魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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『急転直下! 戦火が始まろうとする時…』

 

 

「先程の戦闘で分かったことですが、どうやらリップル殿が魔素(マナ)を吸収することで、あの黒色のドームが形成されるようです」

 

「セツナとイングリスちゃんの最後の剣の激突……そこで生じたエネルギーが明確にボクに流れ込んだのを理解したよ」

 

「恐らく自動的にリップルさんにマナが溜まっていく。そして魔印持ち―――特に特級や上級の人間が近くでアーティファクトを展開すれば速く、さらに接触すればもっと早くなる」

 

聖騎士という特級のルーン持ちと傍にいることを義務付けられた天恵武姫の立場を利用した悪辣な仕掛けである。

 

「当初は国境付近にてラファエル殿と一緒にいることで魔石獣を呼び出す仕掛けで撹乱の混乱を招き寄せる予定だったんじゃないですかね」

「あわよくば国境に配置されたプリズマーを解放させることで、さらなる混乱の混沌をカーラリアに招き寄せる、か―――けど何のために?」

 

隣国のヴェネフィク帝国が教主連との繋がりが深い国であり、そこには天上領での最大勢力の意向が働く。

 

だがプリズマーという大怪獣の嘴先(ほこさき)が、決して地上に向くとは限らない。

 

セツナの世界ではとある巨大な鳥は、母親を取り戻すために天上の神々の座所から不死の霊薬『アムリタ』を奪おうとした逸話があるのだから。

 

どう考えても自爆戦術よろしくである。それはともかくとして現状の対策を考える。

 

「とはいえ、このままだとジリ貧だ。魔石獣に変異した獣人をセオドアさんの推測通りリップルさんの共鳴能力で呼び出しているとなると、どう考えてもこれは無差別砲撃されているようなもんだ」

 

「総数が分かればいいんですけどね」

 

こちらの会話に入ってきた校長先生の悩む顔を見つつ、対策はあったりするセツナだったが、それ以上に恐るべきことを考えるものがいた。

 

イングリス・ユークスである。

 

「校長先生や、シルヴァ先輩や、それにラファ兄様にも協力頂いて、リップルさんに大量の魔素を吸って頂きます。そうすれば強力な魔石獣を大量に呼び寄せる事が出来ます。それを全て倒して倒して倒し尽くせば――」

 

リップル達の話を聞くに、獣人種は既に種として滅んでおり、新たに増える事はない。 あの現象が獣人種の魔石獣限定で召還をするならば、数に限りがあるはずなのだ。

 

それは確かにその通りなのだが、ツッコミどころはあったりする……。

 

「いずれ呼ぶべき獣人種の魔石獣が尽き、召喚をする機能も無効化されるのでは?」

 

「く、クリスらしいわ……全部呼びつけて全部倒しちゃえ♪ って事でしょ?」

 

「うん。いいと思わない?」

 

満面の笑みを浮かべるイングリスの心を推察するに、ラファエルやミリエラ校長やシルヴァ、ユアやエリスの全力戦闘も見られる。

なかなかにドギツイ修羅の巷となるはずだ。想像すると頭が痛くなるが、彼女にとってはそうではなさそうだ。

 

多くの人間がそれに賛意を示す中でーーーセツナだけは内心でのみ異を唱えていた。

 

「セツナくんはあまりいい顔していませんね」

「まぁ妙案とは言えないですから。端的に言えば浅いです」

 

この場にいる数少ない男としてなのかセオドアがセツナに聞いてきたので答えると、耳ざとく聞かれていた。

 

 

「ほほぅ。ではセツナはどんな策があるので?」

 

挑戦的な表情をしているイングリス。自分のウォーモンガーな計画を超えるものを知りたいのか、それとも……と思いながらも口を開く。

 

「戦略の常道からいけば下策だろ。本当の意味でやるべきなのは相手の「策源地」を叩き潰すことだ」

「ーーーーーーー」

 

予想外に真面目なことを言われたのでハッとするように気付いた顔をするイングリス。

 

「確かに獣人たちの総数が分からないというのは、こちらにとって一番の懸念事項だ。だが、考えるに、彼らが野に散らばっているところからの強制召喚であるというならば、問題はないが」

