魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
「こいつは完全にダメだな……」
「機関部を壊された以上、この船もいつまで浮遊しているか分かりませんな」
魔石獣の仕業であったが、ここに魔石獣を誘導した人間がいたのだろう。
下手人が誰かは分からないが、とりあえず団長に判断を仰ぐしかあるまい。
「同志レオン」
「あんたらは帰還の準備を進めてくれ。俺は―――」
先程から船内にて凄まじい音を立てている場所がある。
機関部という奥まった場所でも感じる鳴動。
恐らく……自分の弟か、あのユミルの騎士姫がやってきているのだろう。
「俺はこの鳴動の原因を探ってくる」
そうして、レオンは大騒動の原因を見に行くのだった。
・
・
・
一度は、再びの激突を期したが―――。
「が、まぁ若君が世話になっている組織の首魁……いうなれば『社長』を殺すのはなんとも間尺が悪いな。というわけでレオーネには再考を願うよ」
全員がズッコケてしまいそうになるような気の抜けた言葉と同時に刀を鞘に収めるのだった。
「セツナ!!この人たちがいたからお兄様は拐かされたのよ!!」
レオーネとしては納得出来ないのだろうが、それでもレオンの心を聞かされていたセツナとしてはそこを否定しなければならない。
「それは違うね。レオンさんの考えではそっちのサムライニンジャが協力してくれたらば、1人でも起っていたよ。正確には2人か」
「我々は天上領の横暴を許せぬだけさ。彼らが地上に対する態度を改めてくれるならば、我々は何もしないさ」
その言葉をまるっと信じれるほど世を知らないわけではないが、まぁともあれナイフ使いと団長とやらの言葉を聞いても、レオーネは当たり前のごとく受け入れられない。
「なにはともあれ我々の目的は今回のカーラリアとの交渉相手である特使ミュンテーの殺害だ。それさえ成せれば君たちと争う理由は無いがね」
「魔性の女に狂って、魔性の女の手で抹殺されたよ」
「……成る程、特使ミュンテーは好色な人間であったからな。己の業が仇となったか」
「アンタらがアレにプリズムパウダーを飲ませていたんじゃないか?」
「―――キミのようなカンの良い子供は好きだよ」
「指摘したのは、こっちの魔性の女です」
その後には、セツナの背中を叩くイングリス・ユークス。
「天上人がプリズムパウダーに弱く、プリズムフロウという雨滴を浴びれば魔石獣と化すという事実。この事実の一点だけでも我々はもう少し彼らと対等になれてもいいと思わないか?」
「さぁ、政治のことは良くわからない。ただ単に―――」
瞬間、セツナは鞘から村正を抜き放ち神速の抜刀で―――男の指を切り取っていた。
「があっ……!!」
「―――オルファー家の為に忠義を尽くすだけだ」
立ち上がったランバーが鋭い廃材を手にレオーネを刺そうとするのを先に制した。
「ぐぅっ……畜生っ!」
「アンタの心は人間としては正しいのだろうが、レオーネを害することは許さん。狙うならば俺かイングリスからだろうが」
「俺の恨みを晴らすには……くそっ……俺の唯一の宝はお前たちによって奪われた! 俺が唯一守りたかったものは、既に貴様に!貴様らに奪い取られてる!!」
もはや言葉を吐くのも辛いだろうランバー。結局のところ……。
「そうですね。アナタから奪ったのは私とセツナです。もう返すことも出来ませんが、せめてその怒りには正面から応えなくてはいけませんね」
イングリスが言ってきたことで全ての決着は自分に託されたことを悟る。
「手は」
「出しませんよ。決着してください」
イングリスからの言葉にセツナは構えを取り、そしてランバーは天上人として得た騎士……戦闘者としてのチカラを全て発揮する。
手にどこからか出した木剣を持ったランバーにイングリスとラフィニアが息を呑む。二刀流となったランバーの勢いは凄いものだ。息子の仇を取らんとする親の執念か。
しかしながら決着の時は着く……。
一合、打ち合ってその膂力に応じ、三手を打ったのちに……。
「ぬううっ!!!!」
五合を以て―――。
「疾ッ!!!!」
体勢と腕が開き、がら空きの胸郭に鋭い突きが叩き込まれるのであった。
七手で決着となる―――。
「ラーアル……すまな―――い……」
システィアが穿っていた胸の穴に吸い込まれた剣は、二度の殺戟でランバーの口から盛大な血を吐かせて終わる。
そんな……死体となったランバーの眼を閉じて、せめて……ユミルにて息子の死んだ辺りに埋葬してやるかと思ったところに……
閃雷が横合いから放り込まれて盛大なまでの火葬となった。
全員が驚きながらも、セツナは荼毘に付すランバーに黙祷をしてから雷が放たれた付近を見るも誰もいなかった。
「い、いまのは!?」
「お節介焼きの兄君というところだな」
似たような攻撃を知っているだけに、レオーネは答えを求めて答えた団長だが、レオンの姿は見当たらない。
「撤収するぞ。君たちも早めに退避したまえ、この船は―――じきに墜ちる」
その言葉……仮面の団長の言葉通りに盛大なまでの揺れが船を襲った。
・
・
・
空中にて飛行船からの脱出組と合流したアカデミーの護衛チームは驚くべきことを聞く。
