魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
正直言えば、目覚めたときから自分が何者であるかは分かっていた。しかし、なぜ、年齢が若くなっているかは分からない。
故郷である日本で席巻している転生小説の主人公でもあるまいし、などと我が身の不全を少しだけ思いながらも―――『遠坂セツナ』は考えた。
記憶喪失のフリをしたのは、『出た場所』がどう考えても時代が違うと思えたからだ。当然、『隣り合う世界』への移動というのにはその世界次第で時間流の違い『過去・現在・未来』という誤差は存在していたのだが、自分を拾ってくれたオルファーという家の様子と少しの会話から、この世界は『パラレルワールド』ではなく『アナザーワールド』であると結論付けられた。
そして今の自分は何の持ち物も無い状態だ。まぁ父親の秘技で大抵のものは『作れる』のだが……。
(一宿一飯の恩義も返せぬままドロンは拙かろう)
母ですらこれに関しては心の贅肉とは言うまい。そんな訳でオルファー家の従者という体で自分は異世界に居を移していた。
自分の秘技はなるたけ隠した上で、様々なことを探った。
一つに分かったことは、この世界はあまりにもレトロな異世界でありながら、俗なファンタジー作品のように『魔術』ないし『魔法』と呼べる技法は市民レベルでは普及していない。人々の生活水準は殆ど中世時代のものだ。まぁそれなりに差異はあり、工業製品としては既に銃火器の類は実用レベルだったりする。
つまり火薬を扱うぐらいにはなっているようだ。
二つに分かったことは、そんな世界でも超常能力・超抜能力の類はそれなりに知られている。市民レベルで普及していないだけで『知られていない』わけではない。この世界ではそれらのチカラは『天上領』と呼ばれる浮遊している大陸の人々から『魔印武具』という形で与えられて、それを扱うためには幼少期に
(まるで死徒どもの『イデア』のようだ)
自分がこの世界に来る原因というか遠因になった『都市村』での戦いを思い出しながら、その魔印というものを授かる儀式に『セツナ』もまた挑んだわけだが―――。
「何も出ませんね」
「マジか!?」
「な、何かの間違いじゃないの!?も、もう一回やってみてセツナ!」
オルファー兄妹。既に特級印を得ているレオンが『アテが外れた』と言わんばかりの顔をして、上級印を授かったレオーネが泣きそうな顔で言ってくる。
アールメンにある聖堂……デッカイ鳥の化け物がいるところとは別の場所にて、洗礼の箱に手を入れたセツナの手にそれらが出ることはなかった。
(成程、魔導に関わる技術を失われたのか、『喪わせた』のかは分からないが、この箱こそが人々を魔へと覚醒させるパンドラの箱であるということか、あるいは故郷での『使い魔戦争』の資格の付与のように)
冷めた考えの元、その洗礼の箱に所感を内心でのみ述べていた。
そして何より魔印を付与されない理由は理解できていた。
(魔力の扱いに関しては、俺の方に一日の長があるし、何より魔印の箇所が手だけならば、ある意味、俺の両腕は多くの人間の集合体だからな)
そりゃ洗礼の箱ちゃん(擬人化美少女)も大混乱だろうよ。
『ふえぇえ〜、このヒトいろんな意味でおおすぎますぅうう〜〜』(CV 諸星すみれ)
大体はこんなところだろうか。ちなみに魔印には
それはともかく、オルファー家当主であり、雇用主でもある大旦那様に『気にはしておりません。私は従者としてレオン様、レオーネお嬢様にお仕えしますから』と申し訳無さそうな顔をしているのに言っておく。
失望されていた方がまだ良かったかもしれない。そんなこんなで8歳ぐらいの年齢での洗礼の儀式は終わった。レオーネが『私の従騎士でも大丈夫だからね!』何の話やら?と思いながらも、オルファー家に仕える身としてがんばっておくのであった。
4年後……。
セツナが鍛冶師として動いていたのは洗礼の儀の前からではあったが、本格的にアレコレと依頼が届いてきたのはその洗礼の儀の直前ぐらいからであった。
当初はオルファー家の敷地内にあった鍛冶工房での作業であったが、少々手狭になってきたということで郊外―――といってもアールメンの外縁にて作業をするようになった。
いざというときには、この都市内で籠城戦をする構えもあるとすれば、そういう鍛冶工房は内部に抱え込むべきという意見もあったりなかったり。
(虹の王をアールメンの大聖堂から移すというのは本当なのかもしれない)
一度だけ、レオンに連れられて大聖堂の中に氷漬けになっている鳥を見てきたが、中々の大怪獣であった。
都市村で見た黒いガッチャマンの正体にも引けを取らない大怪獣であった。
などと感想を思いながらも、怖がるレオーネを宥めつつ見ていた大怪獣の噂話をしたのは―――。
「オースッ!元気してるか弟よ!」
このように鍛冶工房に入ってくるレオーネの兄貴で、そのプリズマーなる大怪獣といざという時には戦う男がいたからだ。
「弟じゃないし、そもそも国の聖騎士サマがこんなむさ苦しいところに来て良いのかよ?若君」
本来的には敬うべきだが、こういう場ではそうしろと言われているので、とりあえずそう返しておいたセツナ。相手も気にはしていない。
