魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
王城でのパーティーから帰還したとしてもやることは変わらんわけで、同室のラティにいつもの訓練を課す。彼も自主的にやっていたらしくその上達のほどが見えていた。
「それじゃ明日からは組み手に入る―――」
「ようやくか。師匠の訓練は中々にハードだったな」
「基礎を疎かにしてはならんよ。それじゃちゃんと風呂に入れよ。体を冷やすな」
「はい」
フィジカルエンチャントがようやく『イングリスレベル』になった汗を流しているラティを寮に先に返してからセツナは違うところへと向かう。
入り込んだのはミリエラ校長によって与えられた鍛冶場である。灯りは付けようと思えば付けられるが―――。
「
左腕の魔術刻印を用いて鍛冶場に魔術師の『工房』としての機能を『上書き』する。
そのうえでセオドアから寄越されたケースを開く。そこにあったのは銀塊のような塊が5つほどが収められていた。
「
この世界での名称が同じくそうであるのかは分からない。しかし天上領ではこの手の力ある素材を鍛造出来る技術があるようだ。
(問題はどこにそういう鉱脈があるかではある)
案外、天上領はそういう魔の力ある大地は既に地上から剥がして己の
そうであるならば、地上においてこういう魔力武器が中々出来ないのはありえる。
(とはいえ、地下深くまでつながる鉱山ごと持ち去ったところでそれだけが有力な鉱床というわけでもあるまい)
天上領が剥がした大地、特に山関連を調べれば―――。
「……そこまでしてどうなるというんだ」
オルファー家を復興させるうえでそこまではいらない。魔術師としての本能でそんなことを考えたのを自戒しながら―――。
「これと、これだな」
素人が見れば一瞥しただけにしか見えないセツナの鑑定で2つのミスリルインゴットを炉にくべたあとはそれを武器に相応しい地金にすべく延ばしていく。
汗が滲むほどの高温の中で一心不乱に鎚を叩いていく。その様子を見るものがいれば鬼気迫るものを見たというだろう。
延ばし、火にくべ、また延ばし―――そうして三十分ほど鍛えていると長めの銀色の『棒』が2つほどセツナの手で出来上がった。
会心の出来―――などという訳では無いが、本格的に鍛え上げる前段階へとなった。
セオドアの依頼では……。
一つは、イングリス・ユークスへの『剣』を。
一つは、アルカードのお忍び王子への『武器』を。
一つは、セオドアに『見せる』ための『剣』を。
三つの依頼。渡された銀塊を一つずつ使うならば残り2つは余るが……。
(なにかあった時のために残しておけというところか)
武器の修理、もしくは不測の事態―――他に欲しい、必要になった人間のために、残しておくのが筋だろう。
そう考えて『封印』と『適した魔法陣』の元に棒を乗せておいて寮に帰ることにした。
「流石に汗をかきすぎた」
風呂場はまだやっているだろうか。そう思いながらも、いざとなれば
そんな様子は見られていたりしたのだが……。
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「流石にこんな時間まで訓練している生徒はいないのかね」
まぁみんなして昼間の訓練だけで心身ともに一杯なのかもしれない。大きな湯船を独り占め出来るという贅沢を味わいながらも、考えることは……。
(ドブルイニャ・ニキチッチのことだ)
自分がこの世界にやって来たのは……色々とあった。一身上の都合ではあったが彼女もここにいる理由は……。
考えても詮無いことではないが、彼女がなにかに操られていることは間違いなくてそれを解放することは当然だろう。
「―――」
弛緩していたのだろうか、ともあれお湯を顔に掛けたあとには、隣にやってくる人間。誰だろうと隣を見ると……。
「―――――」
「あはは。男湯に参上しました」
なんでだよ!?と大声を出すことは優雅ではないなと思いつつ、タオルで上半身を隠しても隠しきれない肢体の見事さをこちらに見せてくる銀髪の美少女がいた。
イングリス・ユークス。色んな意味でトラブルメーカーでありトラブルシューターでもある恐るべき女怪である。
「むっ、なんか失礼な事を考えていますね」
「そりゃ男湯に来るような痴女だしな」
君にとって愉快なことは考えないと告げると、「それは確かに道理ですね」と言いながらこちらに擦り寄ってくる。
「おいイングリス」
「私に女をセツナは感じないのでしょう?ならばいいじゃないですか」
いいわけあるかい。と思いつつも、その体の柔らかさはまぁ悪くない。だが、それに甘えるわけにもいかない。
