魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
そんなわけで新話お送りします
あの戦いから既に1週間が経った。
とんでもない戦いで後始末も時間が掛かるかと思われていたが、流石は王都なだけに様々な処理は怒涛のごとく行われ2日後には通常通りの『日常』が取り戻されていた。
そんな様子にアルカード出身の人間であるラティとプラムは、自分たちの『首都』であってもこんなに早く終わらないなどと嘆きを零していたのが印象的ではあった。
そうして日常を取り戻したアカデミーにおいてもいつも通り……というわけではなく、セツナはあることを依頼された。
『砕けたレオーネさんの剣に代わる剣を鍛えてくれませんか?』
ミリエラ校長のニコニコ笑顔に何かの『裏』を考えながらも、用意された鍛冶場を見せられて、まぁ『こんなもんだろう』と思いながら様々な改造を施して自分の『工房』にすることにしたのだった。
そうして3日後には……。
「ふむ……」
一本の剣が出来上がった。それはレオーネが持っていた
「改めて見ると、本当にスゴイ技術よね……」
「鍛冶場という男の職場に女が簡単に入るもんじゃないよ」
熟練の……神域に達した刀工ほど鍛冶場を神聖なものとして扱う。
でなくとも、職人というものは自分の職場を浄域と見て、自分の『業』を上手くいくように、天地の神々へも捧げる武器を鍛造するため・できるために神々に祈ることもある場だから、女というものを排除したがる。
事実、自分の故国では火の神様は自分の母親を殺した存在である。
とはいえ、カーラリアは二人の天恵武姫を擁する土地柄か、はたまたそれ以前から女騎士というものは多くいて男女平等―――とまでは言わないが、女性もまた男の職域にいることが普通で先進的なのだ。
(まぁローマ時代から女のグラディエーターなんてのがコロッセオで戦っていたからな)
異世界だからとかではないのかもと思いつつ、最後の仕上げを終えてレオーネに握ってみるように言う。
「これが私の新たな剣―――」
「ミリエラ校長曰く、次のカーラリアとの窓口となる特使殿が、前の剣と同じかそれ以上かもしれない大剣を持ってきてくれるそうだから、それまでの代刀でしかないよ」
結局のところ、人知が及ばぬ天上領の武器であっても流石にあれほどの大質量をぶっ叩いたことは、物質としての限界を超えていた。
専門的に言えば物質にかかる応力の『ひずみ』のメーターを振り切るほどの圧がかかっていたのだ。
「扱いに難儀するかもしれないが、とりあえずしばらくは辛抱してくれ」
とはいえ、レオーネも貴族の騎士姫。幼少期よりオモチャ代わりにレイピア型のサーベルを渡されていたこともある子だ。
そこまで難儀はしないかもしれない。
もっとも……レオーネに付与された魔印とそれに応じた武器が幼少期の努力を少し裏切っていた感は否めない。
「ちなみに、この剣は伸びたり広がったりは?」
「出来ません……」
「イングリスみたいに光弾を放つみたいな機能は?」
「ありません……」
「どっかからウマとかがやってきて私を乗せながら斬艦刀一◯みたいなことは!?」
「ねえっつってんだろーが、コンチクショー!!」
ワクワクした目で見てくるレオーネの期待を裏切るのは申し訳ない―――まぁやろうと思えば出来たかもしれないが、元々があの砕けた大剣の欠片を利用した鍛造だったので、下手に違う機能を付与してしまえば変なことになって、レオーネに怪我を負わせることにもなりかねないので、自重しておいた。
何よりミリエラ校長などは明らかにこちらの技術力を測っている様子であったのだ。
偽装・隠蔽は必要だ。
「とにかく、今はその代刀の感触と振り回し方を――――――こいつらの内の誰かで試してくれ」
言葉の途中で工房の扉を開けると聞き耳を立てていたのか顔見知りが雪崩込むように入り込んできたのだ。
「お、おじゃましま~す」
バツが悪そうなラフィニアがイングリスの胸を後頭部に乗せながらそう挨拶してきたのだが……。
「で!それがレオーネの新たなる剣なんですね!?」
そんなラフィニアの背中から勢いよく起き上がったイングリスは、目を輝かせているのであった。
「君は強者との戦いばかりを所望しているんじゃなかったの?」
「いやいや、新たなる
「お嬢にも言ったが、ただ鋭いだけの剣だよ」
アーティファクトなどのような特殊機能など無いと告げてから、面倒だからイングリスと立ち会えばいいやと思う。
「セツナは相手してくれないの?」
「俺はその武器を作った鍛冶師だからな。弱所も熟知しているんだよ」
もっともそんなものを突こうとは思わないが、ともあれレオーネの相手は目を爛々と輝かせているイングリスに任せることにしたのだ。
「ところでセツナ、私のは?」
「研ぎは終わっている。持っていけ」
イチから鍛造したレオーネの剣とは違い、こちらが終わるのは早かったのだ。
鞘込めの剣を手渡してから先に行ってるように促す。工房の後始末があるのだから仕方ない――――。
