魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『前途多難!船上で増殖するは殺意の坩堝…』

 

 

扉を開けたわけがないのだが、光に向かって進んだあとには扉から出る結果が訪れた。

 

「おつかれ〜」

「あ、あれ?なんで3人が同じ扉から出てくるんですか?」

 

声を掛けつつもミリエラ校長と同じような疑問をセツナも持つが……。

 

(何も言わんとこ)

 

どうせイングリス・ユークスが何かやったことは明白だ。余計な疑念でテスト結果にケチをつけんでもいいだろう。

 

「セツナは合格したの?」

「ええ、問題なく」

「そ、そう……プラムと同じく失格したからこんなに早いもんだと思っていたわ」

 

二重の意味でヒドイことを言うレオーネに苦笑しながら。

 

「まぁそれなりに辛いこともありましたが、俺はそもそも昔のことを思い出せないままに空に放り出されていたんですよ?オルファー家でのこと以外は何も無かったですよ」

「……ふーん」

「な、なんだよ。その疑わしい眼は」

 

疑われているのは分かっているが、なぜレオーネにそんな顔が出来るのか?考えられるのは――――。

 

(何かの残留映像が映されていたか?)

 

あの空間を『解析』したところ、入り込んだ人間の深層意識にジャックインするような術式があり、それを『再現』するのはあの空間にある『物質』である以上、何かのログが残った可能性はあり―――。

 

(まさかイングリス、リーゼロッテも見たのか?)

 

レオーネの表情以外に変化を見せたのは、試練を乗り越えてきた2人……あんまり気にすることでもないが……。

不機嫌そうな表情をする……有り体に言えば、拗ねているようなイングリス・ユークスのあまり見たことない表情に、嘆息しておくのであった。

 

(調子が狂うね。そのような顔は)

 

その10分後ぐらいに、イングリスの精神安定剤とでもいうべき少女であるラフィニアが帰還を果たしてテスト合格者はプラムを除く5人となったわけである。

 

 

(ファルス・ファーゴ、か)

 

いまさらながらその人物像に少しだけの疑念を覚える。ラフィニアとイングリスが話すところ……ラーアルの親父であるランバーが息子と共に天上人になった際に、その商会をそっくり譲り受ける形で現在も運営しているとのこと。

 

そしてラーアルとイングリスの因縁となった幼少期の出来事にも遭遇していた……。

 

(よっぽどの古株なんだろうな……しかし―――)

 

何となく釈然としないものを覚える……。

 

そして、その際に……一つのピースを思い出した。

それは……。

 

「まぁいいや」

 

これ以上、考えても意味はない。そしてファルスが何を企んでいても、状況に任せるしかないのだ。

 

掛け布団を被りながら天井を見つめる。思いがけず『遠く』まで来てしまった我が身は流されるままである……。

 

その事実に苦笑しながら眠りに落ちるのであった。

 

『あの時』のように

 

 

「まぁ物資を「献上」するわけだから、こちらから出向くのが筋だけど……」

 

「ま、まさかこんな高い所まで来るなんてね……」

 

高所恐怖症気味のレオーネの様子に苦笑する。アールメンから下の王都カーライルに来るまでの旅路はどうだったのやらと思う。

 

しかし……。

 

「お兄様は来ると思う?」

「それに関してはどうとも言えない。そもそも血鉄鎖がどれだけの航空戦力を持っているかも分からない―――第一、もはや紛れ込んでいる可能性もある」

「――――――」

「イングリス曰く「透明化」する奇蹟もあるらしいからな。想像力を逞しくすればミリエラ校長のようなアーティファクトと奇蹟で下手人を異空間に入れた状態のまま―――ここまで徒歩でやって来ている可能性もある」

 

驚いた顔をするレオーネには悪いが虎穴に入った時点で既にそうなっている。

 

超常能力の全容をそれなりに知っていればその手の想像力が逞しくて想定も深くなるのだが、この世界の「ソーサルテクノロジー」(魔導技術)は天上領の独占状態なので、どうしても想定外が発生しやすいのだ。

 

