魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
「こ、これが……」
「イングリス・ユークスの持つ身体強化とは違う。俺が呼び起こしたのは、お前さんの『芯』から出る生命エネルギーとでも言うべきものだ……それを制御するようにしていけ」
「おう……まさかこんな『技法』があっただなんて」
「ただ魔印のような火を起こしたり、雷を放ったりなんて
「うん」
ミリエラ校長に願い出て体技室を借り受けて開け放ったのは、この為であった。ラティが自分の武器を求め欲しているのは理解した。
だが、それらの武器を扱うにはどうしても己自身の強化が必要であったのだ。魔印という加護を得た人間ならばともかく、まぁ難しいものがあったりするのだ。
「しかしディナーの誘いを受けていたのに良かったのか?」
「安心しろ。別にお前さんのことが原因じゃない。ランバー商会の前・商会長とは因縁があってな。遠慮しといたんだ」
それに関してはユミルの2人も同様だが、まぁ……心証というものだ。
「この国も色々あるんだな」
「そりゃ図体がデカい国はどこでもショバ争いや縄張り意識とかが強いだろうな」
派閥というものだ。ラティが嫡流なのか傍流なのかまでは分からないがアルカードの王子が、ここに来る以上アレコレあるのだろう。
「ぐっ……!」
話しているうちに身体強化の保護膜が解けて、少しだけラティがよろめく。しかし教えたことをすぐさま実践。
オドを用いた身体強化が、ラティを再び包む。
「実戦の場では、殆どゼロタイムで出来ないとマズイよな」
「まぁな。ただ今はどれだけ集中していけるかに重点をおけ。その状態を30分間持続出来れば組手に入るからな」
「ーーーおう」
明確な目標を与えることで練習に身を入れる。トレーニングの基本だ。
どんな会話があのファルスなる男とされているか少しだけ気になるも……。
(まぁロクな話じゃないだろうな)
詳細はあとで聞けばいいだろう。
そして、その日のラティの訓練は終わるも夜は続いており、夜の王都に「何か」を感じる。
王都は広くてデカい。事実、イングリスたちは馬車で赴いたほどだ……だからそんなものは気の所為だとしておいてもいいはずだが。
濃すぎる血臭を。
血の香を。
命が奪われる感覚を。
ーーー感じた。
直感に従ってセツナはアカデミーで一番高い建物に登り己の目を『強化』する。その上で見えたものに対してーーー。
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ファルスとの会食の帰路にて恐るべきことに、予想外なことに、2人の男がイングリス達の前に現れた。
馬車を襲撃したと思しき怪人としかいいようがない存在。
そしてーーーレオーネの兄、セツナの主君であるレオン・オルファーである。
軽口のような挨拶をしながらも、状況は良くない。
「まさかまた逃げる算段ですか?」
「はは。手合わせは済んだ。調査した結果を団に伝えるのも一つだ」
なんて薄情な男だ。とは思わないが、それでもこの異様な雰囲気の男が御者が言う王都を騒がしている通り魔だとするならば……。
(魔印が体の各所にいっぱいある……どういうことなのかは分からないが!!!)
ーーー強敵であることに歓喜した瞬間。気が緩んだのかーーーイングリスはそれに気付けなかった。
『ガアアアッ!!!』
イングリスの頭上から山なりの弾道にそぐわない速さで通り魔の正面に三本の矢が突き刺さる。
ラニのような光で構成された矢ではなく、『実体』の矢だ。鋭い鏃とシャフト部が一体化された金属製の矢は通常の矢羽の類もなく無骨だ。
月光を受けて輝く矢はーーー凶悪さと美を兼ね備えていた。
続けて3連、5連ーーー絶え間ない攻撃は通り魔を正確に穿つ。
「ははっ、相変わらずやってくれるーーー」
笑いながらその矢を放つものを称賛するレオンの様子。古い馴染みのものを親愛するような調子だ。
対する通り魔の方はのっぴきならないままだ。矢を穿たれながらも身体を『治癒』して、動き回る通り魔。しかし、着弾する矢は正確だ。徐々に対応しつつあるが。
『コレカっ!!』
なにかに気づいたのか突き刺さる一本の矢を引き抜いてから「透明化」の奇蹟を発動。純粋な視覚では見えぬ存在となった通り魔は離脱したようだ。
「ご覧の通りだ。ミリエラに伝えておいてくれ。あの通り魔の能力をな」
「ーーーまさかあれは天上領から!?」
「最初は旅団も人型の魔石獣でも出たのかと思っていたが、あの様子から察するに違うな……『取引』は何かが起こるーーー関わるかどうかは知らないが気をつけるんだな」
寂寥を灯した声と言葉を出したあとは、雷獣の一斉起爆。そして逃走であった。
相変わらずだと思いながらもイングリスはあるものを探そうとしたのだが…。
「矢が消えている……」
どこから放たれたのかこれほど高い建物が街路に並んでいると遮蔽となって射点が特定は出来ない。
せめて証拠品として矢を拾おうとしたのだが、それが無いことに気づいたあとには一陣の風が吹いて少しの寂しさを覚えさせた。
