魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『進退両難!銀華の双輪が起こすものは混乱のみ!』

 

 

現れた白銀の獣人が何者であるかはエリスにも、同じ獣人であろうリップルにも理解できなかった。

 

自分たちと同じ天恵武姫(ハイラル・メナス)の類であれば何となくの『感覚』で分かるのだが、どうにもこの仮面の獣人にはそれが無い。

 

だが分かることはある。セツナがどこからか出した双剣。獣人もまたどこからかだした鉾斧とでもいうべき無骨な武器とがぶつかり合う度に……その獣人の長い尻尾……ネコ科の動物を思わせるそれが勢いよく左右に振れるのだ。

 

((なんか喜んでいる……?))

 

そんな訳で、セツナに対処を任せつつも周囲に危険だと言って避難させておく。遠巻きに見ている民衆にホッとしつつも。

 

(セツナもどうやらあまり被害を出さないためにあの獣人を留めておくようにしているようね)

 

彼が本気で戦闘をしようものならば、周囲にとんでもない被害が及ぶ。戦いの余波だけでも、建物のガラスや戸板が割れ砕けかねないのだ。

 

足を止めて獣人と打ち合う以上、正解だが……。

 

「同じ獣人でもなんか色々と負けている!!これが逆境というものなのかっ!?」

 

悔しそうな顔で胸に手を当てているリップルに苦笑しつつも、止めるべきなのは……。

 

「イングリス、やめておきなさいよ。なんか三年前のユミルでも似たような事を言ったけど、本当に今回はやめておきなさいよ」

「なんでですかっ!?いま、私が加勢すればあの巨乳の獣人をセツナといっしょに倒せますよっ!?いや、むしろ選手交代したいぐらいですっ!!」

 

巨乳の獣人という単語辺りでリップルに心の剣が突き刺さっているように思いながらも、とりあえず静止の言葉をかけておく。

 

「クリス、セツナくんも周囲に被害を及ばさないように戦っているみたいだし控えようよ。―――ほら!私達は、あの白い竜?みたいなのを狙おうよ!!」

「……白い竜かぁ……」

 

ラフィニアの宥めるような言葉にイングリスは気乗りしないような顔をする。

その態度にエリスは不思議な思いを覚える。

 

確かに現状、あの白竜とでもいうべきものは滞空したままこちらを睥睨している。

 

伝説に曰くの神々の肉体も焼灼せしめた『ファイアブレス』のようなものも吐かずにいるのだから、一応は無害とも言えるが…。

 

「あの高さだと直接ぶん殴ることも出来ないよね。ここには高い建物もないし。いざラニの弓とか私の光弾で攻撃して反撃してくれば目も当てられないよ」

 

苦笑しながら『やめておこう』とラフィニアに言うイングリスにエリスは怪訝に思う。

 

やはりちょっと『あの時』とは違うとエリスは感じつつ……。ミリエラから聞いた限りでは、ユミルに会った時からそこまで性格に変化は無いとか思っていたのだが。

 

ともあれ、被害範囲を最小限に抑えながら剣戟を続けていたセツナのたたかいは終局へと向かう。

 

「―――」

 

氷雪を纏い氷の巨大斧と化したそれを振り抜く獣人に対してセツナは双剣に火炎を纏わせて受け止めた。

 

双剣の重ねでも受け止めきれない膂力だったのかセツナの足元の石畳が凹み砕ける。

 

その攻撃を以て獣人は踵を返すようにセツナに背中を向けて逃走を図ろうとする。

 

「この瞬間を待っていた!!」

「クリスゥウウウ!!!」

 

もはや従妹の制止など聞かずに走り抜けるイングリス。狙うは白銀の獣人―――しかし……。

 

「待て!ドブルイニャ・ニキチ―――」

 

セツナにしては意外なことに、逃走を見逃すのではなく追い縋るように、求めるように手を伸ばしながら獣人の背中を追う―――。

 

そして……獣人は2人をフる形で何の助走も足を貯める様子もなく上空にいた白竜の元にジャンプして跨るのを確認すると同時に―――。

 

「―――チッチ―――乳ぃっ!?

 

走り抜けてきたイングリスの胸を鷲掴みにする形になった。

 

セツナも……あの獣人『ドブルイニャ・ニキチッチ?』なる女の尻尾でも掴もうと足を早めていたことが、この結果を生み、セツナもイングリスもつんのめるのを止めるために動いたのか、もう片方の手も自然とイングリスの胸を掴んでしまう結果となった。

 

もにゅん!!もにゅん!!という擬音が聞こえそうなほどに、柔らかなものであることは変形した胸の様子からわかる。

 

全員が口をあんぐり開けて、白目になっていそうな場面―――。そうしている内に獣人は白竜で飛び去ってしまったのだが。

 

真っ昼間から若い男女が乳繰りあう(誤表現)場面など公共に悪いと思うのだが……

 

「わるい……とにかく今は―――ううん!?おいイングリス、お前っ!」

「ようやく気付いたか。そう―――これこそが私の新開発した技!霊素封錠(エーテルロック)だ!!あなたの腕は今、私が拘束しているのだ」

 

驚くセツナに対してニヤリと笑うイングリス。

 

いつまでもイングリスの胸を揉んでいると思ったらば、そんなことをやっていたとは……というか揉む必要は無いんじゃないかと思っているのだが。

 