「多分ソレはないよ。ボクが感じた限りだけど、同胞たちはどこかに集団で群れている……」

「それじゃどこかに「巣」があると!?」

「別にボクらはそんな虫とかみたいな生態じゃないよ!!」

 

さすがに巣はないだろう。(ネスト)は。

せめてナワバリとかその辺りで収めておくべきだったろう。

 

「しかし、どうやって魔石獣人の「住処」(コロニー)を探すのですか?リップル殿の獣人特有の感応能力を逆探知できないのですから、中々に難しいのですが」

「ええ、そうですね。なのでーーー俺はこうしました」

 

セオドアの言葉に答えるように、セツナはとある「術」を虚空に投影した。

 

リップルの危機的状況に反応して魔石獣がやって来る。しかし、それはあちらにいつでもアドバンテージを与えることにならざるを得ない。

 

先制されつづけるのは良くないし、何より場合によってはよろしくないことになる。

 

「持久戦をするには、あんまりにも俺達は小勢で小兵だ。ならばーーーここに向かうのが適当でしょう」

 

虚空に投影された映像には魔石獣と化した獣人たちが一つどころにいた。

 

「プリズマーみたいに氷か水晶のようなものに包まれている……」

 

映し出された映像に誰もが驚く。どちらかといえば場所そのものよりも、こんな術があることの方が驚きかもしれないが……。

 

 

……岩の中……洞窟ともいえる場所を削って多くの台座や壁画を描いたであろう厳かな場所は明るい。

 

光り輝く鉱石、そして壁をくり抜いて棺としたのか、そこに収められている多くの大型獣人の亡骸が燐と化して場所を明るくしているようだ。

 

「ここはボクら獣人たちにとっての聖域ーーー「神殿」だ。ああ……みんな。ここにいたんだ……」

 

涙を拭って映像を見るリップルの証言で、ここが本丸であると気付く。

そして、その中に……水晶ではないが何かの魔法陣に囚われたライダーの姿を確認しておく。

 

「しかし、セツナ。どうしてこんな風なことができるんですか?」

 

当然の如く疑問は出てくるのだが、イングリスだけは比較的驚きは少ないままにこちらに聞いてくる。

 

「午前の襲撃の際に「宝石の使い魔」を獣人たちがやって来る転移の穴の中に放り投げていたんだ。それがどこに繋がっているかは分からないが、少なくとも校長先生のアーティファクトのような「異空間」ではなく現実のどこかに繋がっているだろうと睨んでいたからな」

 

宝石の使い魔という言葉の時点で翡翠で出来た文鳥を手の中に出してイングリスに説明する。

 

その「地上人」としてはあり得ざる能力の発露にいろいろな人間が、動揺する。それを感じながらも一先ずそれで納得して欲しかったのだが。

 

「ほほう。随分と多芸です「セツナーーー」レオーネ?」

 

感心したイングリスに割り込む形でレオーネが声を掛けてきた。予想通りすぎて、そして少しだけ苦しくもなる。

 

「私は、ううん。家のみんなが、お父様も、お母様もーーーお兄様も、アナタが天上領に連れ去られて、何かの実験に使われた人間だと思っていた。お空から降りてきたアナタをそう哀れんでいたのよーーーけれども、そうじゃない……アナタは一体ーーー」

 

ナニモノなの?という最後の言葉を紡げないレオーネは、悲しんでいる。それに対してセツナが言葉を掛ける前に。

 

甲高い機械音が上空に響く。フライギアの駆動音である。

 

それに乗ってアカデミーの校庭にやってきたのは。

 

「ラファ兄様!?」

「エリスさん?」

 

ラフィニアの兄とエリスであった。

 

「やぁラニ、クリス。すまないけど急用なんだ」

 

妹たちへの挨拶もそこそこに、特使セオドアの前に来たラファエルは、速やかに告げる。

 

「隣国ヴェネフィクの軍が、国境を超えて侵入しました。つきましては、城に戻ってほしいとウェイン殿下がセオドア様に」

 

「そうですか、すぐに参ります」

 

予想よりも速く「手駒」を動かしてきたと感じながらも、事態は動き出していた……。

 

 