「まぁ今から気張っていても仕方ない。そもそも特使殿がどれだけの地位にいるのか分からないからな」

 

殺す価値のない小物であるならば見逃すぐらいはするかもしれない。

 

「本当に全てが分からないのね……」

「君こそ―――本当に若君……アニキを前にして刃を向けられるか、俺には分からない」

「……けどセツナはお兄様に刃を向けられないんでしょう。なら私がやるしかないわよ」

 

ならばそんな苦しそうな顔をするなよ。無理なのだ―――レオーネにそんなことは出来ない。

 

そんな風に機甲親鳥の中央にいた自分たちだが……。

 

「ほらレオーネも縁から下の景色を見よう!!」

「セツナも行きましょう!!」

「お嬢にあまり怖い思いさせないでくれっ」

 

ラフィニアの先導の元、機甲親鳥の船縁とでもいうべき場所へと向かう。

 

見下ろした光景―――。元の世界ならば「人がゴミのようだ」などと戯ける場面だが……。

 

「結構、高く来たが―――まさか天上領まで赴くのか?」

 

眼下に広がる光景と空気の薄さからそんな想像をしたのだが……。

 

「いやいや流石にそれは無いな。ハイランドも無謀な特攻を仕掛けられたくないからな……庭先に狂犬を入れるような真似はせんよ」

 

その言葉を発したのはファルス・ファーゴ。乗船時にも少し挨拶をしたが、何をしていたのやら……。

 

「ま お偉い方々は下々を待たせるのが常だからな。待ってりゃその内に来るさ」

「ご経験がおありで?」

「そりゃ商人だからな。ある街で商売をするのにその土地の領主様に謁見するまで日にちがかかる」

 

賄賂も持参してという意味なのかゼニを意味するジェスチャーを指で作るファルス。

 

「などと言っている内にいらっしゃったな」

 

ファルスの見ているのは上空。そして影がさした。雲で日が隠れたわけではない―――つられて見上げると……。

 

(なんだあの船は……舷側にどれだけの砲台を付けているんだ……)

 

見える限りでは三層構造の砲列「飛行」艦。

 

そんな規格外のフライングシップだというのに必要なのかどうか分からないのは強烈な衝角と帆柱と帆だ……。

 

どう考えても風を受けて縦帆するような船ではあるまいに。と思う。

 

「着水することもあるのかね」

「あんな衝角が着いていると浅瀬では航行できないかもしれませんよ」

「何にせよ天上領の技術はとんでもない……あれだけの艦で一斉射撃すればプリズマーぐらいは消滅させられそうだけどね」

 

「どんな敵」と「戦う」ことを想定した兵器なのかが分からない木造帆船ではあり得ない巨大な「甲鉄艦」を前にして驚くも、そんな感想を述べると。

 

「プリズマーは私の獲物だ!! あのような金属の船に奪わせん!!」

「はいはい。がんばってチョーダイ」

 

くわっ!という音が聞こえそうな瞳の開きで反応するように言ってくるイングリス、そんなことはお構い無しに機甲親鳥は飛行艦の後部の入口に続々と入り込む。

 

先んじて入るは王国側の使者たちと献上品を満載した機甲親鳥であり、ファルス及びランバー商会の機甲親鳥が入れたのはその後だった。

 

手慣れた様子で「着艦」すると、同じく手慣れた取り決め通りに白い新刊服のようなものを着た天上領の役人(?)らしき人間が左右に奴隷兵を従えながらやって来る。

 

「ランバー商会の積み荷を検める。関係者は中に入って待て」

 

横柄というほどではないが、何となく高圧的な感じを見せる役人の言葉に従いながら船の中に入る。

 

同時に歩みを進めながら―――船の壁に手を付けて「解析」をする。

 

(完全にオーバーテクノロジーだ。地上の木造の船が主だというのにこの船だけは完全に近代船のレベルだ)

 

空を飛んでいる理屈はともかくとして……基本的に客船ではないからか床などはマットも無いむき出しの床で金属の音が「カンカン」と響くものだ。

 

