魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『一件落着?しかして続く謀略の先にあるもの…』

 

 

迫りくる船。既に女子三人の準備は完了している。

 

レオーネの黒剣は最大になっており、その柄を三人で持つことで船を叩くことで、王城の周囲にある大きめの水路に落とす。 

 

カーラリアの王城はその歴史の長さゆえにただの防御施設という意味での水を『濠』として使っているわけではない。

 

水深も深く、『いざという時』に城から直接、ボルト湖へと出られるように設計されている。

 

もっとも今となっては一大強国へとなった影響か水運としての利用が専ららしい。この事態に面食らっているだろう王城の人々を気の毒に思いながらもーーー。

 

(何事にも予想外、予定外はあるかっ!)

「こんな時に魔石獣がっ!」

 

ラフィニアの悲鳴も当然だ。

プラムの竪琴のアーティファクトで十分以上のチカラとアーティファクトの強化を得ていたというのに、この不測の事態にーーー。

 

「セットーーー」

 

ーーー魔法使いは、左腕の刻印を開放して石床へと手を着けていた。

 

そしてとある世界の神秘の術……天の人々によって独占されていたそれとは似て非なるものが披露される。

 

★ ☆ ★ ☆

 

現れた魔石獣は恐らく船の中にいた生き残り……天上人の死体でも食らったのか、蜘蛛のような節足動物は遂に羽根を得てしまった。

 

もしくは残っていたプリズムパウダーでも飲んだのか、それに関しては議論の余地はあるが、ともあれ船から出てきた翅付きの蜘蛛たちは、こちらにやってこようとする。

 

(マズイーーー)

 

この巨大剣の保持にチカラを込めている以上、エーテルストライクなどの飛び道具は使えない。

 

かといって弓使いである(飛び道具持ち)ラニをフリーにすれば、今度はこの巨大剣を持つのが億劫になる。

 

ラニが悲鳴を上げたあとに……その言葉に答えるように、男が左腕の袖を捲りーーー左手を石床へと着けて。

 

『■■■』

 

イングリスには理解できない。というより異国の言語……共通言語(コモン)ではない言葉を吐いて、その後に変化は速かった。

 

そしてその左腕にビッシリと刻まれた魔印のようで魔印ではない精緻で複雑な紋章が導き出すものは数多の魔法陣であった。

 

(小型、中型、大型……超大型は無いが、これほどの魔法陣で一体、なにを……?)

 

イングリスの疑問に答えるようにセツナが向けた手、放たれるはーーー下から降り注ぐ虹色の光線の雨であった。

 

「ええっ!?セツナくんもクリスみたいなことが出来たの!?」

「こんな時になんだけど、あんな技巧も何も無い粗雑な放出技と一緒にされるのは心外だ」

 

イングリスとは違い右手ではなく左手が引き金か導火線の役割でも果たしているのか、彼が生み出した数多の魔法陣は彼と繋がり、そこに自分が生成した砲弾を詰め込み、そうして打ち出しているのだ。

 

魔法陣は砲台であり砲身の役割、そして砲弾と導火線ないし引き金はセツナが担う。

 

そういう術なのだと理解できたが、こんなものを再現出来るか?といえば不可能に近い。

 

イングリスには理解できない術理があると見たが、それでも虹色の光線は相当な破壊力らしく細い糸にしか見えないのに、一撃で魔石獣を消し飛ばしていく。

 

これを見せられると確かにイングリスのは雑な術であろう。

 

「下手に骸を残すと良くないからな」

 

独り言を愚痴るように言ったあとには……現れた魔石獣は全て消去された。

時間にして10秒も無い早業であった。

 

だが、また一つ飛ぶものが見えたーーーが、セツナは特に対処しなかった。魔法陣を消し去り、その飛んできたものを迎え入れた。

 

「わたくしもお手伝いいたしますわ!と言いたい所ですが、何だか魔石獣が出てきたように見えたんですけど……それはーーー」

 