「ファルス=ランバーに逃げられた教訓かよ。それならば、なんでこんな風に『蠢いている』んだよ!?」

 

どうやらセツナにはイングリスが扱うエネルギーが見えている。それだけでなく、どんな動きをしているかも詳細に分かっているようだ。

 

ハイラル・メナスであるリップルとエリスには見えないものが見えているようだ。もしかしたらば手が感じた感覚で言っているだけかもしれないが……。

 

「その拘束がどれだけ強固であっても破られた場合に備えてある種の柔軟性を持たせているんですよ。相手の動きに合わせて強度と形を変えられるように」

「拘束の自動変形(オートチェンジ)か。だとしても―――」

「あうっ……セツナってば、かなりのテクニシャンですね。というか私のエーテルロック

がここまで変形を多彩にするだなんて、セツナは色んな意味で私にとって初めての男性ですよ」

「誤解を生む表現をやめいっ!!」

 

赤い顔をして目を閉じるイングリスの恍惚の表情は周囲の男性に鼻血をどばどば出させるほどに淫靡なものだが……ともあれセツナは『何か』をしたのか拘束から抜け出した。

 

胸から手が離れるその際にイングリスが『あんっ♪』などと、名残惜しいのか何なのか更に変な声をあげて周囲に血の海が出来そうになる。

 

「全くもって……なんでこんな時にやるの?」

「ついチャンスだなとか思ってしまったので」

「もうちょっと違う実践のチャンスを狙って!!捕縛しなきゃならない敵がいるとか、好意を抱く男性を捕らえたければまずはラファエル殿に実践してやれよ。彼の気持ちを察せれないわけじゃないだろ?」

「それ関係ないのでは?私はとりあえず一番難儀そうな相手に試して性能を試したんですよ」

 

それで胸を揉まれる結果になってもいいとか意味不明すぎる。この女? イングリス・ユークスに頭を悩ませつつも……。

 

「とりあえずラファエル殿には、先程のことは言わないでおいてもらえますか?」

 

「「「無理でーす(よ、だね)♪」」」

 

3人の女子に対する口止めは無理であり、王城での宴がスゴく怖いものになると思いながらも……。

 

「セツナには私の胸を揉まれてしまいましたので、罰として紳士らしくエスコートしてもらいましょうか♪」

 

などとイングリスのドレスと同じく赤系統のスーツを選ぼうとするイングリス・ユークスに頭を悩ませつつも……赤は自分のフォーマルカラーだとして少しだけ嬉しくは思うのであった。

 

 

 

数日後、遂に王城のパーティーの招待日

 

女子の身支度には時間がかかるということで、学園前の馬車乗り場において、赤のスーツを着たセツナは女子たちの到着を待つ。

 

「それにしても、校長先生はドレスを着なくていいんですか?」

「あら?セツナくんは、年上のお姉さんである私にも興味津々ですか?」

 

まるで他の女にも興味津々であるかのような文言には物申したいが、まぁとりあえず待ち合わせ場所にて同じく待っていた女性に話しかけておくのは手持ち無沙汰を解消するためであった。

 

そんなミリエラ先生は学園の教師としての衣装……ローブ姿のままであったのだから。

 

「そうですねぇ。やっぱり校長としてキッチリ交渉して色々と天上領から色々ともらいたいですからね」

「ふぅむ。例えば?」

「地上でも鍛造可能な魔印武具のための合金……その冶金技術ないしそういうものがあればとは」

「俺に任せようとか考えてませんよね?」

「考えちゃダメなんですか?」

 

その言葉に少しだけ考えつつ、まぁ考えておこうとは思う。

 

もっとも今まで見てきた殆どの魔印武具は自分の『丘』に登録されているわけであり。

 

(それを知られたら、どうなるか分かったもんじゃない)

 

俺を解剖しようとする連中ばかりになるかもしれない。金のガチョウの腹を捌いたところで金の卵が出るとは限らんのだが。

それを理解している連中ばかりとも限らないのが恐ろしいのだ。

 

「それと……血鉄鎖旅団が、ハイランドの飛行戦艦と同型のものを所有していたそうです」

「成程、フライギアだけならばどっかで騎士軍が捕捉出来ていたはずですが、『母艦』と共にやってきたならば航続距離は飛躍的に伸びるか」

 

ボカン?などとこちらの言葉に疑問符を一瞬覚えたらしきミリエラ校長は、とりあえず話を続けるに、なんでも大胆なことにボルト湖に入るための運河の一つに木造船として偽装した上で停泊していたとのこと。

 

「ボルト湖に入ってくる前に運河の入口で確かに船籍確認などはするんですが、どうにもそれも偽装されたのか、あるいは運河の関係者を買収していたのか……」

「どちらにせよ血鉄鎖は予想以上に戦力を有している。そして彼らはその気になればどこにでも襲撃を掛けられる。補給機能を持った船と同時に移動できるならば、それは完全にこちらの進路予想を裏切る」

 

しかし、それならば天上領(本丸)に襲撃を仕掛けるのが普通だが。

 

(天上領の人間、それも上層の人間には血鉄鎖に協力している者・組織・派閥がいるということか)

 

誰が敵で誰が味方であるかがはっきりとしない事態に頭を痛めながらも、そこは俺の考えるべきことではない―――と割り切るには少々深入りしすぎていると悩み、そして……ドレスで着飾った少女たちを出迎えながらパーティーへの道程を歩むことに。

 

 

 

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