魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
「んでもってコイツは―――」
「オルファー家の家僕たるセツナ・トオサカです」
丁寧な一礼をしてから、2人の少女に自己紹介をした。その様子に不満げなのは、レオンであった。
「俺が紹介しようと思ったのに先んじるなよ」
「若君が面白おかしく私を評することでこちらのお嬢さん方を混乱させるのは如何かと思われたので」
「ああ、俺の自慢の弟だと言いたかったのにな」
だから言ったんだよ。と嘆く調子のレオンに無言で抗議。
「レオンさんの弟ですか……」
「正確に言えば弟分みたいなものです。家にお仕えしている従者に過大な評し方ですが」
「けどバランスは取れているのかも!私とラファお兄様もそんな感じだし!!」
このお嬢さん方には、どのように俺が見えているのやらと思いながら、銀髪の少女イングリスと黒髪の少女ラフィニアにげんなりとする。
最大にげんなりするのは―――。
(このイングリスとかいう女、先程からこちらを値踏みしていやがるな)
こちらの「スペック」を測る。有り体に言えば戦闘狂のような眼でこちらを見てくることに辟易する。レオンは特級印の聖騎士なんだから、そちらにだけ注目していればいいのに。
ある意味では目を輝かせているイングリス・ユークスなる少女は―――。
『おいおいセツナ、イングリスちゃんがお前を熱い目で見ているぞ。こりゃ将来の義弟がいなくなってしまう前兆か?』
―――馴れ馴れしく肩を組んで耳元で言ってくる兄貴分を誤解させる。
『アレが恋する乙女に見えるならば、あんた病院行った方がいいぞ』
どう考えても、狩りの獲物を見つけたとしか言えない眼であると思いつつ、最初にレオンに紹介されたシオニー監察官は既にビルフォード侯爵と井戸端会議的なことをしている。
「それと―――あちらにいるのが天上領から来られたご使者殿だ」
あまり紹介したくなさそうなビルフォード侯爵の言葉。視線を向けた先にはセツナにとってはかつての『依頼主』がいた。
しかし、次の瞬間には、『依頼主』はこのユミルにとっても色々と因縁があるらしきことを察せられた。
「ら、ラーアル殿……!?」
驚いたとしか言えない顔と言葉を出すイングリス・ユークスの様子。
それを見ながらもそのまま2人の会話を側聞するに、どうやら彼はこのユミルにも武装商人として赴いていたらしく、その際にいざこざがあったようだ。
あまり歓迎していない様子のビルフォード侯爵と2人の少女の様子から察する。
(地上の人間が天上領の人間になれるか)
地上の資産・貨幣がそこまで
豪奢な衣装というだけでなく、そういうマジックアイテムを身に着けている様子だ。
そしてラーアル青年曰く「地上で権力者になるよりも、天上人になった方がマシ」という言葉を聞くに……。
(コンプレックスだったのかね。ただの
父親であるランバー氏も同じかなと思いつつ、少々聞くに堪えない言葉の応酬なので介入することにした。
「女の口説き方が下手だなアンタ。天上領にいってもモテてないだろ。察するに
「誰だ!僕にそんな口を利くのは―――これはこれは、いつぞや以来だな。ウェポンマイスター……」
こちらの顔を確認した瞬間、少しだけ顔を改めるラーアル。やれやれと思いながらも、言葉を重ねつつ、イングリス・ラフィニアの横に入る。
「依頼を出したというのに受け取りに来られなかったのでな。まぁいい機会だからこうしてやってきたわけだが―――」
一旦言葉を切ってから―――。
「「非モテなの?」」
何故かイングリス・ユークスと重なる形で問うたのが気に障ったのか、激昂するように、口を開く。
「うるっさいよ!!……確かにセツナ、お前の言うとおりだ。だが、それは地上でどこかの国で貴族として取り立ててもらっても同じだ!成り上がりもので大いに結構さ!場所によって違うならば、まだ天上領の方がいいというのが父さんと僕の商売人としての最後の商いになったんだよ!!」
成程、その心の奥を解体したわけだが、そういうことならばまぁそこまでアレコレは言わないでおく。人間、清く正しく生きていたとしてもそういう眼で見られるコンプレックスは拭いきれないのだから。
「……で、僕の依頼は完了しているのか?」
話の転換を求めたというほどではないが、ラーアルはセツナとの関わりを問うた。
「ええ、この場で晒すわけにもいかないので、後ほど逗留先に届けに伺いますよ」
「ああ、それでいいさ。……悪いが少々はずさせてもらう」
その言葉のあとには別室に向かうのか少々疲れた様子で歩き出すラーアル。精神と肉体を操作されたらしき巨漢の奴隷兵を引き連れていく背中が少し小さく見えた。