だが、その際に1人のピンク髪の眠そうな目をした女子生徒が外から覗いていることに気付きながらもとりあえず何も言わないでおくことにするのだった。
・
・
・
用意されていた闘技場での戦いは中々に伯仲していた。
「やりますねレオーネ!!」
「拳だけじゃなくて剣も達者なのね!知っていたけど!!」
美少女2人の剣戟勝負は、見目の麗しさ以上に野蛮な
そして時々見える魅惑の白と黒の
男の目を惹きつけるのは仕方なかった。
「なんかやらしーこと考えてない?」
「男の心を推察しちゃいかんですよ」
言いながら別に自分が性的興奮を覚えるものではないなどと付け加えることもなかろうと、剣戟を見続けるが、10分後にはどちらからともなく終わらせていた。
終了すると同時に両者に感想を聞くことにする。
やはり元の得物との差異はあるらしく、振り切った際の得物の長さ……リーチの違いに難儀しているところはあるようだ。
レオーネの方は、まだそれでいい。
問題はイングリスの方である。
(ヤツが得物にかけるエンチャントの質が桁違いだな。ある種、『強化魔術』とも『魔力放出』とも違う術理だからな)
あれならば、明確な物質としての得物が必要なのだろうかと疑問を覚えながらも、イングリスのオーラエンチャント(造語)を受け止められるだけの『マテリアル』など自分の手元には『一応』ないので、しばらくは我慢してもらうしかない―――だというのに……。
「セツナ、なんかこのカタナ、エーテルのノリが悪いです」
「おっしゃっている意味が分かりません」
「私が全力のエーテルを乗せると壊れるかもしれないんです!!」
「加減して使って」
「バカー!!」
「なんで叩かれるの!?」
理不尽な暴力に耐えながらも、イングリスに言っておく。
「一応言えば、いずれはそうなるだろうと思っていた。だが、俺の鍛造技術ではそれ以上のものは出来ない。天上領由来のマテリアルなんかも俺にとっちゃ未知の物質なんだ。今回、レオーネお嬢に鍛造できたのは本当に運が良かったんだよ」
鍛冶の神様『ヘパイストス』に感謝などと心にも無いことを心中で述べておきながら。
「えー、ほんとうにござるかぁー?」
「本当だっつーの。なんだよそのござる口調は」
「「「「ほんとうにござるかぁー?」」」」
四人揃って言うんじゃないよ!などと言うのを噤みながらも……。
「新しい得物がほしいならば今度来る特使殿におねだりすればいい。色仕掛けで」
得意技でしょ?と煽るようにイングリスに言うと。
「そんなわけあるか!……とはいえ、まぁユミルで壊してきた下級の魔印武具の欠片でも集めてアナタの為に集めておけば良かったか」
常習犯かよ。などと額を抑えているイングリスに呆れながら思っていると、校長先生がやってきて朗報を届ける。
そのポーズは何なんだろうと思いながらも、要約すると喜色満面のミリエラ校長曰く、ミュンテーに代わるカーラリアの天上領特使就任祝いの宴席にイングリスたちが招待されることになったらしい。
(ということはその席で、特使殿からレオーネに新たな剣が渡されるのだろう)
一度は聞いていた話に少しだけ脚色が着いたわけで、その辺りを含めつつ。
「
と言って後のことを少女たちに託すことでお留守番していようと思っていたのだが……。
「あっ、セツナくんもご招待されてますからね〜♪ ブッチしたらば怒られるだけじゃすみませんから」
ジーザス!などと言いたくなるほどに逃げ道を断たれたことを嘆きながら……
「ちなみにドレスコードは、やはりスーツですか?」
「まぁ男子はアカデミーの学生服でも構わないかと」
「良かった。それじゃお嬢は、『これ』で立派なドレスを仕立ててもらってくれ」
「お金あるんじゃない!?だったらセツナもイブニングを仕立てなさいよ!!」
「これは俺がオルファー家再興の為に貯めといた資金だ。俺が使えるものじゃない」
いわゆる家宰としての務めで貯めておいたお金なので、こういう場面……レオーネを、主家のお嬢を社交場で着飾らせるために使ってこそだと思って貯めておいたのである。
ちなみに
「そんな……なんでそこまで―――」
「前にも言っただろ。俺は大旦那様の無念を晴らすため……そして、自分を拾ってくれた家のために、全てを尽くすんだと」
それが成った時にこそ自分の人生を取り戻してもいいはずだ。自分を自由にしたかった大旦那様の心に従うのはそれからでもいいはずだ。
というかそうでないと不義理の限りで、節操のないことこの上ない。
そんなセツナの気持ちは―――。
「セツナのバカァアアア!!! セツナなんてキライよ―――!!!!!」
「なんでー!?」
バッチィン!!という盛大な音と共に振るわれた平手打ちで見事に砕けるのだった。
誰もがあ然とするほどに見事な平手打ちのあとには、レオーネは女子寮に走り抜けるのだった。
それを見送り、頬を擦りながら……。
「なんでさ」
「いや、理由ぐらい察しましょうよ」
レオーネと同部屋になったリーゼロッテが、ジト目でセツナを見ながら言うが、セツナとしては本当に見当がつかなかったのだ。