魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
襲いかかる翔ぶ斬撃を前にリップルは、瞬時の判断をしていた。
虚空にて横に一回転する。身を翻した半身になる形で斬撃を避けたわけだが。
「あいたっ!尻尾の毛が少しだけ切られた!!」
リップルはイヌ科の獣人らしく、その尻尾はモフモフした短いものだ。
どっかの戦闘民族のような類人猿のように長いものならば、尻尾を腰に巻き付けた状態での戦いも出来たのだろうが。
そうはいかなかったようだ。しかしながらそれはセツナにとって隙でしかなく、着地するまでの間に距離を詰める。
やられたと思しき顔をするも二挺拳銃を使って『接近戦』を演じる。
「それ暴発の危険とかないんですか?」
「撃っているのは金属の弾じゃないからね!」
ということはあれは魔力の弾ということだ。あえて食らってみようとは思わないが、通常の銃弾とどれだけの威力の差があるのか知りたいものだ。
こちらのカタナとガン=カタを演じるリップルの黄金の銃が―――。
リーチが狂う。刀で受けた衝撃が大きくなる。
どういうことかと思っていると……。
「銃身が伸びた?それどころか大きくなった…」
「そういうことさっ!!」
銃というものはその機構上かなりの重量物だ。リップルの持っているのが火薬式の銃でなくとも光弾の発射装置を加速させるものが大きいのだろうかと思う。
(もしかしてレーザー銃じゃないよな?)
考えながらも二挺拳銃を鈍器か短剣のように振り回しながら光弾を放つリップル。
中距離での戦いに終始したいセツナ。その一方で遠距離での戦いでも接近戦でも演じられるリップル――――。
(という風に見せていますね)
誰もが驚く中、イングリスだけはセツナがやっていることを看破した。
この戦いが、セツナの
当然、セツナも
などと分析しつつも、イングリスとしてはそんな緊迫した戦いの中に飛び込んで戦いたい。
むしろ、自分ならばセツナの全てを引きずり出せるかもしれない。
リップルの戦いは確かに優れているが、どうやらセツナは『銃』というものをかなりよく知っているらしく、リップルに攻勢をかけさせないでいる。
凄まじい連射だが、それよりも速く動き時には緩急を着けてリップルに正確な狙いを着けさせないでいた。
刀で銃弾を弾き返すなどということもせず、あの光の盾のようなものも発動しないで持久戦に持ち込んだセツナ。
千日手かと思えば、時に斬撃を飛ばしてリップルを恐れさせる。
(腰を落として重心を下げたうえでの剣戟か)
決して低いというわけではないが、ほぼ直立しながら攻撃をする戦闘方法とは違い、その低い姿勢からの攻撃が、リップルを惑乱させる。
セツナの戦いはイングリスともリップルとも違う。
リップルの強みは、隙の少ない銃撃により相手との間合いを完全に制し、そのまま倒してしまう事だ。
ならば、それをかいくぐって近接攻撃で挑んでこそ、最も自らの経験と成長に繋がる……と考えるのがイングリス。
相手の強みを真っ向から受け止めて、その上で勝つ。
それがイングリス・ユークスとしての戦い方である。
だが、セツナの戦い方は違う。相手の全ての引き出しを開けさせながらも、自分はそれをせずに相手の陥穽を見つけ出して、それを突いていく。
彼は戦うことに、そこまで価値を見出していないようだ。