「実を言えば、一度はお風呂をいただいたのですが、セツナがセオドア特使からもらった合金を思い出して」
「覗いていたのか?」
「今回は覗けませんでした」
前回のような轍は踏まないとしたのが功を奏したわけだが、それはイングリスにとって面白くないようだった。
「安心しろ。お前さん用の剣ぐらい作ってやる」
鉄は熱いうちに叩けの通り、近日中には形になるはずだ。
「それは僥倖―――ですが、その他に聞きたいことがあります」
ちゃぷっ、という音で腕を延ばしながら掛け湯をするイングリスは話の転換を見る。
「あの白銀の獣人です。アレはアナタのなんなんですか?」
まるで浮気を咎めるような口調とジト目で見てくるイングリスになんでそんな態度なん?などと思いながらも言う。
「さぁな。俺も昔の記憶が曖昧だが、何となくあの獣人を知っているような気がしたんだよ」
「じー」
「なんだよ。そんな熱い目で見ても俺はお前に惚れないぞ」
疑われているのは分かっているが、だからと詳らかに出来ることでもないので、そんな言葉で躱そうとする。
「それはそれで秘密を聞き出すのに好都合な気がしてくる」
「その考えは破棄しろ」
こちらの言葉に悩むイングリスを窘めながら……。
「そもそも男と同じ湯船に入るとか本当、キミはなんなんだよ」
「おやおや私の魅力にドキドキですか?」
「見た目だけならばスゴイ美少女ではあるからな」
ただそこまで安い男ではない。少しだけ喜んだ様子のイングリスを見ながらも、次の行動に出る。
「そろそろ髪と体を洗いたいんで、その間にお前さんは出ていった方がいいぞ」
流石に男子寮の大浴場に女がいるというのは色んな意味でアウトだ。あの神経質な『先輩』に見つかれば大目玉ではすまないはずなのだから。
「ええー、もうちょっとお話しましょうよー」
「それならば上がってからでもいいだろ」
「いや、こういう場ならば秘密の話が出来ると思いまして」
それでここを選んだわけか。彼女にとってはグッドチョイスであっても、セツナにとってはバッドチョイスである。
そうして湯船から出る……当然、イングリスのようにタオルなどしていないのでモロ見えなのだが。
「くっ!裸こそが我が武器とでもいいたいのかセツナは!!」
「黙れ痴女」
向き直った際に見たイングリスの体が湯船から出て。
「ならば私もすべてを晒すことで対抗しよう!おっぱい揉んでおきます?」
タオルを脱ぎ去りその裸身を晒すイングリスの挑発に対して……。
「アホかああ!!!」
「!!!!!」
下から揉み上げるようにイングリスのその見事な乳房を何度も揉むことで黙らせるのであった。
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「ううっ、セツナのせいで変な扉を開きそうです。いざとなれば責任取って婿に来るか嫁に貰ってもらわなければ、割に合いません」
「ラフィニアから聞いたが、キミが従騎士の立場でいいと思っているのは、直接の戦いの機会を得るためなんだろう?意味なくないか?」
ぱたぱたと団扇でイングリスを扇ぎながらベンチで小休止。
はたから見れば逢引しているカップルにも思われかねないが、なんかのぼせたらしき様子なので、そうしていたわけだ。
夜風も合わさって落ち着いてきたのか伸びをするイングリス。
「もういいか?」
「あなたが私の柔らかさを名残惜しくなければ」
「ない」
「つれない男ですねセツナは」
そんなやり取りをしつつ、こちらとしても確認事項があった。それを分かっていたのかイングリスは口を開く。
「明日、午前の授業後にリップルさんの護衛のローテーションを決めるそうです。当然出ますよね?」
「それだがどうやら俺は午前授業は返上で武器鍛造しておけとのことだ――――。お嬢のこと頼むよ。どう考えてもそのチームの中に入るだろう上級生方は、オルファー家の令嬢にあまりいい表情と感情じゃなさそうだからな」
「出れないんですか?」
「分からん。とりあえずお前の武器の方を優先で作るように言われているからな」
ミリエラ校長としては、無印者であるイングリスが素手でも強いとしても明確な得物を持っていた方が色々と実力を知らない先輩方を説得しやすいのだろう。
いつ、リップルが招き寄せる獣人がやって来るかはわからない。そのためにも護衛チームにあまり疑義を発生させたくないというところか。
「がんばってくださいね。私のために」
即答出来ない言葉を付け加えたイングリスに答えずに。
「おやすみイングリス。風邪引くなよ」
「ええ、おやすみなさいセツナ」
そんな言葉でシメておくのであった。
そうして、そんなやり取りは、1人の先輩に見られていたわけで色々と混乱を招くのであった―――。