魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
現れた人型の魔石獣……3年前のユミルでのことを思い出すが。
「ほひょひょほひょほひょおおお!!」
明確な人語(?)らしきものを発しながらそのでっぷりとした身体を動かして周囲にいる数少ない魔石獣を『食らっている』点が違う。
(氷の手刀剣や炎の玉を吐き出したりもしている……あのルーンイーターとやらを基材にミュンテーと融合したというところか)
でっぷりとした腹部に人面瘡よろしくミュンテーらしきフェイスが出て声を挙げている。
ラーアルのときとは違う……まだ人を思わせる肌の質感がある怪物。そして、その自我が……強すぎたからだ。
「ヒョポポポ!ホヒョー!!」
段々と腹部にあった顔面が頭頂部とも言うべき場所へと登っていく。それが嬉しいのか何なのか声に喜色が出てきて気色悪いかぎりである。
「成長進化している……?」
「あれをそんな風に評したくはないね」
「で、どうします? あれ一応、特使であるミュンテー+1でしょうけど」
「……まともな知性があるとは思えんな」
交渉は不可能であるという宰相閣下の判断に皆が頷き、同時に『シン・ミュンテー』の進化は終わったのか、遂に明朗な言葉を発した。
鼻を疼かせて、嗅いだ匂いは血の香ではなく……。
「イイイイイイングリスちゃんの匂いがするぅうう!! いい匂いじゃあ!! イングリスちゃぁああああんん!! わしらと一つになるんじゃああ!! 一つになる!! 合体はとても気持ちええぞおおおお!!!」
舌をベロベロと上下に動かして恍惚の表情を浮かべるシン・ミュンテーに対して……全員が絶句するほどに暗い表情をしてしまう。
だから……。
「八番テーブル(?)にイングリスちゃん。ご指名入りました〜〜〜移動よろしく〜〜」
「はーい♪ ジャンジャンバリバリ高いお酒を入れさせてもらいまーす♪――――」
そんな戯けたやり取りをしたあとには……少しだけ屈伸をしたイングリスは―――。
怒りのドロップキックを『シン・ミュンテー』に放ち蹴り倒すのであった。
盛大な音と共に倒れ込む『シン・ミュンテー』。あわれ、カーラリアナンバーワンのアゲハ蝶は、おさわり・セクハラには厳しいのであった。
「さっきのアレは何なんですか!?」
「途中までノリノリだったじゃねえか。まぁ俺なりにこの澱んだ空気をどうにかしたかったんだよ」
食って掛かるイングリスに言いながら考えることはレオンとの思い出であった。
レオンに時々連れて行かれた『キャバレークラブ』を思い出して、マナーが悪いお客は貴族であれ騎士であれご退場願っていた黒服のボーイを思い出してのことだったが、女性陣には大変不評である。
「お兄様に連れられてそんなトコロに行っていたの?」
「聖騎士としては俗すぎるが、『国からの俸禄を溜め込むのは不健全』というのが、レオンの持論であり俺も納得の真理だしな」
金は天下の回りものという言葉通り持っている人間が使わなければ『下』にお金は流れないのだ。
特に国からお給金をもらっている人間は、そういうところで散財しなければ、中々「下」の方にお金は流れていかないのだ。
「レオンとしては、そういう身売りせざるをえない人間の中でも、ろくでも無い契約を結ばれている可能性も考えていたから、きれいどころに足繁く通っていたのさ。覆面調査ってやつだ」
「レオンさんは色々と考えていたんだね……」
(単純に気に入りの嬢がいただけの時もあったけど)
ラフィニアの感心した様子を見て、その辺りはレオンの名誉のために黙っておくのであった。
後ろの騎士や宰相閣下が『深く首肯』している辺り、まぁそういうことだ。
そんなわけで―――。
「いんぐりすちゅわぁあああああんんんn!!!!」
ようやく立ち上がった『シン・ミュンテー』は、どうしてもイングリスを手に入れたいようだ。
「キミをご指名だ。存分に相手してあげなよ」
「先程のやり取りがなければ何もなかったんだけどねっ!!!」
別のことを考えてしまうみたいではあったイングリス。
しかし、そうは言うが、シン・ミュンテーの攻撃はかなり変幻自在だ。