羽根持ちのギフトを持ったリーゼロッテ・アールシアが、言ってきたことにドキリとしたが。

 

「船の中で魔石が完全に砕けていなかったものだ。さっき地面に激突して消滅したよ」

「そ、そうよ!!だからご助力プリーズ!!ヘルプウィー!!」

 

セツナの『ごまかし』に合わせるも、後半の方は少し頭の悪い発言をするラフィニアに苦笑しながらも感謝をする。

 

「は、はい!!ーーーセツナさんは?」

「少女四人の中に、男子が一人は緊張するだろ。構わずにやってくれ」

 

言いながら手を後ろにしてルーン文字を描き、気づかれぬように少女たちの足元に転写させていき補助をする。

 

ともあれ、四人の少女が合わせ持つ巨大な黒剣と船が激突する。

とんでもない衝撃と硬質の金属音の大音声が、離れたこちらにも伝わって、吹き飛ばされそうになり、耳を塞ぎたくなるが受けている四人の衝撃と振動はそれ以上なのだから不動で眼をそらさずにその結果を見届ける。

 

身じろぎなどせずに、そしてーーー。

 

『『『『いけぇえええええ!!!!』』』』

 

美少女四人の掛け声一発。その麗しき咆哮に答えるように受けた剣の腹は狙いあやまたずに船を水路に叩き落とした。

 

巨大な船の着水は当たり前のごとく盛大な水柱を上げてそのままに雨として降り注ぐ。

 

その結果に放心している四人だが、その様子を間近でみていたギャラリーから盛大な歓声を浴びて覚醒し、お互いを称え合う四人を見て、どうやらリーゼロッテがレオーネを認めている様子に安堵してからーーー『後始末』をするためにセツナは動き出す。

 

 

それは、自分が生きていることに驚きながらも、機を伺うことにした。

全てはあの銀髪の乙女を手に入れるため。あの娘とつながるために……。

 

船が既に墜ちていることを理解、自分の身体を九割以上も食らった蜘蛛の魔石獣が進化を果たして羽根持ちとなったことを理解。

 

そしてーーー。

 

(ワシは運が良い……日頃の行いが良いからじゃろうな!!)

 

船が剣と激突した瞬間……頭以外はナメクジのようになった身体は、船外に弾き出されて、カーラリアの城に落ちた。そしてーーー。

 

(イングリスちゃんは疲労困憊じゃい!! その身体にワシが違う疲れを与えてやるんじゃあああ!!!)

 

完全にセクハラジジイの考えで動いていたその奇妙な生物はーーー。

 

一本の剣で這いずるような動きを止められた。そして……。

 

『ぎっ……!!!』

 

剣から発せられた熱……炎が焼き尽くしーーー今度こそミュンテーの意志と魂魄をこの世界から消去したのだった。

 

 

全てを終えて、一息ついたセツナはミュンテーらしきナメクジのいた場所に突き刺さった黒鍵を消去してから、この事態の処理はまたもや『なぁなぁ』の玉虫色の結論で終わるのだろうと思いつつ……。

 

「どしたい? 麗しき乙女4人で戯れていればよかろうに」

 

やってきた銀髪の乙女に対応することにした。

 

「なぁに。ワタシなりに今回の一番の功労者を慰労してあげたいと思いまして」

「はて?確かに度々、ムラマサを振るっていたが、最後では役立たずだったからな。その評価は正しくない」

「ええ、けれども……あの時、船との最後の押し合いで私達を補助するための術を施していたんじゃないですか?」

「心当たりがございませんーーー、まぁ俺とて秘密はある。それをわざわざ暴き立てるか?」

 

はぐらかされず、されど真っ直ぐに見るイングリスに最後は節度を弁えさせるべく言葉を真剣にする。

 

「むぅ……」

「それと……それよりもキミには喫緊のことがあるのだがな」

「なんですか?」

 

顔を膨れさせるイングリスに言いながら、『■■布』を取り出して準備をする。

 

