魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
騒動の中心に駆けつけると、どうやら再びリップルは調子を悪くしたようだ。黒いドームこそなくなっているが、現れたのは……。
「獣人の魔石獣ではない?」
巨大なイヌ科の獣。しかも三ツ首を持っているところからケルベロスを思わせる。
そしてその頭は『火』を吐き、『霜』の息を吹き付けてーーー。
(『毒』か)
中央の頭は何もしていないように見えて、無臭のポイズンブレスを吐いているのだった。口を抑えながら考える。
トリカブトの毒ほど強力ではないようだが、調子を悪くしているものもいる。
上級の魔印持ちは、さほどだが下級や魔印無しの連中は明らかに不味い様子だ。
即座に死ぬことはないだろうが、とりあえず『場』に無毒化の術と同時に清潔な息を届けるようにする。
絶対ではないし、全員に適用されるとも限らないが、とりあえずの対処療法である。
同時にセツナ自身は肺を強化して赤血球が運ぶ酸素の量を増やしていた。
つまりーーー無呼吸での戦いに挑む。
全長は10m。体の幅ですら5mは優にある大怪獣ではあるが。
「喰らえ!!オニオンボーるぶああああ!!!」
「セ、セツナ!?」
必殺のオニオンボールを食らわせることで動きの遅滞を狙ったのだが、その目論見を狂わせるように、スローイングする寸前で脚を掴まれたことで倒れてしまった。
やったのはーーー。
「なにするんじゃい!?」
「どこから玉ねぎを出しているんだとか疑問点は多いが、それでもそんなことを軽々とするな! ケロちゃんは私のペットだったんだぞ!!」
この三頭犬がリップルの元は飼い犬だったとか無駄な情報を入れつつも……。
「しかしだな。今はヒトに害なす存在ですよ?」
「だとしてもオニオン食らわせて倒すようなことはするな!!」
がー!!とギザ歯を見せて威嚇するリップルに、やれやれと思いつつも。
『GYAAAA!!!!』
ケロちゃんの方はお構いなしである。3つの頭を合わせて頭突きを食らわすように飛びかかってくる三頭犬を前に。盾を作り出して勢いを封殺しつつ、立ち上がり横にすり抜けるようにして前脚に斬りつける。
固くはないが、それでも押し返すような筋肉。そして毛の一本一本が硬質化しているようだ。
(ここまでアーティファクトを食らっても目立った傷も無かったのは、そういうことか)
特に特級の魔印持ちであるシルヴァなど積極的に攻撃しているようだが……。
「くっ!!!!」
決してアーティファクトの性能が悪いわけではないのだが、その炎の弾丸は中々に三頭犬に致命傷を与えてくれない。
長銃ーーーライフルということは、それなりに威力があるはずだが。
炎の属性を持つ頭がいるからか、それとも冷気の温度が炎熱を上回っているのか。
考えるのはあとにして……。
「ラティ!やれ!!」
「お、おうっ!!『パッリダ・モルス』!」
与えておいた
「――――」
「――――」
誰もが驚く変化を前に一番に反応したのはケロちゃんなる存在であり、ラティに挑みかかる。
「ラティ!!!」
従者の悲痛な叫び。しかし、巨大怪獣を前にしてラティの拳に纏われた爪は深々と一頭の頭部に突き刺さっていた。
『GYUAAAA!!!』
しかしながらそれで絶命するわけでもなく、そのままにラティを持ち上げる。
首を上げることで相手の自由を奪うつもりだが。
「引き抜け!そして背中を切り裂け!!」
『おう!!!』
流石に初戦ぐらいはもう少しヒトに近いサイズで慣らしたかったが、状況が状況なのでアドバイスをして戦い方をサポートしていく。
その上でセツナも戦いに参加する。干将・莫耶を投影―――投げる。更に投影。投げる。
回転するブーメランのようにケロちゃんの周囲を飛び回る陰陽、黒白の短剣二連。
ラティが背中を
それが蜂程度ならばともかく自分を切り裂ける器物であれば当然慄く。
背中の痛みを振り落とさんと動き回るも、陰陽の短剣の脅威に3つの頭の意識が統一されない。
ゆえに。
「鶴翼三連!!
