルファー家に拾われたみなし子も同然の存在です。

 

―――そんな俺を人間として扱ってくれた大旦那様や亡くなられた奥様……そしてレオーネお嬢様に対して忠義・忠孝を尽くすことこそが、私の道なのです。

 

―――お願いします。私にヒトとしての道を尽くさせてください。

 

「セツナの力はもっと多くの人の為に使われるべきもの……秘密のウェポンクリエイトだって本当ならば、けれど……」

 

思い悩むレオーネに、少しだけ気を楽にする言葉を掛けることにした。

 

「いいじゃないか。別に当人が、オルファー家の為に働きたいというならば、それはそれで……」

 

「イングリスもそういうタイプ?」

 

「そうだね。私もラニから似たようなことを言われたけどラニの従騎士を辞めようとは思わなかったからね。当人の能力だけが行き先を決めるわけじゃないよ。セツナも自分の心に従っているんだから」

 

そのイングリスの言葉に、レオーネは納得しつつも。

 

(だからなのかしら……?)

 

レオーネにとっての懸念事項。セツナとイングリスが何となく近しい理由というのは、そういうことなのではないかと考えてしまう複雑な乙女心が出来たりするのであった。

 

 

「諸君ら第一回生の実戦担当教官、マーグースだ! 最初に言っておく! 我々の戦いとは対魔石獣のみにあらず! 国の平和と民の安らぎのために己を尽くすことである!」

 

集められたアカデミー本舎の正門前に立つのは筋骨隆々で禿頭の大男だった。その男の言葉に要するに『隣国及び遠国から侵略の手が及ぶこともある』ということを言いたいのだ。 そんな教官の制服は、筋肉ではち切れんばかりである。

 

「諸君らには、みっちりと身体的鍛錬を積んでもらうぞッ! まずはボルト湖にある機甲鳥ドックまで走って向かう! さぁついて来い!」

 

門扉を開け放つと同時に『ヨーイドン!』も無しに駆け出すマーグース教官のあとに就いていく。よほど王都に詳しい人間でもない限り、彼の言うボルト湖とやらがどこにあるのかは理解できないが……まぁとりあえず追いかけるように着いていくことにする。

 

とりあえず武器持ちである騎士科のメンツは走るうえでハンデがあるように思えるが魔印を持つものはアーティファクトを持つとある程度の身体強化がなされているらしく、アドバンテージはあるらしい。

 

別にそこまで訓練に力を入れたいわけではないが、かつていた世界で鍛えられてきたことを考えてセツナは少しだけ自らの『錆落とし』をしていく。

 

「イングリス、大丈夫かしら遅れていたけど」

「なんかバカなことを考えていると見ているよ。遅れて飛び出したとしても全員を抜き去って一等賞を取ったりとか」

「あるいは己に負荷を掛けてのダッシュ走とか」

 

レオーネの疑問にラフィニアと共に答えると同時に、何か高速で動くものが自分たちを追い抜いた。

 

流れる銀色の軌跡―――。

 

(両方か)

 

どうやら重力負荷のようなものを掛けてのダッシュのようだ。

 

自己強化ではなく、そうしていることに無駄ごとを考えながらも。イングリスは戻ってきた。

 

「セツナ!どうですか!?私と競争しませんか!?」

「一人でやってろ。俺は長距離走で短距離走しているわけじゃないんだ」

「えー、本気で走れる相手がいなくてヒマなんですよ」

 

その相手に俺を指名するとか、こいつの中でのオレ(切那)の評価はどうなっているんだと思うも、逆走してこちらに並走してきたイングリス(足踏みは倍以上)に対して頭を痛めていたのだが……。

 

「セツナ、主人として命じるわ―――ユミルの騎士姫様のお相手してあげて」

 

「レオーネ!?」「レオーネ♪♪」

 

驚愕と歓喜の両方で呼ばれたレオーネは、ため息を突きつつ言う。

 

「昨日は色々とイングリスには助けられたからね。そのお礼という形で―――ただし我が家の従者である以上、ユミルのビルフォード侯爵麾下の姫騎士には負けないで」

 

「イエス、マイロード。主家の姫がそう言うならば―――」

 

レオーネが、従者である自分に勝利を求めるならばそれをするのが従者として当然の義務だ。

 

「ラニ!私にも激励を!!」

「とりあえず住民の皆さんに迷惑かからないように走ってねクリス…」

 

そんなわけで正反対の檄を主人からもらった従者は2人して超速で駆け出すのであった。イヤなことに。

 

「ったく負荷を掛けた上でその速度とか、お前はどこの戦闘民族だ」

「南のアマゾネスがそんなことをしているだなんて初耳ですね?」

 

この言葉はある意味、セツナなりの『探り』であった。その言葉に『宇宙の地上げ屋』『ツフル人の怨敵』ということを意識させるものであったが、どうやら彼女がセツナの世界に似た世界からの『異世界転生者』(ワールドリボーン)というわけでないことが少しだけ分かる。

 

まだ確定ではないが、それでもこの女の異質さは……ヒトの倍以上の『生』を歩んでいる……死徒共に近いものを感じさせたのだ。

 

(『蛇』というわけでもあるまい)

 

結論を保留しつつ、マ―グース教官に追いつきながらボルト湖への道を探る。

 

(これほどデカい街なんだ。住民全体に用水全てを用いるだけの湖は分かりやすいところにあるだろう)

