魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
午前の授業…マーグース教官のそれを終えた後にアカデミー内の一室に呼び出されたのは、第一回生からは、イングリス、ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテの四人だった。
本来であればセツナもまたここにいるはずなにだが、彼の武器鍛造はまだかかっているらしい。
「セツナがこれだけ時間をかけるなんてセオドア様が渡してくれた合金は、そうとうな素材なのね」
従者である男子の能力を存じているレオーネが少しだけ緊張した面持ちで語る。それを聞いてプレゼントを待ち望む心地になったのは仕方あるまい。
話を現状に戻すと、この場にいる一年四人の共通点は、特別課外学習の許可を受けている事。その条件にいる一年は1人足りないが、ともあれイングリス達のほかにアカデミーの上級生たちの姿もあるが、彼等もそうなのだろう。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございまーす。今日はすっごく重要なお願いがありますので、よーく聞いて下さいねえ?」
相変わらずミリエラ校長は、ちっとも重要そうに聞こえない物言いである。
皆少々拍子抜けの表情だが、彼女に続いてセオドア特使や天恵武姫のリップルが姿を見せると、ピリッと引き締まった。
これはただ事ではないな、と感じたのだ。
そして、ミリエラ校長が事態の説明をする。
天恵武姫のリップルの身に、異変が起きている事。
彼女の存在が、魔石獣を呼び寄せる状態になってしまっている事。
それを、セオドア特使の力を借りて解析し解決しようとしている事。
解決方法が見つかるまでの間、リップルの身をアカデミーで預かる方針になった事。
それら一連のことを聞いて得心した人間が口を開く。
「なるほど。我々はリップル様を護衛し、魔石獣が現れた場合に即座にこれを殲滅。周辺への被害を食い止めれば良いという事ですか」
そう言ったのは、騎士科の三回生の制服を身につけた男子生徒だった。
灰色に近い色の短髪で、眼鏡をしており、非常に美形かつ知的な印象の青年だ。
その右手に輝く魔印は上級印―― ではなく、虹色の輝きに包まれた特級印だった。
天恵武姫を武器として操れる資質を持つこの青年は、将来の聖騎士候補。救国の英雄というやつだ。
そして国政の中枢に近い親がいるからかリーゼロッテが、その生徒の名前をシルヴァ・エイレンだと告げてくるも、イングリスの心は……。
(……まぁプリズマーは私が倒す予定だがな!)
違った意味での対抗意識だけが現れていた。
その機会が訪れることはあるかどうか、はたまたプリズマー級の災厄が複数訪れる可能性もあるのでわからないが。
三年のリーダーとも言えるシルヴァの言を受けてミリエラ校長は、混成チームではなく、各学年ごとにチームを作って護衛をするように指示をしてきた。
混成ではないのは、それぞれの学年で気心が知れた同士の方がいいということなのだろう。
そしてミリエラはリップルの異変で現れた魔石獣を結界とも異空間とでも言うべきところに叩き込んで倒すように言うのだが……。
「それは対策的にマズくないかな」
「クリスはそう思う?」
「確かに戦闘の余波の被害を出さないのはいいんだけど、現れる魔石獣の総数が結界を展開したところで全てとは限らないから」
確かに魔石獣を呼び寄せるリップルごと隔離すれば、もしかしたら魔石獣もソレ以上出ないかもしれないが、もしも取りこぼしがあれば、異空間・結界の外で惨劇が出来上がるかもしれない。
「何より全ての魔石獣を倒す機会が失われる……!」
「珍しく誰かを心配していると思ったのに……」
「イングリスさんは、どこまでもイングリスさんですわね」
悔しげに拳を握ってのイングリスの言葉に、レオーネとリーゼロッテが呆れるような反応を示したあとに……その結界を張れるアーティファクトを持ってきたセオドアが皆に取るように言う。
とりあえず、魔印持ちではないイングリスはそちらに向かわなかった。確かに魔石獣との戦いは望むところだが、結界を張るのは他に任せておけばいいだろう。
そんなわけで各々、魔印持ちがセオドアの近くで選別をしていたわけだが……。
「イングリスさんはよろしいんですか?」
「いやいやセオドアさん。お気遣いなく。私はこの通りの無印者。宝の持ち腐れですので」
アーティファクトはそれぞれの人間が今まで扱ってきた得物の特性上、合わないものもいたわけで余っていたわけだが、魔印がなくても使えないわけではないイングリスだが……。
「弁えているな。しかし、なぜ従騎士科の人間がこの場にいるんだ?」
そりゃ選ばれているからだ。などと反論の挑発をしてイングリスに絡んできたこのシルヴァなる男の力を知りたいと思っていたのだが。
「メガネさんがそう言うからには、ケモミミ様の護衛に従騎士科の人間は相応しくないと、じゃあ私抜けます。メンドイんで」
その言葉を受けてユアという桃色の髪をした女子…二回生だろう従騎士科の生徒が出ていこうとしてシルヴァとの一悶着の売り言葉に買い言葉があったり、それを止めようとしたりするミリエラがやんややんやしていると……リップルが意識を失い、王城での再演のように、生まれた空間の歪みから獣人型の魔石獣がやってくるのだった。
・
・
・
すっかり遅くなってしまったが、来れるならば来るように言われていたので、遅ればせながらリップル護衛チームの集合場所に向かっていたセツナは、途中でその集合場所とやらからとんでもない力が溢れていると感じた。
