魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
「なるほど、確かに犬狼の類にオニオンを与えると調子を悪くするというのは聞いたことがありますね」
「迷信にも色々と理屈はあるのさ」
ジュージューと焼ける鉄板ステーキを食べながらイングリスは、この男の知識の範囲は広いものだと思う。
そんなイングリスとは対象的にセツナはある種の酸性物質が犬には有害であることを知っていたのだ。
これは、『ここ』に来る前に知った元の世界での自然科学の分野での話である。
もちろん、そんなことは言わないのだが。
「それにしてもあの魔石獣と化した獣人は簡単にオニオンを食べたよね?拒否反応みたいなものを示しても良さそうなのに」
「まぁ俺の『オニオンステーキ』を食べているリップルさんの反応から察するに、
獣人であった時には別に問題なかったんだろうさ」
ラフィニアに答えながら、その片方で魔眼の『幻術』を利用して骨のように見せていたということは語らなくてもよいだろう。
「けど、なんだって玉ねぎなんて持っていたんですかセツナさんは?」
『シャリアピンステーキ』を作るセツナは、そこに疑問を持つかと思いつつも、特に隠すことでもないので、この中では一番、爵位が高いだろうリーゼロッテに答える。
「食堂の人たちが今日仕入れた牛肉が随分と『硬い』ことを嘆いていたからな。食材卸の人も納品する際に、申し訳無さそうな顔をしていて―――まぁそれでだ」
貴族子女が多く通うこの学校で、そんな硬い肉を食わせるなんてのは責任問題とまでは言わんが、顰蹙を買うかもしれないことだった。それを助ける術があるならばセツナは出し惜しみはしない。
「レオーネは、この『オニオンステーキ』を食べたことあるの?」
「うん。ウチの財政状況が悪くなった頃にそんな風にいい牛肉が買えない時に、セツナがこれを作ってくれてね。あれ?けどその時ってそんな料理名だったかしら?」
「俺も忘れちまいましたよ」
うっかりレオーネには『シャリアピンステーキ』などと紹介したことを自戒しつつも、とりあえず『梅干し』を利用したライスと合わせた『シャリアピンステーキ丼』を提供、自分も食べておくのだった。
「それにしてもあのユアって先輩は何なのやら、不思議ちゃんすぎて調子狂う」
「私としては手合わせしたい強い人ですけどね」
「そうなのおっぱいちゃん?」
「食事時でなければ、アナタをひっ叩き―――まぁいいでしょう…」
ユアに付けられたあだ名でイングリスを呼んだが変な反応を示したことに怪訝を覚えながらも、話は続く。
「ユア先輩はサムライケメンたるセツナに武器を要求していましたね。作るんですか?」
「まぁセオドア特使も特に何も言っていないしな。それとユア先輩にもいったが、サムライとイケメンには間を開けろ。合わせ技は腹立つ」
人の名前を覚えない二年生のユアが一年に付けたあだ名はなんとも言えぬ心地にさせるものが多かった。
イングリスはおっぱいちゃん
ラフィニアは小鬼ちゃん
レオーネは二号ちゃん
リーゼロッテはトンガリ
……ドリルという兵器概念は無いのだろうかと疑問に思いつつ、セツナは自分に付けられた『サムライケメン』とやらに抗議して――――。
『じゃあイケメンサムライで』
合せ技をやめる代わりにそんな名前を付けられてしまうのだった。
(別にサムライというわけでもないんだがな)
一応、自分の生家が武士の家であったことぐらいは知っているのだが、遠い昔の話だ。
感慨とまでは言わないが、そんなことを考えていると午後の予定はどうしたものかと思う。
「クリスがリップルさんと手合わせしたくて」
「言うことを聞かない?暴れ牛のように?」
「「「そういうこと」」」
イングリスを除く一年女子3人の大合唱。少しだけ膨れるイングリスを見ながら、一応、護衛任務である以上、固まっているのが常識ではあるが、セツナとしてはラティに訓練を付けたいのだ。
そんな中、大人組の間で一つの会合が持たれていたわけで―――。
結果として……。
「セツナくんにはリップルさんと戦ってもらいますね♪」
ミリエラ校長の鶴の一声のごとく唐突な決闘が組まれるのだった。
・
・
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Interlude……。
校長室にてセオドアとリップル―――当たり前のごとくミリエラの三人が話し合っていた。
「予想外としか言えませんね。そもそも、あのミスリル合金を『融かす』ことすらこの地上の冶金技術ではかなり不可能に近かったはずなのですよ」
そう言うセオドアではあるが、地上にも大砲を作るための『反射炉』ぐらいはあるので、そこの熱量ほどあればと思うが……個人が持つような鍛冶場の『炉』では、そんなことは出来ない。
だというのに……セツナ・トオサカを名乗る少年はそれを可能にしてしまった。
これはとんでもないことだ。魔印武具を地上でも作れるとなれば、天地の関係が変わる。
「ウェインが彼を天上領との関係を変えるための鍵とするのも分かる」
苦悩と称賛のどちらとも取れる顔をしながらセオドアはつぶやく。
「セツナはオルファー家から借り受けた鍛冶場で、そういう『力ある武器』を作れたからね。その事実……天上領との事を知らなかったからか、まぁレオン君が
セオドアとリップルの言葉にミリエラは考える。今までは、オルファー家に現れた正体不明の従者。