十分にラーアルが見えなくなった後に―――。
「よくやった!」
大声ではないが、よく通る声で俺の両肩を叩きながら真正面から言うレオンは満面の笑みだ。
周囲の人間もまた流石に騒ぐことはマズイと思っていても少しの礼をしてくるのだった。
「大したことはしていないよ。ただ……まぁ依頼主があそこまで変わった理由ぐらいは知りたかっただけさ」
「それでもさ、お前の勇気に俺は感動しているんだよ。よし!嬢ちゃんたち!!ウチの弟が男気を見せてくれたので、俺のパートナーを紹介しよう!!」
「えっ!?聖騎士のパートナーって!!」
「ああ、天恵武姫。つまりハイラル・メナスさ。今回の視察にも同行してもらっているんだよ」
「エリスさん。宴は嫌いだから、たそがれロンリーガールしたいって言っていましたけど?」
「あれがガールって歳かよ。行くぞ!」
絶対に聞いていれば、ぶん殴られること間違いなしなレオンの言葉に嘆息しながらラフィニア嬢の興味津々な様子にどうしようもないなと思って、適当にサンドイッチやフライドチキンなどエリスが手づかみで食べられるものをチョイスして皿に乗せたうえでクロッシュを被せるのだった。
「ハイラル・メナスも普通の食事をするんですね」
「生肉を食ったり、生き血を啜る食の嗜好があるかどうかは本人に尋ねてくれ」
絶対に塩対応されるだろうが、と内心でのみ言いながらイングリス・ユークスに応えておく。改めて見るに本当にジジくさい……老境の域に入った魂の色。
それとは真逆の美少女すぎる面構えに、吐き気を催すとまでは言わないが妙な気分になるのは抑えられなかった。
あちらもこちらの視線の意味を測りかねている様子だが、自分を見てくる視線のたぐいとしては見たこと、見られたことが無いものなのだろう。
その後にイングリスとの会話はなく、天恵武姫への献上品……何故かイングリスもまた少しだけ違うレパートリーの皿を持ちながらレオンの先導についていく。
その間、イングリスという少女の視線の圧は絶え間なかったりするのだった。
・
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天恵武姫。
それは特級印専用の究極の魔印武具――に変化する能力を持った者達のことである。
人なのか魔印武具なのかは定かではないが、普段は少女の姿をしており、彼女らの意思で武器化することができるという。
そして天恵武姫が変化した魔印武具は恐るべき威力を発揮し、それを扱えるのは聖騎士だけ。 莫大な貢物と引き換えに天上領から遣わされる、地上を護る女神――最後の切り札、希望。そういう存在である。
天恵武姫と聖騎士の組み合わせこそが、国をも滅ぼすという最強の魔石獣に対する唯一の対抗策――そう言われているのだ。
そう、『魔石獣』
セツナが流れ着いたこの世界には俗に『モンスター』とも『魔獣』とも言えるものが存在していたのだ。
もっともこれらは、自然発生的な生命の系統樹に分類されるものではない。
……時に天より降り注ぐ『虹色の雨』……プリズムフロウという雨滴を浴びた家禽、家畜……あるいは野に住まう生物……恐るべきことに虫類ですら、これを浴びることで驚異の進化と成長を果たして凶暴化を果たして人間に襲いかかるのだ。
「まったく、なんであんな成り上がりものが特使なのかしらセオドア様でもよかったのに」
怒り苛立ち紛れにたまごサンドを食べる女を前にしながら説明するのであった。
「ビルフォード侯爵曰く、彼の元家業たるランバー商会は、ユミルをお得意様にしていたそうで」
「ラファエルもあのラーアルに少年期に剣で一本やられたとのことだぜ」
「成程、本当の狙いはビルフォード侯爵家への意趣返しがしたかった。そう考えるとレオンがセツナ君とやってきたのは正解だったということね」
ワイングラスと共にフライドチキンをかっ食らう美貌の少女(?)はそう得心したのであった。
「天恵武姫の方も普通に飲み食いするんですね……」
「生き血でも啜っていてほしかった?」
冗談交じりにそんなことを言うも―――。
「そうならないように務めたいわ」
少しだけ表情をシニカルにさせながら言うエリス。
「「??」」
2人の少女には意味が分からなかったろう。意味を理解している男2人は苦笑気味。
本当はラファエルの家族に会うこともエリスは避けたかったはずだ。
ここに来るのも避けたかったというのは何となく想像がついていたりする。
そうして「エリスさんが倒した最大級の魔石獣は―――」などと物騒極まりないことを言い出したイングリスの質問をぶった切るように悲鳴が屋敷中に轟くのであった。