最初は本当に手出しせずに行こうかと思っていたのだが、ここまで来るともはや我慢が効かない。
よって―――。
「天恵武姫に助太刀いたす!!!」
ミスリルソードを抜き放ちセツナとリップルの間に立ちはだかり、セツナの剣戟を受けるのであった。
「クリス!!!何をやっているのよ!?」
「ごめんラニ。私はもう我慢出来ないんだ!! セツナの全てを引きずり出したい校長先生やセオドアさんの狙いを空かすこの状態を打開したいんだ!!」
その言葉に誰もが驚く。まさかイングリスとセツナは上役の狙いを看破していたというのか。
「なんのことやら分からんな。お前の勘ぐりすぎじゃないか?」
イングリスの剣を弾くように力を込めると、その力に力で対抗して鍔迫り合う形になる。
「さてさてどうでしょうね?」
ギリギリと押し相撲のような状態を10秒もしたところで、セツナは不敵な笑みを浮かべるイングリスから離れて―――。
「続けるんですか?」
イングリスの後ろにいるリップルとセツナの後方の離れたところにいる校長とセオドアに尋ねた。
大声ではないがはっきりとした声はどちらにも伝わる。反応を見るに。
『『『
という大声が響くと同時に。
「イングリスちゃん! ボクの前衛よろしくね!」
「よろしくされました!!」
タッグを組んで挑みかかる2人の戦乙女。これがアニメであれば。
『ドヒャー!もうバトルはコリゴリだぁ!!』
などと言いながらアイリスアウトでもして終わりそうだが、現実は無情である。
(仕方ない。秘密の一つくらいくれてやる)
セオドアとミリエラが知りたいのは、自分が持つ武器がどれほどの性能を発揮するか、はたまた作り上げた武器がどれだけのことを成すのかである。
自分の心象風景である『丘』から取り出した剣を使う……のは派手すぎるので。
違う方向で武器を見せつけることにした。
「さぁセツナ!! アナタの全てを引きずり出しますよ!!」
言うイングリスに対してセツナは密かに『魔導器』を作動させてから剣を振りかぶりながら向かってくるイングリスに対して剣を合わせた。
瞬間―――。
「なっ!?」
後ろに吹っ飛ばされるイングリス。
予想外の奇襲。
そこに追撃を掛ける。
一連の攻撃に対してリップルの援護射撃。態勢が崩れたイングリスに対して向かっていくセツナとの間に割り込む射撃だが、光弾はあらぬ方向へ逸れる。
仰天する2人に構わずセツナは向かうが、態勢が崩れたままのイングリスは距離を稼ぐべく、魔印食いの術であった氷の術を応用して氷壁を自分の眼前に作り出した。
決して簡単に切れるような厚みをしていたわけではない。長さでもなかった。
厚みは今日食べたステーキを二十枚重ねはあろうか。長さはイングリスの背丈3つ分はあろうかという氷壁だったのに横薙ぎの一撃と共に両断された時は驚くしかなかった。
白煙をあげるそのセツナの剣を見ながらも、幸運はイングリスにあったようで両断された氷壁はセツナ側に倒れていき、セツナは後方に避けざるを得なく、その間にイングリスは体勢を立て直す。
そしてセツナの行動は予想通りに氷壁を飛び越え―――。
「氷!?」
イングリスは頭上に見えたそれがただの氷―――恐らく倒れてきた氷を切り分けて投げてきたのだろう。
「お前じゃないんだ。派手な行動をするとは限らんだろう」
氷壁を回り込んでイングリスの横に飛び出してきたセツナ。
(こやつ!!)