ヴェネフィクという隣国の軍が国の境を脅かすというのは、まぁ地続きの国家においては宿命ともいえる話だ。

 

そんなわけで、いざ戦争となる前に戦争準備として騎士軍の予備役とも言えるアカデミーの生徒たちの中でも優秀生たちは、兵站準備の為に王都郊外の空に滞空している戦艦に軍需物資の積み込み作業を行うこととなった。

 

 

「で、セツナは行かなくて良かったのか?」

「女4人の中に男1人で肩身が狭いんだ。そもそも俺が行ったところで大して役に立たない」

 

ラティの質問に答えながら、その兵站準備の中でも一番に必要なのは、いわゆる空中戦ないし空挺降下をおこなうための機甲鳥や機甲親鳥へのエネルギー補給であったりする。

 

いざ戦闘ないし行軍する際のエネルギー供給のために魔印持ち……中級、上級の使い手が暇な時は充填しておく必要性、そして兵糧の確認等々……セツナにできることは無いのだ。

 

もっとも「魔術回路」を使って補給することは不可能ではないが、あえてやろうとは思わない。

 

機甲親鳥を主としたうえでの部隊編成を考えるに、魔印持ちの必要性を、低下させることもない。

 

そういうことだ。

 

つまり……働きたくないでござる。

 

「荷物運びならば、イングリスとユア二回生(先輩)だけで十分だろ。態々、軍の行動に俺みたいな平民がしゃしゃり出る必要もないし」

「やる気ないですねー……」

 

プラムの言葉はいろんな意味に捉えられるものだ。とはいえ、話を転換することにした。

 

「まぁそんな話はさておきーーーラティ。お前に渡すべき武器を作る予定だったが」

「「が?」」

 

アルカードの王子と従者が続きを促すように言ってくる。そして残酷な現実を告げる。

 

「正直言うとお前には剣の才も、槍の才も、ついでに言えば弓の才もないな」

 

ぐさり!!!!とんでもない現実がラティ・アルカードを襲う。思わず倒れ込みそうになるほどの衝撃であった。

 

「ラ、ラティ!大丈夫ですか!?」

「い、いや分かっていたことだ。正直言えば故郷にいた時から就けられていた武芸の師に言われ続けていたことではあるから」

 

だが、その一方でなにか他の傑物……見るべきものが見れば分かる「眠れる才覚」があるのではないかと期待していた。

それを打ち砕かれた時に倒れ込みそうになったのは事実である。

 

そんなラティを気遣いながらもセツナを睨むプラム。

 

それに対して苦笑しながらも、告げるべきものを告げる。

 

「だが、身体の使い方などは特別悪いものではない。寧ろいい方だ。魔印頼みの身体能力よりも、あのチート女よりもマシなぐらいだ」

 

チートという言葉に2人が疑問を浮かべたが、とりあえず続ける。

 

「武器を使った戦いよりも徒手空拳のーーーあるいは騎馬兵としての戦いの方が似合っている」

「確かに俺は故郷では馬に乗ることは多かったし、暴れ牛(CrazyBull)に乗ることも多かったが、それでは……」

「王になりたいのか?」

「違う。ただ……アルカードをちゃんとした政体に乗せてくれるならば、俺じゃなくてもいいんだ。兄貴の眼を覚ませるならば、それでいい」

 

王様が剣ではなく拳で王位を得るという外聞の無さでも気にしての言葉を正確に読み取ったことに感心しながら告げる。

 

「今はとりあえずラティに授けられるものは『これ』だ。使うための「呪文」は「パッリダ・モルス」ーーー唱えればお前の身体はーーー」

 

瞬間、とんでもない轟音が校舎内に響く。遅れて聞こえてくる悲鳴と、獣のような叫び声。

 

「上位の魔印持ちが護衛に就く、傍にいるということが、そもそも悪手なのかもしれんな」

 

そんなことを呟きながらも、3人は騒動の中に飛び込んでいくのだった。

 

 

その頃……。

 

「私もおっぱいちゃんみたいにボインボインになってモテモテになりたいし、なにより『次やったらコレだぞ』とか言って男子を惑わしたい」

「その動作でナニをするんですかーーー!?」

 

戦艦の中では女子たちの妙なトークが繰り広げられているのであった……。

 

 

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