接近しての十字の斬撃が三つの頭の喉笛を切り裂いた。同時に身体を切り裂きながら二組の夫婦剣も身体に突き刺さった。
絶命こそまだだが、どうやらかなりの大ダメージだ。
しかし……。
(このまま消滅させるには、少々……やりづらいな)
すでに前足と後ろ足を切り裂き、バランスを欠いた三頭犬に対してどうしたものかと思っていた時に―――。
「下がれセツナくん!ラティこう―――ラティくん!!」
どうやらラティの正体を知っているらしきシルヴァの言葉。向けられた銃から放たれるは恐らく火炎弾。
それを知って―――。
鼻を衝く匂い。まさか。
可燃性ガスが真ん中の首から放たれており、シルヴァに火炎弾を誘発させるように氷の吐息が盛大に放たれており。
「シルヴァ先輩!ストップ!!!」
言いながらも黄金の短剣を投影して、凍りつくのも構わずケロちゃんに突き刺して
おき―――しかし、こちらの言葉よりも速くシルヴァは引き金を引いていたようで。
氷を吐く首を狙ったとしても充満していたガスに引火するのは避けられなかった。
・
・
・
そんな場面と前後する形で、イングリスたちと二回生のチームはアカデミーに帰ってきた。王国騎士団の戦争準備のための積み込み作業は、違えることなく終えられたわけだ。
ユアによるとんでもない発言、バストアップの具体策を問われたりもしたが、概ね問題なく終わった……そんな中、女子らしくないご飯の話題で盛り上がり(?)つつも、徒歩でアカデミーの正門までやってきた時。
広がる夕焼け空に負けぬほどの火柱と共に轟音が上がるのであった。
少しして黒煙がもくもくと上がり、アカデミーの近くに居を構える人々は驚いて外に出ていた。
それを見ながらも4人の戦乙女たちは、アカデミーの内部に疾く速く入り込む。
煙を上げていたのは中庭の方で、校舎の壁の一部が大きく崩れ、草が生い茂っていたはずの中庭にはすり鉢状の凹みが土の露出と共に大きく出来上がっていた。
明らかにここで戦闘が行われていたわけだが、魔石獣の死骸の類はなく逃げたのかと思うほどに痕跡はそれだけだった。
そして火に対しては即座に三回生の先輩方が消火にあたっている。
こちらは心配はなく、彼らの心配は―――。
「シルヴァさん!大丈夫ですか!?」
「しっかりして下さい!!」
同級生たちに囲まれた輪の中にシルヴァが上半身だけを上げながら、息を吐いていた。
煤だらけの顔は美形を損なっているが、とりあえず致命傷ではないようだ。もしかしたらば打撲や内出血の類はあるかもしれないが。
「僕ならば問題はない……確かに節々は痛むが、それよりもセツナ・ラティ一回生たちは!?」
その言葉でイングリスはセツナとラティもこの場にいたのか。
どういう状況でそうなったのかは分からないが―――。
「俺ならば問題なく、ただラティは少々痛めたか?」
「お前に教えられた強化と獣毛で軽減はしたはずなんだけどな……」
赤い布に包まれていた2人の男子が布を解きながらそんな風に気楽に言ってくる。
「ラティ!しっかりしてください!!」
「しっかりしている―――いたたた!!!」
意識だけはちゃんとしていて立ち居にも問題なさそうなラティに抱きついていくプラム。その行動で傍目には見えぬ怪我を負っている様子。
それを見たラフィニアが積み込み作業の合間にセオドアから受け取った新型のアーティファクトで傷を癒やそうとしたのだが。
「ラフィニア、ラティの方は俺がやっておくから、その弓で治癒するのはシルヴァ先輩優先で」
「う、うん……!」
(なぜ、ラニの持つ弓が治癒の
積み込み作業に同行しなかったセツナには分からぬはず事実。もしかしたらば、セオドアから事前に伝えられていた可能性もあるが、あまりにも先読みが過ぎる男に疑念をイングリスは覚えながらも。
「すまねぇな。アレだけ戦いのサポートしてくれたってのに」
「いや、俺のミスだ。あのケロちゃんが可燃性のガ―――吐息であり気体を吐き出していることを周知させておくべきだった」
男子2人の会話。その間に少しだけ言い淀んだセツナは刀身が無い……恐らく剣の柄だろうものを手に、その柄尻にある青い宝玉を使ったのか、癒やしの奇蹟……なのか青い燐光が発動してラティの身体を包んでいく。
「―――」
その青い光を受けてはだけた身体に見えていた怪我の全ては―――
「擦過傷や打撲痕や内出血の類が無くなっていく……」
驚くべき現象によってラティの身体は十全に戻されたのだった。
「ラティ!!!」
「いたーーーくないけど、むやみに嫁入り前の女子が男子に抱きつくなよ!!」
プラムが回復したラティに喜んで抱きついたことで、外傷の類は無くなったことが知れたが―――。
「イングリス、こっちはいいから2つのギフトを分けて使うことに難儀しているラフィニアを手伝ってやれよ」
よく周囲を見ている男だと感心しながらも、少々仲間外れ感を覚えて反抗心から言っておく。
「―――ええ、それでは……セツナの秘密を解き明かすのは後回しにしましょう」
その言葉を受けて疲れたような顔をしたセツナを見て悪いことしたかなと思いながらも、とりあえずシルヴァの治癒に難儀しているラニの元に向かうのだった。
そんな様子を密かに鋭く目ざとく見ていた二回生の一人がいたりするのだが。
「モヤシくん。片付け作業しなきゃ校長先生や筋肉先生に怒られるよ?」
「ああ、悪い」
ユアの言葉はもっともであり、軍手を着けて、とりあえず戦場での後片付けをすることになることになった。
同時に頭の中では……聖騎士レオンが、彼を『世界の破壊者』と呼ぶのも理解出来たのだった……。