「馬鹿野郎、多くの人に慕われてこその騎士ならば色々と眼を行き届かせて無ければならないんだよ。それとそういうしゃっちょこばった言い方は止めろ。むず痒い」
そういう巷間の人々とも交わる兄貴分だからこそアールメンには彼を慕うものたちは多い。セツナの知っている時代劇で言えば町奉行が遊び人のフリをしているようなものだ。
(だからこそ危うい)
俗な世界のこと、そこに生きる人々も知っているヒトだからこそ、聖騎士という職に就いている自分自身の理想と現実のギャップに耐えきれないのではないかと思う。
(革命家というか過激な行動にはしる人間というのは、概ねインテリで家の地位もあり、その上で下々の人々とも交流する人間が多いからな)
つまり富豪で教養ある人間であるということだ。
「で、若君―――何の御用で?この間ラファエル・ビルフォード卿への腰刀を納品した時に、同じくお渡ししましたよね」
「おいおい拙速するなよ。別に研ぎの依頼でもないし、とんでもない器物を作れって言っているわけじゃない。実をいうとそのラファエル関連でな」
好漢としての顔を見せるレオン曰く、近々そのラファエルの故郷である城塞都市ユミルでちょっとしたセレモニーが行われる。
「監察ですか。なぜ俺が同行するので?」
本来ならば故郷であるだけに里帰りついでにラファエルという聖騎士が同行するのが筋なのだが、彼はウェイン王子殿下の気に入りなのか、それとも何か理由はあるのか、今回は同行できずにレオンにお鉢が回ったようだ。
「そのラファエル直々のご指名でもある。なんでもあいつには妹と幼馴染な妹分がいるらしくてな。お前やレオーネと同年代らしい」
引き合わせたいらしいということだが、それならばレオーネでも良くてもいいはずだが。
「天上人も監察に同行するんですか、なんかきな臭くないですか」
「だろ?そいつの名前は――――だ。お前が依頼を受けたものを渡すいい機会でもある。まぁとにかく、俺の従者という体で同行してくれや」
気楽に肩を組みながら、そんなことを言うレオンに何となくそれ以上言う気も失せて、了承することにした。急ぎの仕事は特にない。
農作業具や蹄鉄の類も既に納品済みなのだから。昔に魔印武具のことを知らない時に作り上げた『アレ』の依頼もない。
「ああ、だからといってそのラファエルの妹たちに見惚れすぎるなよ。なんでか知らないがレオーネに後で怒られるのは俺なんだからな」
「女子に見とれたことなんてないんですけど」
そんなこんなありながらも、衣装を仕立ててから城塞都市ユミルに向かうことに……、ちなみに何故かレオーネからはがっつり釘を刺された。なんでさ
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「で、そちらは?」
パーティーの中にて、自己紹介を求められたのでとりあえず言うことに。
「レオン・オルファーの従者であるセツナ・トオサカです。よろしくお願いしますミス・エイダ」
「はい。お若いのにしっかりしていますね」
「ありがとうございます」
定型どおりの社交辞令をしてからこの都市の騎士団の副団長である女性に一礼をしておく。
「申し訳ありませんね。エイダさん、本来ならばラファエルの方が来るのが筋なのに」
「いいえ、お構いなく……しかし、レオンさんは世間一般の聖騎士のイメージではありませんね」
「禁欲的な修行僧のように生きられれば面倒は無いんでしょうが、聖騎士といえど人間それぞれです。もちろん俺のような生臭な騎士ばかりじゃありません。ラファエルは一本気な若者ですよ」
無精髭に少し着崩した格好の聖騎士というのは確かに多くの人がイメージする清廉潔白というものとは程遠いが、まぁ取っ付き易くはあろう。
そんなこんなでエイダ女史と話している内に、どうやらラファエルの妹と妹分と言える少女2人がやってきたようだ。
「あの2人、前にいるのがビルフォード侯爵の娘であるラフィニア様、そして後ろで恥ずかしそうにしている銀髪の少女が私の上官であるリューク・ユークス団長の娘であるイングリス様です。ちょっと挨拶してきますので御免」
そうしてエイダが遠くから2人を紹介をしてくれたあとには、彼女は2人の元へと向かうようだ。
「すごいかわいい女の子だなセツナ、お前はどう見る?」
「どう見るも何も見たままでしょう」
「いや、お前―――見間違いかもしれないんだが、あの銀髪の子を見た瞬間、一瞬だが怪訝な顔をしたからな。どうしたんやらと思ってな」
よく見てるな。と思いながらも、とりあえず正直な所を言うのも憚られるので、気のせいだと言っておく。
セツナが見た限り……あのイングリスという少女は―――。
(ジジくさい魂の『色』をしているな)
どういう来歴の人間なのやらと思いながらも、美少女としての姿とのギャップで何か妙な気分になる。
見えてはいけないものまで見えてしまう自分の見えすぎる眼を恨めしく思いながらも、適当に食事を摘んでおくのだった。
そんなセツナの視線は―――。銀髪の少女イングリス・ユークスの気を惹いていたりした。
(あの少年……他の連中とは違い、私を卑猥な下卑た視線では見てこないな。寧ろ、嫌悪的というか……むぅ。何か気になるな……)
まさか
ともあれ少年以外は卑猥な視線で見てくるのでいたたまれずに早々とラフィニアの父であるビルフォード侯爵に挨拶しようとラフィニア……ラニを急かすのであった。