魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『愛乱転意 それでも迫るは危難の刻』

 

いざセツナを残して脱出したイングリス達ではあるが、状況は良くない。

 

なぜかと言えば機関部を壊されたとする船は墜落しそうになっており、そしてここが王都であったというところに最大級の不幸がある。

 

(しかも話によれば主戦力たるラファエルたち聖騎士の殆どは国境のプリズマーの監視に回されているとのこと)

 

先ほど、こちらにやってきた宰相閣下の伝令からの情報で更に状況はマズイということを知る。

 

「クリス、どうすればいいのかしら?」

 

「とりあえず、あの忌まわしき船を城下街に落とすのはマズイからね。何とかアレを無人の場所に落とす方向で進めたいと思うよ」

 

ラフィニアの不安の声に答えながらも考えるのは……。

 

(予想よりも落下速度が遅いな……)

 

当初の高度がどの辺りであったかを正確にイングリスも覚えているわけではないし、ただ……所感でしかないのだが。

 

「? なんか落下する速さが遅くなっていないか?」

「ラティもそう思いますか。私も最初は目の錯覚かと思っていたんですけどね」

 

船外(そと)から事件を見ていた留学生2人の証言でイングリスの所感は確信に変わったわけだが、問題はこれをどうするかということである。

 

煙を吹き出す飛行船の降下位置は―――。

 

などと計算していた時に、静かな爆発音と振動が船から虚空(そら)に伝わる。変化はそのままに、緩やかながらも、本来ならば渡される予定だったのか、それとも他の用途だったのかフライギア・ポートが甲板から滑り落ちそうになっている。

 

大型のあんなものが落ちてしまえば―――。

 

フライギアの縁に足を駆けてイングリスは意を決して、飛び降りて―――。

 

その前に……船から一陣のシューティングスターが飛び出してきた。

 

 

流星と見紛う光を吐き出しながら空を疾駆する姿は―――。

 

「機関部分を消滅させろ!あそここそがあの船の動力源だ。それさえ射抜けば、『湖』の汚染は深刻にならない―――あとの除染作業は国の公共事業にしちまえっ!!」

 

「中抜きにならないことを祈るだけだ!!」

 

超高速の中でもそんなことを言いながら、飛行船を下方から狙う形で上昇しながら―――。

 

「狙い撃つぜ!!!」

 

セツナが持っていた『ホウキ』から正確に動力源だけを消滅させる光波を出していた。

レオンに寄越された鎧の動力源ありきであったとはいえ、その威力を吐き出しながら、その落着コースが確実に湖に向かったことにほっ、とする。

 

上昇の頂点でドッキングを解除。レオンの背中から出たホウキに跨り浮遊を成功させる。同じく巨大な飛行装置……レオンの雷獣であり電気を使うギフトを応用した鎧は、彼に新たなチカラを与えていた。

 

「このまま何事もなくいくことを願うが、そうでない時はレオーネを助けてやってくれよ」

「ああ、あなたも達者でな若君」

 

近い内に、また会うことになるだろうと予感しつつも一応は別れの挨拶を以てそこでの別れとなる。その鎧に搭載された飛翔装置に難儀しつつも、高速で明後日の方向に翔んでいくのを見送ってから―――。

 

「さて、とりあえず地上に向かうとするか」

 

ラティたちも流石に避難しただろう。と感じながらヴァリアブルロッドというものに跨りながらセツナも降下軌道に乗ろうとしたのだが。

 

「!?―――なにぃっ!?」

「セツナァアアア!! いま降りまぁあああす!!」

 

魔術回路にざわつくような感覚を覚えて、上を振り仰ぐとそこにはパンツ丸出しで降りてくる銀髪の女がいた。

 

(パンツじゃないから恥ずかしくないもんじゃなかろうに……)

 

思わず避けたいのだがそれは流石にマズイので、ホウキにスペースを作ったうえでそこに着地をさせる。

 

他者への干渉を果たした上での重量軽減と重力干渉で落着をさせたわけだが。ホウキに座り込んで姿勢を安定させたイングリス・ユークスに文句をいう。

 

「無茶をする……俺が何もしなければお前は地上でミートソースみたいな有り様になっていた―――いや、何か変な肉体強化で無事か?まぁ殺しても死ななそうな存在ではあるが」

「どういう評価なんですかそれ?そもそもレディをエスコートするのは紳士の務めですけど」

「なにかっちゃパンツ丸出しで紳士の所に降りてくるような女子をレディとは思いたくない」

「そ、それを言いますか、というかそんなところを見ていたんですかセツナは!!ヘンタイ!!スケベッ!!」

「見たくもないものを見せられるこっちの気持ちにもなってくれよ」

 

そこまで言われて魔女の箒のようでいて随分と機械的な……六つの小型推進機で飛んでいるものに女の子座りをしながら背中に抱きついたイングリスは憤懣遣る方無い。

 

この少年は初対面時からイングリスにその手の欲求を見せていない。下卑た性的な視線で見られるのは確かにイヤだが……一切そんな気持ちを持たれないのも何だかイヤな気持ちになる。

 

別に全ての男に容姿を称賛されたいわけではないが、それでも……。

 