人間ではありえぬ間合いに、人間ではありえぬ飛距離……。
そしてその巨体ゆえに一歩の踏破速度が大きすぎる……しかし。
氷の触腕とでもいうべきものが身体のあちこちから生えたシン・ミュンテー……だが。
(ルーンイーターの特性をもつ以上、飛び道具を使えぬわけでもあるまい。氷弾、火炎弾を放たない理由は……)
イングリスにセクシャルハラスメントをしたくて接近戦をしているわけだ。
そして。
「そりゃあああ!!!」
気合一発!飛び上がったイングリスが、ミュンテーの頭にかかと落としを食らわせた。
もっともそこは急所ではなかったのか厚すぎる脂肪が邪魔をしたのか……。
「はたまたイングリス・ユークスという魔性の女への異常な執着ゆえか……」
「言ってる場合か!」
接近してきたことはミュンテーにとって願ってもない好機であってその長すぎる舌を伸ばしてイングリスに巻き付かせる。美少女の触手プレイ(爆)に騎士たちが何か赤くなったりしているが、その舌はイングリスの全身をまさぐる。
そして胸の谷間に唾液が落ちるほどに舌が接近した際にミュンテーは知ってはならぬことを知ってしまう。
「ほひょほひょほひょひょひょ! 甘い!やわらかぁあああい!!なんという娘―――じゃが、な、なんじゃこの『コンパク』から感じる苦みは!?まるで老j―――」
「やめてください。下品です」
イングリスが身体強化の上位版を発動させて全身をオーラで包むとその際に広がって光圧がミュンテーの舌を引きちぎり、自由の身となったイングリスは、自由落下の状態から彼女曰くの『エーテルストライク』なる魔弾を放ちミュンテーの全身を焼灼しつくすのであった。
光の中に消え去るミュンテー。すかさずセツナは誰にも気づかれぬように、『刻印保存』をして魔印をガメておく。
静寂をようやく取り戻した船内にて誰もが深い溜め息を突く。
「やれやれこれにて一段落か……さてさっさと脱出しましょう」
「うむ……。しかし、ここまでの大騒動になるとはな……」
今回のことで自分は失脚することになると理解しているのか何なのか、ともあれ脱出路へと向かおうとした際に気付く。
「あれ? ファルスさんじゃなくてランバーさんは?」
ラフィニアが気付いたこと……そこには誰も拘束していないただのヒモがあった。完全なもぬけの殻であった。
「―――やられたな。と言いたいが、別に彼を拘束しても意味はないんだよな。天上領の権力争いとかよくわからんし」
絡まれたとは言え処遇に困ってしまう。しかし、既にマーカーは打ち込んであるので……。
「とりあえず俺が探しますので、皆さんは宰相閣下と先に船から脱出してください」
ここで分かれることにするのだった。結局のところファルスのことは自分たちの責任だ。
そもそもセツナが……あのラーアルと一緒に自分の工房に来た時のファルスと違うともっと早くに告げていればまだ違ったかも知れないのだから。
責任の半分は自分にもある。
「そんな。我々は―――」
「これ以上の恥の上塗りは閣下も庇い立て出来ませんよ。護衛としての務めを全うしてくださいよ」
その言葉に気付かされたのか、少しだけ暗い顔をするも最後には姿勢を正して脱出するようだ。
それを見てから……セツナは踵を返してファルスを追う。
そして……。
「なんでキミ等も来るんだよ!?」
「ファルスは私が捕縛した捕虜だからね。最後まで面倒みなきゃいけない!!」
「血鉄鎖は、出てこなかったけどこの船にいないとは限らないからね!!」
イングリスとレオーネの理由はそれなりに分かるが……。
「なんかこっちの方がいいかと思って!!」
ラフィニアの理由はどうなんだと思いながらも船内の奥の方で悲鳴が聞こえる。
ここに来るまでにも魔石獣と戦って果てたらしき天上人の死体。
その他にも……魔石獣以外の死因だろう天上人の死体もあった。
つまりは―――。
「あがぁ……あひゅっ―――」
背後から胸を貫かれて呼吸を困難にしているファルスの姿があった。
槍で一突きされたそのファルスを持ち上げているのは媚態を強調した衣装の女であった。
(レオンとの再会の際に屋敷にいた女性……もしやハイラル・メナスか?)