詳細は知らないが、それらの事実の価値を低く見積もっていたのは間違いない。
こうなってくると、詳細を知らなければならないと思う。馬鹿正直に話してくれる輩でないことは、何となく分かる。
ただそれでも……。
「それじゃボクがセツナの全てを引き出してみよう。彼の秘密の一端を知っていたものとしての義務というか罪滅ぼしというところかな?」
ミリエラの心労を増やすのも悪いしねなどと付け加えたリップル。
その言葉に頼もしさを覚えながらも、護衛対象がそれでいいのだろうかと思う。
しかし、彼の素の実力を知るにはハイラル・メナスほどの実力者でなければ、分からないのではないかと感じる。
何より白銀の獣人との立ち回りを見ていたリップルとしてはそれが正解であると思っていたのだ。
そして大人達の企みが子供たちを混乱させることになる……。
Interlude out……。
「むー」
不満ありありのイングリスのふくれっ面を見ても全く心動かされないセツナは準備運動をして体を解しつつ、考えることは。
(探ってきたか)
正体不詳すぎる少年。それなりに知られていてもやはり奥深くを知ろうとするのは、当然であろう。
ミスリルの剣を作り上げたことがやりすぎだったかもしれない。まぁ興が乗ったのはいなめないが。
「むー!!」
「うるさいな。そんなに戦いたいならば、あとで戦えばいいだろ。リップルさんの体調次第だけど」
イングリスの抗議(?)に対してセツナはどうしようもないのでそんな当たり障りないことしか言えないのだ。
「まぁアナタが天恵武姫であるリップルさんを相手にどんな戦いをするのかを見るのも勉強と思っておきますか」
「そうか。まぁ俺の勇姿を見ておけよ」
用意された武場に多くの人間―――とまでは言わないが立会人と見物人がそれなりにいる中、本来ならばありえざる無印者の平民と天恵武姫という戦乙女の戦いが始まろうとしていた。
「そういやこんな風に戦うことなかったね」
「俺は別に戦うことに特別なものを見出していないもんだ」
「ふふん。イングリスちゃんとは違うんだね」
「真のツワモノ、優れた兵法家とは―――戦わずして勝つことに重きを置きますから」
個としての強さなど組織戦を展開して戦う上ではなんの意味もない。
自分の故郷の勇壮豪傑……西国無双と呼ばれた立花宗茂とて、結局のところ……大きな流れの中では抗えなかったのだから。
「けど……刃を交えざるを得ない場合はやってくるわけだ」
「それは仕方ない。避け得ぬ凶事というのはどこにでもあるわけですから」
ヴェネフィクの赤獅子と呼ばれた男を思い出す。ヤツこそはこの世界で初めてそういう風にならざるを得なかった相手である。
だからこそ……。
佩刀していた柄に手をやりながら、リップルに有利な間合いを取らせない。
ゆらりゆらりと気取られぬように位置を変える。
対するリップルも自分の得物が何であるかを理解されていての行動に、目を鋭くする。
既にミリエラ校長が発した始まりの合図は聞こえていた。しかし、2人とも動かない。
いや、動いているのだが、戦闘に入らない。
「ど、どうして2人は戦わないのかしら?」
ラフィニアの疑問は当然だが、イングリスは見当がつく。リップルの得物は
だからこそ、セツナは簡単には動かない。
もっとも彼の得物があのカタナである以上、近づかなければならないわけだが。
状況の膠着を嫌ったのは―――リップルの方である。金色の筒としか見えないそれの先を向けた。
今までは下げていたそれを向けたからには―――光弾が発射される。しかし、その時にはセツナは動き出していた。
上半身を下げて『お辞儀』以上に倒れたままの瞬発。
それによってリップルの狙いはずれて光弾はセツナに当たらない。
しかし落ち着きながらリップルは銃を『連射』する。
(銃は普通ならば1回毎に装填する必要があるらしいけど、これは違うのか?)
(遠くの大陸では既に連発式の火薬銃が開発されているらしい)
イングリスの内心よりも深く踏み込んだ結論をセツナは内心でのみ述べる。
そして何よりセツナにとってこの手の武器は「元の世界」でとっくにご存知であり、うんざりするぐらいに見てきたものだ。
リップルが持つ銃よりも高性能である銃。……殆ど訓練を受けていない人間でも容易に殺人者とするような性能の銃も知っている。
接近されるのを嫌ったのか、リップルが大きく飛び退くだけでなく―――。
飛び上がったそこから二挺拳銃となって、眼下にいるセツナに銃弾を連射する。
合計で12発はあるだろうそれは、虚空に現れた花弁のような『光の盾』で封じられた。
「「「「「――――!!!???」」」」」」
誰もが驚いた顔をする中、イングリスだけは冷静にセツナに対して集中しておく。
「オートでの発動を切っておくべきだったな」
独り言のような愚痴をつぶやいたのをイングリスは聞き咎めた。強化した聴力でのそれを聞いたが、状況は動いていく。
防御策を得ての接近はさせまいとリップルは二挺拳銃による弾幕を形成。
たとえ虚空に現れた花弁がセツナに届く前に弾丸をシャットアウトしたとしても……。
しかし、状況は再び変わる。
先程まではリップルに刃を向けようと接近していたセツナ。しかし、今はその場に留まり納刀されている得物を手に集中している様子。
空中から地上に降り立とうとするリップル。その瞬間を狙ってセツナは抜刀!
当然、届く距離ではない。
しかし。
彼の放った斬撃の軌跡、逆袈裟に放たれたそれは『飛ぶ斬撃』となってリップルを襲うのであった。