(何なのだ。この気持ちは……)

 

モヤモヤとした気持ちを晴らすように、イングリスの魅力を再認識させるように、言葉を重ねる。

 

「美少女の下着を見れるということを役得とは思いませんか?」

「けどもさ―――パンツにウ◯チとか付いてる可能性もあるし、そんなの見たくないね」

 

セツナの言葉にイングリスは顔を赤くしながら反論する。

 

「付いているわけないじゃないですかっ」

「いやぁ分からんぞぉ」

 

ただ単にイジワルな男子である……と考えるには浅すぎる。

イングリスの秘密に近づいていることは間違いなく……同時に、セツナに近づく度に。

 

英雄王イングリス(ワシ)の感覚が薄れていき、ただの娘である感覚になっていく。有り体に言えば女としての意識と身体感覚が強くなる)

 

もちろん神聖騎士(ディバインナイト)としてのスキルが消え去るわけではないが、それでも男であった前世が遠い過去ないし、なんだか『そんな時もあったなー』というものになっていくのだ。

 

(セツナのせいなのか? いろんな意味でゴチャゴチャしているけど)

 

一先ずは、セツナの背中に腕を回して姿勢を保持することにした。

 

その際に一際大きく震える様子のセツナを見て怪訝に思いながらも深く抱きつくことで、『女』として少しだけ彼を労るのであった。

 

そんな二人の様子は――――。

 

「「こんな高い(たっかい)お空の上でいちゃつくんじゃなーい!!!」」

 

―――急速下降をしてきたフライギアの一機に乗っていた2人の少女を激昂させるのであった。

 

「いやそんな俗な欲求があったわけじゃないよラニ、レオーネ。5人乗りのフライギアでは狭いだろうからポートを消去した後に、機関部を消去したセツナのホウキに同乗した方がいいだろうと思ってそうしただけだよ」

 

「それは―――それよりもセツナ!?あの黄色と白黒のカラーリングの鎧騎士、アレはお兄様なんじゃないの!?」

 

もっともらしい理由を付けられて、それ以上の追求を出来なくなったことで他に話題を移す。

 

「主の質問とはいえ、それに関しては黙秘しておく―――それよりも、あの船を何とかする方が先だろ?」

 

レオーネの質問をはぐらかすような言葉に苦衷を覚えながらも、今にも王都に墜落しそうな船の危機を再認識させる。

 

「幾らかは鎧騎士アトラスのお陰で大幅な軌道修正出来たが、それでも湖へと落着させるには、最終調整が必要だ」

「どんな方法があるんだ!?」

「レオーネお嬢の大剣を超巨大化させた上で、それを用いて船を湖に着水させる」

 

ラティの焦る声に答える形でそんなことを言うと。

 

全員の視線がレオーネに注がれる。

そんなこと可能なのかどうか?という眼である。

 

その視線に自信を以て

 

「うん―――このアーティファクトをもらった時に剣の最大幅と最長伸がどこまで出来るのかを確認したからあの船を『はったたく』ことは出来るわ。ラフィニアとイングリスも手伝ってくれるわよね?」

 

その言葉に2人の乙女も諾と頷く。頷くのだが……。

 

「レオーネお嬢、俺は?」

「主家に背信をして隠し事をする従者はしばらく蟄居してなさい♪」

「ヒドくない!?」

 

とはいえ何もしないわけにもいかないことは理解しているセツナは準備だけはしておきながら地上への降下コースを共に取る。

 

(不合理な指示は、レオーネとしてはクリスとセツナ君をあんまり近づけたくないということなんだろうけどね)

 

その嫉妬ゆえの判断をラフィニアは理解しつつも、その辺を言わないでおくことにしたのだった。

 

「ラティ、プラム。他の人達への呼びかけを空からお願い。万が一私達が失敗した時のためにも、少しでも被害を減らしたいから」

「分かったイングリス。プラムはここに残れよ。お前のアーティファクトの効果ならばココからでも及ぼせるんだから」

「えっ、けども私だってルーン持ちだから決して助力出来ないわけじゃないのに!」

「お前が心配なんだよ!それに…プラムに万が一のことがあれば、プラムの兄貴に申し訳が立たない……」

「ラティ……」

 

従者としては失格な主への恋慕であるとは自覚している。

兄に言えば『節度を弁えろ』などと小言を言われるかもしれないが、幼なじみとして接してきた時代があるだけにプラムにはそんな厳格なことは出来ない。

 

感極まった様子のプラムと自分の言葉の恥ずかしさを自覚したラティを置き去りにしてお節介焼きの4人の愚連隊はクールに去るのだった―――が。

 

「重い!!」

「我慢してセツナくん!!」

 

ラティのフライギアから降り立ちセツナのホウキに乗ってきた2人の少女

の追加分の重みは、先程からアラームを鳴らしているホウキから分かる。

 

とはいえ、何とか降下落着を果たすと同時に空を仰ぎ見る。

そこには段々と迫りくるその巨大船。

 

物理法則(万有引力)の軛を超えて浮遊し飛翔していたものが、遂に物理法則(万有引力)に捕まりやってくるのだ。

 

 

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