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報告などなどをするためにレオーネと一緒に校長室に赴いたわけだが、そこには意外なーーーいや、当たり前のごとくいる人間がいた。
「セツナくん!?」
驚いたラニに対して気楽に手を挙げて挨拶するセツナ。
「報告なら俺はいない方がーーー」
「ううん!セツナくんもいて!!会食の際にファルスさんから言われたことを聞いてほしいの」
そうしてラニの必死な様子にたじろいだセツナは残るようだ。
今夜……会食と会食の後にあったことを全て事実のままに、校長先生にイングリスとラフィニアは伝える。
「まぁレオン先輩というよりも血鉄鎖旅団が近日中に王都に来るとは予想していましたが、まさか通り魔……魔印食いまで関わるとは」
「それなんですけどレオンさんは、アレが天上領由来の存在であると言っていましたよ」
「でしょうね。地上の技術力ではそんな『制御された
「ですが疑問が生じる。魔石獣の討伐を委任しているようなルーン持ちの騎士たちをなぜ天上領の兵器で失わせる必要がありますか?……まぁただ単に興味本位と実験名目かもしれませんが」
ミリエラ校長の所感にセツナも己の所感を言うが……。
(結構、怖いことを考えるな)
別にイングリスがそれを想定していなかったわけではないのだが、まるでそういう連中を『同胞』として苦々しく見てきたかのような言いようだと感じた。
ともあれ王国と天上領の『取引』というところから、繋がるようで繋がらない
「ちょっと待て。ミスターファルスは、お前たちだけでなく俺も護衛に指名してきたってのか?」
「うん。不都合がある?」
「不可解さはある」
あの魚類魔石獣の戦いにおいて、セツナは何もしていないのだ。
確かに誰にも気取られぬように一本の剣を打ち出していたが……。
「私だけは見えていたからね」
「はいはい。イングリスちゃんはスゴイねー」
自慢気に胸を張り上げるイングリスにつれない態度を取るセツナに『ぽかぽか』とふくれっ面で胸を叩いてくるのだが……。
「で!セツナはそのファルスさんの護衛に就いてくれるの!?」
「セツナくんがいてくれれば、すごく頼もしいよ!!!」
そんな様子にミリエラ校長は『若いですねー』などと言うのが聞こえた。
2人に割り込むようにラニとレオーネが、聞いてきたがセツナとしてはいたし痒しだ。
だが優先すべきは……レオーネを、主家の姫の戦いに同行することだ。
「まぁ宰相閣下を無下にする形だが、家臣や騎士団なども、どこの馬の骨とも分からぬ小僧が護衛にいたらば面白くないかな」
「む。それはつまり今度の取引では宰相が出てくるのか?」
「宰相だけでないかもしれないが、その辺りは俺も伺っていない」
しかし、セツナの言うところが3人の少女に知れた。
つまりダブルブッキングである。しかし、そんな中でセツナはレオーネが請け負うファルスというよりもランバー商会の護衛任務を選ぶのであった。
「いいの?」
「俺はオルファー家の家臣だ。若君に刃を向けることは出来ないが、キミの露払いぐらいはするさ」
不安げな様子のレオーネであるが、そう言うことで安心させる。
「それにーーーカンでしかないが、
「それは……血鉄鎖がどちらも標的にするってこと?」
「そこまでは分からない」
だが天上領に対する叛逆を標榜するテロ組織が、そいつらに媚びを売るものたちも粛清しようとするのは特別おかしなことではない。
だが、それ以上に……色々と厄介になる可能性を考える。
それはーーー。
「キミにとっちゃ願ったりかなったりな状況だろ?」
セツナの平淡な言葉にニヤリとするイングリス。しかし、そんな少年少女たちに、水を差すようにミリエラ校長は言う。
「確かに王都側との物資献上の現場周辺の護衛に関しては、当校にも騎士団から協力要請が来ているんです。それはどちらかといえば交渉現場ではなく、本当に
「つまり
「ええ……別に要人警護のための戦力は帯同出来るんですが……」
歯切れが悪いミリエラ校長の気持ちをセツナもイングリスも察せられないわけではない。如何にいずれ戦場に出すとはいえまだ未熟な人間たちを本格的な戦闘に出したくない。何より今回の敵は、野において暴威を振るう魔石獣ではなく……同じ
ーーーという教師らしい心配りはーーー
「「「セツナ(くん)は別なんですか!?」」」
「三人して俺に引っ付きながら言うな!」
左右の腕をラニとレオーネに取られ横から背中に引っ付きながら肩から顔を出すイングリスという図。
苦笑い気味のミリエラ校長いわく、明日行う『テスト』に合格すれば内部警護……ファルス・ファーゴの護衛に就いていいと言われた。
そのテストに関してはセツナも受けるーーー周辺警護を担当する現・2,3年生を納得させるためにもある種の証明は必要ということだ。
全てを納得させるためにも少年少女は戦うことが必要になりそうなのだった。
そんな重大な事態とは別にーーー
(それにしても、こいつは女としての自覚があるんだかないんだか)
むにゅんむにゅんとセツナの背中にその巨乳を押し付けるイングリス・ユークス。正面から見たときは魂の色がアレな女ではあるが、それを見なければとんでもない女でありアカデミーの露出多い制服にアレな気分にもなるのであった。