奴隷兵に関して聞いている少女3人の痛ましい感情とは別にセツナは色々なことを考える。

 

(人工生命……ホムンクルスを作ることも出来ないのだろう精神操作された兵隊を欲するとはな……それ以上に―――)

 

ファルス・ファーゴのあまりにも天上領のことに「深入り」しすぎている様子に怪訝な思いを抱く。

 

ともあれ勝手知ったる様子で客間へと案内するファルス。その途中で王国側の客間を通ることになった。

 

「セツナ、あのヒトが?」

「ああ、リーゼロッテ嬢のお父君たる宰相閣下だ」

 

未だに特使は来ていないからか護衛の騎士となにかを話している騎士とは違う服を着ている御仁がいた。

 

イングリスに言いながらこちらに気づかれる前に去ることにした。

 

何となく間尺が悪いからだ。

 

「扱いが違うわっ!!!」

「そりゃ俺達は行政側の献上じゃないから」

 

流石に貴族の姫であるラフィニアとしてはこの扱いは耐え難かったようだ。案内された使用人用の部屋という場所は、一応は整えられていたが、先程の宰相閣下のいた部屋に比べれば……。

 

イングリスとラフィニアが菓子を食べる中、セツナは椅子に座り「準備」をしておくのだった。

 

そんな中、ファルスは自然体を装いながら今回の交渉の裏側を話す。

 

セツナがしている「転写」作業の最中でファルスがレオーネに主に語ったことは。

 

・今回の王国側の取り引きでは領土の割譲が齎される。

・ウェイン王子はこの取り引きに反対。

・しかし国王派閥である宰相が赴いていることでどうなるかは不明。

・そして、この取り引きを血鉄鎖旅団に狙われる可能性は高い。

 

「んで―――セツナ君はどう思うんだい?」

「お嬢さん方の前で事情通として振る舞いたいだろうから黙っていたんですけどね」

「馬鹿にするな。これでも俺は子持ちだ。節操は弁えているんだよ」

 

若い娘を怖がらせたい気持ちでいたのだろうという気遣いは、無駄だったようだ。

 

「どう思うも何もそうなんでしょうね。そして天上領としてはその特使が、「殺される」ことも織り込み済みなんでしょう」

「どういうこと?」

「天上領の国力がどれだけのものかは分かりませんが、これほどの飛行船艦を出してくるとは―――『地上側に過失があれば、撃つぞ』というメッセージもある」

「つまり『砲艦外交』のために……威嚇・恫喝を含めるように、この船で取り引きをしようというのか?」

 

レオーネの疑問に答えたことで気付かされるイングリスも顔を強張らせる。

 

「イングリスとラフィニアがノーヴァの街で知ったことを聞く限り、領土―――地上の大地が必要なだけ。となれば、これだけの船が5隻もそろえれば一斉砲撃を高空から放ち……あとはヒトがいない更地が出来上がるだけだ」

 

かなり恐ろしいことを言うセツナに対して想像力が追いついてきたお嬢さん方が青くなる。

 

「けどその特使を―――ああっ!!」

 

気付いたラフィニアに更に奥の事実を言う。

 

「そう。地上の領土侵犯の大義名分を欲するために、その評判の悪い特使殿を誅殺せんとするものが多い中に放り込む……天上領としても殺されても替えがきく人間なんじゃないかな?それなりに有能だが、それでも居なくてもあまり腹が痛くならない人間―――この『事実』を理解して思いとどまれる人間がいるかどうかだ」

 

だが、ファルスの言葉通りならばとんでもない俗物の可能性が高いわけで……。

 

「まぁどうしようもないならば、仕方ないな……以上のことは俺の考えすぎかもしれんからあんまり真に受けないほうがいいな」

「それは少々ムシのいい話だな。来られるぞ」

 

何故か……王国側の交渉よりも先に特使が赴いたのは、ランバー商会の方であり、ファルスの言う通り……扉が開け放たれて、そこから現れたのは―――

 

(ヒキガエルのような男だな)

 

今回の交渉相手……ミュンテー特使の第一印象はそれなのであった。

 

 

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