魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
ラファエルの持つ魔印武具は、腰に佩いている竜の意匠が施された長剣だ。
それを抜き放つと、紅い宝石のような半透明の刃が露わになった。 淡く発光さえしているだろうか。美しい刀剣である。
そんな風に見ている連中がいる一方で、セツナはその武器を自動的に『解析』して『丘』に登録していた。あの剣はただの魔力剣ではなく、ある種の『鎧』も『展開』出来る多機能な武器であることを理解した。
(レオンはアレと手甲を比べて手甲を選んだわけだが……)
まぁ負担はかなり大きそうではあった。これはレオンがやる気が無いというよりも、ラファエルの方が剣技において優れており、代わりにレオンは徒手空拳の方に優れていたからだろう。
ラファエルの意を込めて剣戟を放つと、紅い光のような剣閃が縦横無尽にほとばしる。
相対するものが魔石獣であれば、どんなものであっても粉微塵になっていただろう―――。
そう、魔石獣であれば。
紅い剣閃の全てを迎撃するは、
武器がいいというのもあるだろうが、凄まじい力に速度に技の切れを、単純なパワーと魔力の圧で上回る蒼のライダーの攻撃はラファエルに汗をにじませる。
戦斧という片手で持つのも難儀する武器、小ぶりなハンドアックスなどならばともかく、それを片手で振るいラファエルを力負けさせる様子に、ラフィニアとレオーネが心配な目をしているのを見て。
(ホンマにコイツは……)
目をキラキラさせながら従兄のピンチに対して、何を考えているのかは詳細に分からないが……2人と違い『心配』『不安』ではないことは丸わかりなのだった。
そんなイングリスは体に震えを覚えていた。
明らかに恐怖ではないことを推察しつつも、このままラファエルが負けるのはマズイだろうとしてセツナは人知れずラファエルを支援することにした。
身体に溜め込んでいたルーン文字や
今までは不利を得ていた膂力がアップをして、体力の不足を賦活させられて持ち直す。
驚くラファエルだが、それでもその不思議に頓着せずに、獣人に立ち向かう。
「ラファ兄様がんばれーー!!」
「ラファエル様!がんばって!!」
美少女2人、うち1人は実妹の声援を受けてラファエルの動きが目に見えてよくなる。そしてあと一声ということで。
(君もエールをかけてあげなよ)
(そ、そうですか?では―――)
小声でイングリスに言うと、そんなこと考えもしていなかったようだが……。
「ラファ兄様!!がんばって!!」
愛しき少女の声が最後の踏ん張りとなったのか……。
「うおおお!!クリスの愛を受けて僕のドラゴンファングが冴えわたるぞぉおおお!!!」
剣戟がとんでもなくなっていく。
……とはいえ、なんか著しく頭の悪い発言をしたラファエルに狂化のルーンを付与しただろうかと悩みながらも、剣戟の決着は着く―――。
「なっ!?」
振り下ろした戦斧をそのままにラファエルに斬りつけるかと思ったところに、獣人はその戦斧を投げつけたのだ。
振り下ろした勢いのままに回転する戦斧が車輪のように勢いよく飛んでいく。
その攻撃に対して思わずラファエルは回避を選んでしまった。それほどまでに咄嗟の判断であったが眼の前の敵は逃せない。
しかし―――。
後ろには……。
(クリス!!!)
声なき悲鳴をラファエルの心中で溢れ出す。しかし、ラファエルの退路を2通りに分けた銀髪の獣人はこちらを逃さない。
徒手空拳であっても、その実力は間違えようがないのだから!!
そんなラファエルの懸念を打ち砕くように、飛んできた重量物を待ち受けるわけでもなく、迎え撃つように低く走り出したセツナによって
持ち手を正確に掴み、その重量物を軽々と持ったセツナの姿を見てイングリスは、やはり自分とは違うが何かしらの『技術』で自己強化をしていると見た。
そんなセツナは戦斧を詳細に見て、何かを見咎めたのか少しだけ表情を曇らせて、その表情のままに獣人の方を険しく見てから―――。
尻尾でふっ飛ばされたラファエルを避けて、獣人を見ていた。
ちなみにラファエルは、イングリスによって受け止められたわけだが。
その見つめ合いが十秒もあろうかという時に、白銀の獣人は去ってしまった。
「―――■■を砕け、か」
独り言を愚痴るように言ったセツナ。そして、その見つめ合う2人を見ていた時のイングリスの心臓はとてつもなく痛くなっていた。
飛んでくるラファエルを掴んだ際の衝撃のはずはない。ならば―――この痛みは……。
「クリス、受け止めてくれてありがとう。けれど身体は大丈夫かい?」
「はい。ラファ兄様、イングリスは大丈夫ですよ」
そんなやり取りをしながらも、イングリスの心は先程のセツナの姿に占められていたのだ。
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ライダーの撤退後、図太くも食事を再開しようとしたイングリスが、別口でやってきたらしき魔石獣を相手に指鉄砲のような術で迎撃したり大立ち回りが繰り広げられたりするのだが。
(なんか迎撃する度にこっちを見てくるな……)
まぁ殆ど働いていなかったので料理を保護することだけに終始してたりしたのだが……。
そんな風に戦いを終えたあとの食事を楽しんでいたところに。
「セツナはいる!?」
VIPたちの護衛をしているはずだったエリスが、部屋に飛び込んできたのだった。
「はい。いますが、どうしたんで?」
味に満足できなかったローストビーフの味変をして少女たちに振る舞っていたセツナだったが、その鬼気迫る表情から何かが起こったのだろうと、考える。
「ちょっと来てくれない?リップルの体調が悪くなったのよ」
それは体調が悪くなっただけではないだろう。そして、別にセツナは医者ではない―――薬師のマネごとぐらいは、魔術師としての知識の範囲内で出来なくはないが……。
そんなことは承知の上だろうエリスが自分を呼び立てるなど、どう考えてもそういう体調が悪くなったというものではないだろう。それを察しつつも、とりあえず知らぬ人間ではないリップルを助けることは普通だとしてエリスの先導に従い、王族や貴族たちが特使である天上人を接待しているVIPエリアに赴くのだった。
―――当然、イングリスたち『かしまし三人娘』+校長先生も着いていくのだが。