魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
あっさりと、というほどではないが殆ど苦戦する様子も無くセツナが手勢の1人を倒したことに、ファルス=ランバーは、驚くだけだった。事前情報を仕入れていても実地は違いすぎた。
「バカな! ガルマインをあんなに簡単に!!」
(ここで戦うべき兵ではなかったようにも見えますけどね)
相性が悪かったと言ってしまえばそれだけだが、それにしてもセツナの戦術眼は並ではない。新兵器・新戦術ともいえるものを実行した特殊兵を倒せた彼は―――。
(味方であることが悔やまれる!)
言いながらもファルスの二刀流。様々な効果を発揮する小剣を楽しむのだった。
そんな風にしながらも、戦いは続いていく。
レオーネが自身と同じような大剣持ちの兵士と戦う。望んだ戦いというほどではないが、それでも掛かってきたならばやむを得ずに応戦しなければならない。
「くっ……!」
『―――』
奴隷兵と同じくフルフェイスの
その一撃一撃の重みにレオーネは苦しくなる。しょせんは少女の体躯で、鍛えているとはいえ少女の筋力でしか無いレオーネが、身の丈以上の大剣を振るえる道理とは、魔印の加護とアーティファクトを持つことによるある種の身体強化が施されているからだ。
そして同条件にして自分よりも剛体な存在を相手取った場合にどうしても、不利を強いられる。単純な肉体性能の差である。
(こんな状態でもイングリスやセツナならば勝利をもぎ取るんでしょうね)
事実、セツナは2騎目の相手として顔面を角……短角で覆われた相手に挑まれている。闘牛のような勢いで突進してくる相手を避けながら、されど他の人間の邪魔立てをさせないように『何か』を使って相手の突進を殺している。
その様子に感心しながらも……レオーネは知恵を巡らせていく。相手は自分よりもパワーある存在。しかし決して無敵の身体を持っているわけではない。何より奴隷兵のように上半身が裸か簡素な衣類であちこちの急所がむき出しになっている。
(もしかしたらば、天上領にも異国にあるグラディエーターが戦い自由を欲する
騎士としての義務……兵役のようなものを課されたと宣うファルスの言葉からそんな想像をしたが、それはともかくとして……。
(やってやる!!)
レオーネは、決心して背中に隠すように大剣を構える。それはイングリス、ラフィニアと初めて会った故郷で鳥型魔石獣を一掃しようとしたときの薙ぎ払いのモーションに似ていた。
駆け出すレオーネ。大剣持ちの強化奴隷兵がどこまでの知能があるか分からない。しかし……。
交錯の一瞬、上段から振り下ろしてきた大剣をすり抜けながらレオーネは、強化奴隷兵の股下に滑り込んでいた。
「剣よ!!伸びろ!!」
仰向けの状態で寝るようにしていたレオーネは、『小さくしていた剣』を真上に掲げ構えていた状態から伸長巨大化させていき、それを腹筋運動の要領で上体を持ち上げて奴隷兵を左右に断ち割っていた。
先程までの攻撃でその体躯通りに足の踏ん張りを聞かせるためにワイドスタンスで剣を振るっていた奴隷兵を見抜いていたが故の陥穽。
これが普通のアーティファクトで魔印持ちならば長剣や小剣を扱う要領で身の丈以上の大剣を振るえていただろうが、この奴隷兵にはそれは無かったようだ。
(それにしてもいつもより切れ味が良かったような)
左右に半身を分かたれた中々に……惨い死体をあまり見ないで立ち上がったレオーネは、剣の切れ味に疑問を覚えていたところに、セツナの戦いも佳境を迎えていた。
角つきの強化兵は、その角を突進の最中に伸ばすことでセツナの間合いを崩すことを意図したようだ。直線の突進だけならばとんでもないそれを前にしてもセツナは構わなかった。
槍衾のようなその突進を前にしてもセツナは動かずに、否。
その突進よりも早く動き角を切り捨てていた。
『―――!!!???』
「視覚を封じられて、どうやってこっちを認識していたかを考えていた。結論としてはその角は『レーダー』の役割を担っていたということをな」
半歩だけ身体をズラしていたセツナの剣が交錯することなく、槍衾を横から切り上げていたのだ。
(レーダーってなに?)