その行動に恐怖ではなく歓喜を覚えながら今度こそ剣を合わせる。
吹っ飛ばされた原理は恐らく……。
戦うために解いていた重力負荷を倍がけしながら、セツナの剣と打ち合う。
その度にイングリスの髪がぶわっ!ぶわっ!!と舞い上がる。それを受けてイングリスは理解する。
「剣に烈風を纏わせて剣速を上げたり、放出することで相手を崩し、防御に利用したり……そして氷などの障害物を斬る際には炎を纏わせる―――これがセツナの能力か!?」
「さてさて、どうだろうね。まぁ俺の秘密の一端程度だと思っておけよ」
それを除いたとしてもセツナの剣のレベルは並ではない。そんな達人以上の使い手が魔術のようなもので強化されるとなると更に脅威だ。
イングリスの前世であった時代にいたとある神聖騎士とも違う
彼らは魔法の力を戦闘に使うことに長けた存在だ。正しく熟達している。
自らの剣に魔力を与えて鋭さと耐久力を増したそれは岩すらも簡単に断つ。
その上に体は楯鎧の呪文で守り、敵を眠りの呪文で眠らせたり、魔力の網で捕らえて、雷撃や光の矢で打ち据える。
そして剣の鍛錬も通常の戦士と同等に、あるいはそれ以上に積んでいるのだ。
ジルヴェール王国時代にまともに戦えたのは自分と同じように神の加護を得た神聖騎士……そして同じように王国にいた魔法戦士であった。
それと同じようで、それ以上とも言える脅威を覚えながらも、イングリスには歓喜が湧き上がるのだった。
(楽しげにしてくれやがる)
こちらの付与を受けた剣を受けながら見るイングリスの表情。それに対してやれやれと思いながらもイングリスだけに注意を向けてはいられない。
後ろから近寄ってくるリップルもまた脅威であり注意せねばならない存在だ。
だが、ある意味イングリスと接近戦を演じている関係上、発砲のタイミングは分かりやすく、どういう位置取りかによるのだが―――。
「構わず撃つか!!」
「イングリスちゃんの防御力を信じての行動だよ!!」
「キミも封じているじゃん!!」
豆鉄砲程度の威力じゃなと無言で思いながらも烈風を纏わせた剣が雷も発してイングリスの剣と打ち合う。
「くっ!!こんな技を隠し持っていたとは!!」
「普段は使わないよ。つーか使えるか」
「なんでですか!?」
金属音を響かせながらも風音が轟々と吹きすさぶ互いの境界にて―――。
「まぁ色々とな―――お前だから使えているようなものだ」
「ほほう。それはつまり私が強敵だからということですか?」
嬉しそうにしているイングリスだが、セツナにとっては、そうではなかったりする。
「いいや、風が吹いてパンツが丸見えでも構わずに戦うようなお前さんだから遠慮なく使っているんだよ」
「そ、そんな理由でか!?というか見ていたんですか!?」
それはセツナに対する問いかけというよりも、周囲にいる男子への詰問であった。
珍しくもこの場所にいたユア先輩と同じく2年生のモーリス先輩などは赤い顔を背けてイングリスから逃れたが何に着目していたかは丸わかりであった。
「モヤシくんのベースケ」
「だから僕の名前はモーリスだよ!」
スカートの裾を抑えたユアの言葉に抗議するモーリスだが、それを見てイングリスは顔を朱くする。
「まぁ、どうやらウン◯は着いていないようだな」
いつぞやでのやり取りを思い出させる単語を会話に乗せた。
「だから着いているわけないでしょ!というか真正面から見てそんなもん見えるか!?」
「大丈夫だよイングリスちゃん!ウ◯チは着いていないよ!純白の美少女パンティだよ!!」
フォローのつもりなのかもしれないが、完全に味方撃ちにしかなっていない後ろにいたリップルの言葉にいつになく『チカラ』を剣に込めるイングリス。
どうやら怒り心頭に発して底を見せるようで、それならばということでこちらもそれに応じて『5つの色星』を束ねて七色の虹のような光を村正に纏わせる。
「いくぞ!!!」
「こいやぁあ!!!」
とても美少女とは思えぬ応答の言葉に対して超速で真正面からぶつかる剣と剣がぶつかった瞬間。そこからお互いのチカラが失われ――――。
「「―――」」
驚くも声を出さずに、そのチカラの行き先を見る。
イングリスは後ろを振り向き、セツナはその視線の先を見ると。
リップルに黒球のドームが作られて意識を無くしていた。
それは正しく魔石獣が出現する前兆であり、そして先陣を切ってやってきたのは……。
「蒼のライダー=ドブルイニャ・ニキチッチ」
既知であるセツナが呼びかけるも、反応はなく……。
「めちゃエロセクシーなケモミミ様!!」
「ボクにセクシーな要素は無いっていいたいのかー!?」
……ユアの驚き顔と同時のとんでもないネーミングに、若干ライダーのコケるような様子が見えたりするのであった。