乱痴気騒ぎだろうということは分かりつつ、行きたくないなーと思いながらもやはり足を向けざるを得ず。
部屋に入り込んだと同時に―――飛んできた獣人型の魔石獣。眼前にやってきたそれを腰に差していた村正はセツナの意とは別に切り捨てていた。
カッコつけて言えば『一刀如意』とでも言うべき思考と反射の融合からの剣戟であった。
「セツナ!?」
「ずいぶんな乱痴気場だなイングリス」
獣人を飛ばしてきたのはこいつの
「使えイングリス・ユークス!! お前の新しい剣だ!!」
「うおっしゃー!!!」
アン◯ンマン!!新しい顔よ!!などと言ってあんぱんの顔を投げるバタ◯さんの気分で銀髪の騎士姫に剣を投げる。空中でそれを浚ったイングリスは、鞘から引き抜きその剣を掲げる。
魔銀の輝きが室内であっても眩しいその剣。誰もが目を奪われた瞬間、それを明確な脅威と認識したのか獣人が殺到する。
「それじゃ――――私の全力を受け止めてもらいますよ!!」
言うと同時にミスリルの長剣に彼女のオーラが付与されていく。以前、自分の作った剣ではイングリスのオーラエンチャント……彼女曰くの『エーテルシェル』なるものを全力で込められないとの言葉。
そこから
まるで切れやすい豆腐でも斬るかのように殆ど抵抗なく魔石獣と化した筋肉隆々の獣人を切り裂いていく様子は全員を唖然とさせる。
「バカな!彼女は無印者のはず!!それなのに―――」
「さらに言えばあの剣は魔印武具というわけじゃないですよエイレン先輩」
「それもまた驚きだけだ………ただ単に切れ味鋭いだけの剣だとトオサカ君は言うが……」
「なんか変なオーラとでも言うべきエネルギーを自身の身体や得物に込められると彼女は宣っていますけどね」
「むぅ。東洋の神秘の武術『気功』というものか?」
さぁ?と無言で手と肩を使ってジェスチャーだけでわかりませんと伝える。もはやアイツ一人でいいんじゃないかな状態で、全ての魔石獣の獣人がイングリスの手によって切り裂かれたのだが……
「第二波だ!!」
誰だか知らないが、二年の先輩が叫ぶと空間の歪みが再度発生する。そして出てくるのは―――。
(ライダーはいないな……)
魔石獣の集団。獣人が主だが、普通の獣形……狼犬タイプもいる。
歪みの中に『あるモノ』を投擲をしてから、どうしたものかと思う。
「セツナ、これいいですね!!私のエーテルの全力を受けても壊れません!!」
喜色満面で刃物をブンブン振ってくる美少女に辟易しながらも状況の解説が欲しかった。
「満足したみたいで何よりだが、なんでこんな乱痴気騒ぎになっているんだ?」
リップルが意識不明になったのは分かるのだが、こういう時に率先して動くだろうシルヴァがあまり動いていないのが、少々変に感じた。
「シルヴァ先輩が『無印者』なんて戦力にならないと言ったので、そうではないことを証明するためですよ」
「まぁそれも一つだが、雑兵がいなきゃどうやってもジリ貧だろ。シルシ持ちが攻撃するまで魔石獣を制するための人間は必要だ」
その言葉にシルヴァの目が鋭くなる。
「君は……そのようにシルシを持たない人間の犠牲が出る戦略を立てるというのか?」
「犠牲が出るかどうかは分かりませんよ。武器の性能や魔印持ちの実力だけで全てを決せられるのならば、我々は別に前に出なくてもいいんですけどね」
怒りを覚えているシルヴァに言いながら、セツナは手の中にあるものを召喚してから続々と現れる獣人たちの前に立ちふさがり、結論を述べる。
「要は―――戦い方だ」
言うや否や、獣人たちの面の前にあるものを投げる。それは彼らの食欲を刺激してそれらを食べた。
次から次へと『それ』を放ると食べる獣人たち……。
「何を―――」
「投影開始」
シルヴァの戸惑うような声を聞きながらもセツナは、自らの武器を手に瞬発した。
「無茶だ―――無印者の彼では!!」
シルヴァではない先輩が言うが、構わずセツナは『赤い槍』を振るい―――次の瞬間には防御することも出来ぬ体調不良から吐瀉物を吐き出し、痙攣している獣人たちを倒していく。
やはりディスペルウェポンを使うと魔石獣はかなり『柔く』切り裂ける。これはつまり魔石獣が『魔的な力』で強化された『生物』であるということだ。
獣人は確かに生物としては、強いが―――犬狼という特徴。イヌ科の哺乳類としての特徴が枷となっている。
そこを突いたのだ。イングリスほど圧倒的な戦いではないが十体ほどの魔石獣を倒したセツナは……。
(ライダーは出てこないか)
空間の歪みは既になくなっており、リップルの意識不明も解けていた。
つまり……増援は無い。
「やはりセツナくんとイングリスさんこそ一年エースの両翼ですねぇ」
どういう評価なんだろうというミリエラ校長の言葉を受けてなのかイングリスが、自分の腕に抱きついてきたりしたのを鬱陶しいと思うも、ここにいる男子生徒からやっかみの視線が飛んでくるのだった。
「で、セツナ〜。イングリスちゃんのおっぱいの感触を楽しんでいるところ悪いけどさ、まさかあの魔石獣たちに『毒』でも飲ませたのか〜?」
絡むように険相を見せてくる調子を取り戻したリップル。如何に魔石獣と化したとはいえ、同胞に毒を飲ませて倒すなんて所業はあまり好かないのだろう。
そんな心を察してセツナは種明かしをすることにした。
「まぁ毒と言えば毒です―――――――正体は、これなんですけどね」
言ってからセツナが手の中に出したもの……それは……。
『『『『『オニオン!?』』』』』
俗に玉ねぎと呼べる『食材』であった。