 

事実、嗅覚を強化したうえで『特定の匂い』を探る……水は高きから低きへと流れる性質。同時に『液体・気体・個体』という3つの性質へと『変化』する以上、何かにせよ『探知』は出来る。

 

(が、そんなことをひけらかすように『異常』を見せつけることもあるまい)

 

適当にその辺のヒトに訪ねれば、あとはイングリス・ユークスが、ウジェーヌ・ドラクロワの民衆を導く自由の女神よろしく旗振り役になるだろうと思っていた所に。

 

「うぎぎぎっ!!負けるもんかぁ!!」

「ラティ」

 

男子寮の同室の男子が必死の形相で並走するように、後ろからやってきたのであった。

 

「セツナ!!オレの覚悟を見ておけよ!!」

「ああ、見せてもらおうか。北国の戦士の意地を」

「??? なんの話ですk」

「私のことを忘れてもらっては困ります!!」

 

イングリスが疑問を呈そうとした時に割り入るように、金髪の美少女がトップ争いに入り込んできた。

 

リーゼロッテ・アールシア。そしてその従者の『レイ』と『バン』という双子の男子騎士だ。

 

(二人合わせて『レイバン』―――サングラスが領地の特産品か?)

 

眼鏡という器物が存在しているだけに、そういう想像をしてしまう。

 

無印者であることをなじられているラティ。やれやれと思いながらもラティも言い返す。そのやり取りに一家言あるので少しばかり言うことに。

 

「まぁ別にオレとて無印者として、ただの平民として背伸びせず後ろにいても良かったんだがね――――後ろにいるからと『安全』とも言い切れないわけだ。国への義務、大恩あるオルファー家の名代として戦場に出ただけだったのでね」

 

その言葉にドキリとしたリーゼロッテ、そしてその従者であるレイとバンが少しだけバツの悪い顔をする。どうやら宰相閣下は吹聴しすぎのようだ。

 

「イングリス、ラティを連れてボルト湖に行け。彼にはオレの『実験台』として少々『高速での戦い』に慣れてもらわなければならない。動体視力を養う上でお前さんならば今以上の速度でダッシュ出来るだろ?」

 

「ふふん。命令されていい気分じゃないはずですが、それでもその提案はありですね。実験とやらの詳細―――あとで教えてくださいよぉ!!」

 

言うが早くイングリスはラティの手を取り、殆ど引きずるようにして加速した。

 

「では先に行きます!」

「どおおおおおおっ!? 速い速いって! ぎゃああああっ!?」

「我慢して。負けたくないでしょ?あと道案内頼むね♪」

 

そんな二人に教官がドックの前で待っているように言いながらも逆ドップラー効果で去っていく二人。

 

そうしながらも特に会話もなく、走るべきを走る。

 

「あのセツナさん」

「なんでしょうかリーゼロッテさん」

「……っ―――その怒ってらっしゃる?」

「仮に怒りを覚えていたとしても、別に私個人の怒りなどどうでもよくはありませんか?無印者で平民である私などのね」

 

女子寮でレオーネを嫌忌の目で見て罵ったことは、既にラフィニアから聞き及んでいるのだ。美麗の顔を歪ませることに特に何も感じないのでどうでもいい。

 

「セツナ君、君はベネフィクとの戦いでアールシア閣下を助けたんだ。ならば―――」

「レイ君とバン君にとっちゃ宰相閣下の姫君に仕えるのが忠節の在り方なんだろう。それも別にどうでもいいんだ」

 

どっちがどっちだか分からんので、そういう予防線を張りながらの言葉で機先を制す。全てを言わずに察せられたことに少しだけ―――レイだろう相手が詰まっている。

 

「分かんないな……オルファー家なんて落ち目の家に仕え続けるお前の気持ちが…」

「そうかい。逆に聞くが君らはアールシア宰相閣下の姫だからこそ、リーゼロッテさんに仕えているのか?」

 

不貞腐れるように言うバン?だろう従騎士に尋ねる。しかし、その一言は急所を突いていた。

 

「……違う。我が家は元々シアロトの領地にある従者の家だからだ。昔からの御恩があるからこそ奉公している」

 

バンとやらの苦しい顔での言葉……それだけで分かったのだろう。

 

「ならばそういうことだ。平民のオレとて節操というものは理解している。どこからともなくやっきたみなし子である素性も知れぬ、氏と名だけが拠り所であったオレを受け入れてくれたオルファー家の再興のために忠孝を尽くすのは当然の成り行きだ」

 

「だから……お父様の誘いに乗らなかったんですの?」

 

「せめてお父君がオルファー家の名誉回復ないし、『なにか』をしてくれたならば、この身代をアールシア家にやることも吝かではなかった」

 

だが、宰相閣下の権力はそこまで大きくなかった。そもそもあの国境を巡る局地戦にて本来ならば宰相閣下は王子殿下の旗本・直参として旗下の中央にあるべきであったのに、彼が配置されたのは後軍である。

 

もちろんそれだけでうまくいっていないというのは早計かもしれないが、何にせよ宰相閣下の権力は『盤石』ではないというのが、セツナの見立てであった。

 

それを結論として年端もいかない少女に伝えるのは大人げないと思いながらセツナもイングリスとラティを追うべく、出足を加速させるのであった―――。

 

 

 

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