そんな疑問を持ちながらも切り上げられた角の一つに小さな刃物が突き刺さっていたことが足元に転がってきたことで知れた。
「終わりなんだがな」
『―――!!!』
発生器官すら角に改造されていたのか叫びを全身で体現しながら絶命する角つきの強化兵。角を斬ると同時にどうやら既に袈裟斬りに終わらせていたようだ。よく見ると袈裟に切られていた身体から脳漿のようなものが溢れている。
「まさか頭部じゃなくて身体の方に脳があったの?」
「そのようだな。こんな頭じゃ頭脳体を他に移すことしか出来なかったんだろうな」
つくづく天上領の非道に嫌気を覚えたレオーネだが、ラフィニアの支援をするべくセツナに続いて動くことにした。騎士たちがかなり動員されて動いている辺り、どうやらコイツが一番厄介のようだ。
「あの頭部とイソギンチャクのような触手から酸性の液体を飛沫のように飛ばすか」
騎士たちの大半は、その酸性の液体を炎系統の奇蹟で蒸発させるなり、何かの壁を使って凌ぐ盾役だ。もっとも間断なき攻撃。360度の周囲に攻撃をしている……案外、スキのない攻撃手段である。
当然、遠距離攻撃持ち……筆頭たるラフィニアが光の矢で、頭部などを貫くのだが。そこが本体でないのか、そもそもどこが本体であるかも分からぬぐらいにどこを攻撃していいのか分からぬ。
(既存の生物の常識を当てはめていては無理だろうな)
負傷した騎士が出つつある現場。このままでは千日手だと感じたセツナは―――。
「セツナ、何か手は無いの!?」
レオーネに言われたことで勝機を作り出すことにした。
「ある。俺がチャンスを作る。レオーネはあのイソギンチャクを真っ向唐竹割りする機会に備えてくれ」
「えっ、う、うん!分かったわ!!」
セツナが返した真っ直ぐな言葉に少しだけ動揺しつつもレオーネはセツナを信じることにした。
昔からの幼馴染。自分の家に仕えることが『正道』だとキッパリと言ってのける彼を信じられないわけがないのだ。
そうしてセツナは切り落とした『角』の塊を手に壁に向けて走り出した。
「―――」
逃げたわけはない。しかし、その行動の意図を知れずに計れずに少しだけ呆然と見ていたわけだが、その後は驚きの連続であった。
壁に向かって走り出したセツナはその身体を横に傾けながら一気に天井にまで疾躍する。 およそ『常人』として有り得ない動き……アーティファクト持ちでも出来そうにないものに完全に惑わされた。
イソギンチャク型の強化兵ですらそうなのだから騎士たちもそうだった。
その全ての人間の『目』を縛り付けるような、吾影、糸をなす蜘蛛の如き動きは一瞬の遅滞を生み出した。
今や姿勢の天地を逆転させたセツナは、そのまま爪先で天井を踏んで一気に『イソギンチャク』の真上に躍り出た。 七■の体術にかかれば重力など何の束縛にもならない。垂直であれ逆さであれ、腿力をこめて踏める足掛かりさえあれば四次元の動きなど容易い。
故に―――イソギンチャクは……自分の
『『『『せぇいっ!!!!』』』』
気合一声。決して上級の魔印持ちばかりではなかっただろうが、それでも槍などの長柄のアーティファクトないし普通の槍を触手に絡みつかせた上で溶解液の軌道と蠢きを封じて、剣などを使って切り裂く。
一斉攻撃で攻撃手段の殆どを喪失した……イソギンチャク=ミアゾンは、ようやくのことで頭上の脅威ではなく周りに目を向けた時には、大剣で体を一刀両断してくる美しき少女騎士の一撃が入っていた。
―――バカめ―――それは義体の一つでしかない!!―――
そんな心の声が聞こえてきそうな『本体』の逃走。脳ミソにそのまま虫のような足を着けた気色悪いものは既にラフィニアの眼に入っており―――その身体が光の矢で貫かれて焼き尽くされるのは早かった。
・
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・
断末魔の叫びを上げる機能も無かったのか、イソギンチャクの本体である脳ミソ虫は、焼かれて絶命していた。
「美味しいとこ取りだな」
天井から降り立ち検分していたセツナは、そんな言葉で締めくくるのだった。
「いやいや、私たちこれでも頑張っていたからね!?小型の魔石獣も倒していたし、まぁ……あのイソギンチャクは、レオーネとセツナ君が来てくれなきゃちょっとマズかったかもしれないけど」
ラフィニアの言う通り既に小型の魔石獣は倒していた。予想外の奮戦が部屋に静寂をもたらしていた。
「それはいいわよ。それよりもイングリスは―――」
名誉や称賛よりも今はこの騒動を収めようと声をあげたレオーネだが……。
「こちらは、『孤独のバトル』で時間や社会にとらわれず、幸福に戦欲を満たしていたというのに、そっちはパーティーバトルとか!!」
「良かったじゃん。ファルス=ランバーとの戦いで満たされたんじゃないの?粗食か?」
ロープでぐるぐる巻きにされたファルス=ランバーをものすごい勢いで引きずりながらやってきたイングリスの性癖ならぬ戦癖から察するに大変、手出しをしないことで大変満足したと思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
「むぅ……なんだこの気持ちは……」
「寂しかったんだねクリス」
「違うと思うけど……むぅっ!ラニの意地悪!!」
そんなユミルの姫君たちの微笑ましいやり取りとは違い、油断なくファルスを見ながら得物に手を掛けておく。
「あんたの復讐心は人情として分からんでもないが、それだったらば……戦士ではなく『商人』としてイングリスや俺に挑むべきだったな。畑違いすぎたな」
「―――俺は俺の手で息子の仇を取りたかったんだ。他人を扇動して謀略でお前たちを追い詰めたとしても何の感慨もないんでな」
やれやれと思いながらも、どうしたものかと思っていると何かの鳴動が聞こえる。
一難去ってまた一難かと思いつつ、巨大な肉の塊……そうとしか表現出来ないものがミュンテーの死体があった辺りから湧き上がっていたのだ。