フライギアポートに乗っていた王国側の使節団。その中でも父親を持つリーゼロッテが主に状況に関して聞いていたのだが……。
「で、ではレオーネ達はまだあの中に!?」
「ああ、恥ずかしながら先に避難しているように言われてね……」
文官としての自分を恥じているのか何なのか分からないが、ともあれ救援に向かおうとするも。
「リーゼロッテさんは、お父君を地上に送り届けてください!」
「イングリスたちは俺達が迎えに行くからよ!!」
留学生の2人……今回の課外学習に正式に参加していたわけではないが、事態の急変を受けてアカデミーから即時に駆けつけられる救助部隊を寄越したミリエラ校長の手腕である。
その言葉に完全に納得したわけではないが、それでも肉親の安全を優先したいという心が少しだけ楽になったのは事実である。
「お願いします……!」
頼むことでしか今は事態の解決を願うしか無い。
・
・
・
・
揺れは段々と大きくなってきている。言葉通りに落ちているようだ。
「これもあんたらの仕業か?」
「我々の目的は特使ミュンテーの抹殺だけだ。もっとも他の天上人の方々にも、容赦するつもりは無かったがね」
その行動の是非を問う立場には無いが、その辺りは徹底しているようだ。
「その後に、この船を拿捕する予定だったのだが、これではな」
中々に、色々ととんでもないことをしでかすつもりだったようだ。
そうしている内に浮力を維持することも億劫になってきたのか揺れがひどくなる。
「団長、壊れた機関部では、いつまでも浮遊も持ちません。そろそろ」
「ああ、この状況ではやむを得ないな」
システィアの言葉を受けて団長を名乗る仮面は大穴を開けた壁から出るようだ。
(よく考えれば、気圧の差で吸い出されていてもおかしくないのにな)
その手の術がこの船に施されていることを今更ながら解析出来た。
そうしておきながらも団長は一家言あるようで、こちらに口を開く。
「ある意味、好都合だったかもしれんな。この状況では私を追うわけにはいくまい。諸共に死ぬことを選ぶほどではなかろう」
「ですが、私は残念です」
イングリスが返答した後に――――――
「キミはどうかね?ミスタ・セツナ」
何故かこちらにも聞いてくる仮面に嘆息する。
「逃げるというならば、どうぞご自由に。この船をなんとかせにゃならんので―――下は王都のど真ん中だ」
その言葉にレオーネとラフィニアが気付く。
こっちも命の危機だが、ソレ以上の危機もあるのだと……。
「我々としても手助けをするべきところだろうが―――キミの真価を知るためにも、ここは『見』に徹させてもらおう」
言葉と同時に、壁から飛び立ち血鉄鎖のメンバーが操るフライギアに乗り込む団長と以下数名のメンバーたち。
流石にけったいで怪しい服装の連中が操るフライギアは、周辺警戒している人間たちの眼を惹いていたのか取り囲もうとしていた。
それよりも早く囲みの穴から出ていくフライギアを見送ると……それと入れ替わりに一機のフライギアがやってきた。
「おーい! イングリス!!セツナ!!」
「ラフィニアちゃん、レオーネちゃん大丈夫ですか!?」
ラティとプラムが乗るフライギアがやってきたわけだが……。
(定員オーバーだな)
乗り込むレオーネ、ラフィニア、イングリスによって操縦席を圧迫されているのを見つつ、考える。
幾らか魔術で重量を軽減出来たとしても、それ以上に窮屈なのはラティだろうから。
「お前たちは先にいけ。流石に六人乗りは色々とマズイ。コイツが墜落するよりも先に、そのフライギアが飛行不能になりそうだ」
「け、けれどよ!」
「いいから行け。危機的状況で脱出避難するときは女子供が優先だ」
言いすがるラティを遮るように爆発の影響で上から降り注ぐ瓦礫で大穴を開けていた壁が塞がり……一応は、密室の状況は出来た。
「さて……こんな時にあれだが、火事場泥棒させてもらうか」
「お前はこんなときにもそれかよ」
「アンタがいなくなってからオルファー家の財政は火の車なんでな」
先程出ていった連中の中にレオンがいなかったのは確認済みであった。
ゆえにこうして状況を作りあげたのである。他の連中と違い仮面を着けずに、厚手のフード付きのローブを羽織るレオンは……。
「聖騎士にいるときにもはぐれものだったが、旅団にいるときにもはぐれものか?」
そんな皮肉を口にするも、乾いた笑みを浮かべて口を開く。
「一匹狼というわけではないがな。まぁ今回のランバー商会の策謀に関しては俺も無関係ではなかったからな……」
あの盛大な火葬はレオンなりの贖罪だったようだ。自分がやったことの顛末に思うところはあるのだろう。少しだけ自嘲気味な暗い顔がそれを物語る。
「■■■■―――■■■■」
レオンには分からなかったろうが、呪文を用いてセツナはこの船の全体に対して『停滞』を仕掛けた。これで時間は稼げているはずだ。
その間に何とか方策を考えてくれることを願うのみだ。
「で、どうするんだ?」
「まずは……レオン、お前に『届け物』だよ。とある天上人さんからの提供だ」
その言葉で案内をするのだった。デリバリーボーイな依頼をこなしつつ、脱出手段になるだろうものを『構築』しておくのを忘れないのでおくのであった。