「水に濡れてしまってーーー」

「下着を見るぐらいは許しますよ。ラニ達も同じようなものですから」

「ーーー豊かな乳房が桃色の突起と共に丸見えだ」

 

ドヤ顔で余裕を見せていたイングリスの顔が間抜けになったあとには、自分で胸元を見下ろしたことで段々と真っ赤になる。

 

自分の状態を理解していなかった様子である。

百面相すぎるイングリスが動揺しながら口を開く。

 

「いいいいいいつからこんなことに!?」

「恐らくだがミュンテーの舌先がキミの胸元に伸びた際の出た唾液がある種の酸性の液体だったんだろうな」

 

その際に、イングリスは自分を保護するオーラ型強化を纏ったことで若干の不感となり自分がノーブラになったことを自覚出来なかったんだろう。

 

「それがなんで、下着だけを溶かす結果になるんですかぁ!?」

 

両腕で胸を隠すも豊かな胸は潰れており淫靡なものがある。

 

「キミの展開した『外殻』のイメージでは下着まで『保護領域』に指定されていなかったんだろ」

 

推測を述べながら何となくイングリスが前世知悉転生者だと仮定すると。

 

胸を保護出来なかった……下着を意識出来なかったということから、その前世は『男』だったのでは?と、思いながらも行動を起こす。

 

「ほら、この布で胸元を隠せ。ホウキにまたがった際に背中に抱きついてきた時から予測はしていたが―――」

「ならば、こうだ!!!」

「なんでさ!? ぎゃー!やめろー!!ヘンターイ!!!」

「普通、男女逆ではないですか?」

 

こちらの言い訳ともさらなる推測を消すようにイングリス・ユークスは、セツナに抱きつくことでその胸を隠すことにした。

 

いや、本当になんでだよ。

 

しかし、抱きついてきた方は色々と必死なのだった。

 

「アナタから……なんかイヤです!! 全然、女の子扱いしてくれないし!! 私の胸を見ても全然、赤い顔もしていないし!! 変な気持ちです……!! セツナはイジワルです!!」

「―――分かった分かった。俺が悪かったよ……」

 

流石にあからさますぎたか。と思いながら支離滅裂気味の言動で自分の胸に顔を埋めるイングリス・ユークスの髪を撫でて宥めておく。

 

完全無欠の戦士に見えて―――その老人のような魂の色が……銀色の乙女のようなものになるのを見ながら……。

 

向こうの方から、何故か怒りの表情でやってくるお嬢さん方(ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテ)にどう言ったものかを考えることになるのだった。

 

 

「そうか。そんな事態になったか―――」

 

 

『予想外』と『予定外』どちらにもとれる『報告』を既に日も沈んだ時間に聞いていた相手には全ては『想定内』であった。

 

中でも興味を惹いたのは、オルファー家の従者として今はいる存在だ。

 

「レオンに『鎧』は渡ったならば、それも一つの楔となるだろう……そして、彼は……」

 

あらためて世界そのものを覆す存在であると認識できた。

 

その能力は正しく『与えられる側』でしか無かったはずの『地上』を覆すものである。

 

「アルカードの皇太子殿下を鍛えているのも、実験だろうか?」

『恐らく、ただセツナ君にもまだ確証は無いようで』

「だからこその実証実験なんだろうね。ミリエラ」

 

その詳細が知れる日は近いのかもしれない。

 

今回の一件は色々な意味で天上領も揺さぶっている……近い内に同室にいる天上人以外からも天上領からのアクションがあるはずだ。

 

そう確信しつつ、今は……機を待つ。

 

目先の1戦2戦の勝敗など意味はない。

地の厚い『盤上遊戯』を打つことが重要なのだ。

最後には目的を達成できればいいのだと思いながら、カーラリア王国の王子……ウェインは、窓の外を見る。

 

そこには、アカデミーの入学式では見せなかった陰謀家としての顔を男は鏡に映すのであった……。

 

 

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