鋭い目をした美女だが、現れたこちらに対して不機嫌を隠せない様子だ。
「イングリス・ユークスとラフィニア・ビルフォード……そしてセツナ・トオサカか、こんなところで会うとはな」
面識は無かったが、どうやらセツナが屋敷にいた際の『ちょっかい』は認識されていたようだ。
驚く3人に対して……。
「お会いしたことありましたっけ?」
「―――レオンから聞いている。我が家には正体不明の従者がいるとな」
どうやらこちらに合わせてくれる辺り、あの場でのことを内緒にしてくれるぐらいの思慮分別はあるようだ。
「だ、誰なの!?」
「血鉄鎖旅団の天恵武姫―――名前はシスティア」
レオーネは少し興奮気味だ。槍を一振りすることで成人男性の体重はあるだろうファルスを投げ飛ばすシスティアの膂力の凄まじさは紛れもなくハイラル・メナス特有だ。
(エリスさんもそうだがサーヴァント級のチカラはあるんだよな)
どうでもいいことを考えながらも。
「レオーネ!!」
ようやく見えた怨敵を前に彼女がそう来るのは分かっていた。
そこに―――。止める間もなく、システィアに剣を向けるレオーネの足元にナイフが突き立つ。止まったレオーネに対して奥の方から出てきた仮面の男。下手人が知れた次の瞬間……。
「セツナ!!!」
レオーネからの命じるような言葉を受けて、セツナは駆ける。狙うはシスティア。
その駆ける速度のままに腰の刀に手を掛ける。
「ゲッ!!??」
その速度はナイフを投擲した仮面の男を驚かせる。システィアも瞠目するも構わずに槍を突き出し―――。
背後に穂先が出現しセツナを貫くはずだったが―――。
(疾すぎる!!)
システィアが攻撃する以上の距離を走り回られては、必然的にアキレスと亀のようなさまになるのだ。
(俺の背後にマーキングするように魔法陣があれば、別だったんだろうがね)
既にその特性を見抜いていたセツナは、眼法でシスティアを止めながら、真っ直ぐに一直線に駆けて抜き払った村正は―――。
他の人間に止められた。システィアを守るために出たのは、仮面の男であった。
「団長……!」
「中々に強いな。レオンが自慢するだけのことはある」
感極まったとも、申し訳ないとも感じる声を上げたシスティアを背中にしながら鍔迫り合いをするセツナと仮面。
「アンタは?」
「血鉄鎖旅団を率いるもの―――名などないが団員からは団長と呼ばれているよ」
「若君が世話になっているようだが……私怨はないが主命によりお命頂戴する―――」
その言葉を受けて剣が弾きあうようになって仮面の団長との間に距離が出来る。
どうやらある種の殺気を感じ取ったようで警戒度が上がったようだ。
「……何者だ?」
改めての問いかけを受けて、セツナは佇まいを正して答える。
「オルファー家従者
自信を持って自身を紹介するのだった―――。たとえそれがFakeであっても、世界はそれでいいのだから。
余計なことは付け加えないのだ……と魔宝使いは自己を規定するのだった。