魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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プロローグ4

 

悲鳴を聞いてパーティー会場に再度、駆けつけるとそこには……。

 

人の焼けた体……。どれだけの火力を放出したのか分からぬ形で絶命している大人の体躯の人間が仰向けの状態でパーティー会場の床に放り出されていた。

 

その大まかな体形からパーティー会場の中で該当するものは……。

 

「シオニー監察官!おられませんか!?」

「察しが悪いな聖騎士殿、そこにある焼死体がシオニー殿だよ」

 

一縷の望みを以て周囲に問いかけたレオンをあざ笑うように言うは、一度は部屋に引っ込んでいたラーアルであった。

そのシオニーの焼死体の周囲には震えているエイダさんが腰を抜かしている様子でいた。

 

騎士団長の娘であるからか、イングリス・ユークスの問いかけに震えながらも答えている様子を側聞しながらも。

 

(セツナ、アナタの『チカラ』でシオニー監察官をどうにかできないの?)

 

それを中断するように耳元へ小声で問いかけてくるエリス。

 

(息があるようには見えない―――とりあえず呼吸をしているかどうかを確認してください)

 

絶命していると見たのは見間違いと見るべきか……一縷の望みは。

 

(……ごめんなさい。既にシオニー監察官はお亡くなりになられているわ)

 

恐らくハイラル・メナスとしての高い認識力が、改めてシオニーの『死』を見たようだ。

 

エイダ副団長という女騎士に夜伽を命じたラーアルの態度に遂に激昂したシオニー監察官を『手打ち』したということだ。

どうやらラーアルは、ユミルに来る以前からこんな風に自儘な様子だったとのこと。

 

監察官であるシオニー卿とは以前から衝突が多かった。

 

「やりすぎだ……アンタ、何を考えてるんだ?」

 

「天上人に逆らった末路だ。まだランバー商会のラーアルのつもりでいるならば、その認識を改めなかったシオニー殿の手落ちだな」

 

代償が大きすぎたな、と死体を一瞥して冷笑するラーアルに、人間の醜さを見る。清貧の士が権力と能力を持つとここまで豹変するものなのか。

 

同行していた聖騎士であるレオンにとって、これは大きな失態だ。

 

……まぁ本人は聖騎士から降格したとしても、あまり感じないだろうが。それ以上に横暴な振る舞いをする天上人ともやりあうシオニー殿を好いていたから、シオニー殿の体にマントを掛けてこれ以上、衆目にさらさせない様子は……彼の死を悼んでいる。

 

「途中で急病により死亡したとでも報告すればいい。わざわざ事実のありのままに報告しなくてもいいはずだ」

「……そうだな。カーリアス陛下は天上領との間に余計な波風を立てるような真似はしない方だ。『事の真偽』はどうあれそれが『真実』になっちまうんだろうな」

 

しかし、だからといって激発せず最後にはハイランダーの横暴な振る舞いを容認するその顔に諦観を見たが……。

 

(レオン……)

 

一瞬だが、ラーアルに気取られない程度に憎々しげにというよりも見ているものを人間とも見ていない冷たい視線が向けられていた。

 

そしてハイランダー・ラーアルの矛先は遂にビルフォード侯爵に向けられた。

自領の騎士であるエイダに夜伽をしろと命じさせることでビルフォード侯爵の顔に泥を塗る行為。あまりにも下劣だ。

 

彼の心の奥は分からないが、どうやら本当にビルフォード侯爵を貶めたいようだ。

……いや、そうではなかった。

 

エイダが悲壮な覚悟で、身を賭そうとした時に。

 

「ラーアル殿、歪みましたね。こんなことをして楽しいですか?」

 

銀髪の女神よろしくラーアルに立ち向かうものがいた。

イングリス・ユークスだ。

 

「ああ、楽しいね!!全財産をはたいてハイランダーという地位になれたんだ!地上では到底たどり着けぬ権威と権力に辿り着けたというのならば、それを咎め立てる理由は―――アンタたちが元々の身分高い人間だからだろうな!!」

 

周囲の人間全てに聞こえるように叫ぶ言葉に、彼のコンプレックスを理解した。だが納得できるものでもあるまい。

 

「確かに、私もラニも貴族階級の人間であることは否定できぬ事実、だが―――『今』までのアナタを捨てることなんて出来ない。冒険商人として各地を回っていたジブンを捨てるアナタを―――私は軽蔑します」

 

その言葉に妙な引っ掛かりを覚えた。まるで彼女が貴族身分ではない時代を過ごしていたかのような『重さ』を感じたのだから。

 

少しだけ呻くラーアルだが、本丸はビルフォード侯爵ではなくこのイングリス・ユークスという少女を貶めたかったのだろうとその後の言葉のやり取りから推察。

 

売り言葉に買い言葉ではないが。エイダに代わって、彼女がラーアルの伽をすると宣言してのけた。

 

マジかよ。と思いながらも事態は動いていく。

 

「そんなわけでだ。マイスター・セツナ、申し訳ないがお前さんの依頼物は後日にしてもらおうか。今夜は銀髪の乙女と戯れるようなのでな」

 

「そうかい。まぁ何も言わんよ……ロリコン、ペドフィリア」

 

「確かに今の世俗でも『幼い』とあまり歓迎せざるところかもしれんが、そういった趣味の人間はどこにでもいるだろうさ。天だろうと地だろうとな」

 

こちらの蔑みの言葉に平然と返すラーアル。

 

「第一、イングリス・ユークスの体は年齢不相応だとは思わんか?」

「まぁ、ある意味では」

 

アンタとは見ているものが違うだろうがと内心でのみ思いながら、老人的な魂の色に銀髪の美少女という妙ちきりんなところを再認識。

 

そうして捨て台詞よろしく、今夜中にやってこいとイングリスに言うラーアルは巨漢の奴隷兵を引き連れて宴の会場をあとにしていく。

 

十分に見えなくなってから……。

 

「アンタ、本気か?」

「おや?私の身を案じてくれるのですか?」

「まぁ、一応は『美少女』だしな」

 

こちらの顔をいたずら心たっぷりに覗き込みながら言ってくるイングリス

 

「正真正銘の美少女だと自負しているのですがね」

 

えへん!とでも言うように自分を誇らしげに前に出すイングリスに何も言わず、隣にやってきたエリスがささやく。

 

(セツナ、何か美女の幻影とかを他者に見せて誘惑しつくすものとかないの?)

(アンタ、俺のことを何だと思っているんだ?)

 

無いわけではないが、それは『道具』としてのものではない。セツナのスキルとしてだ。もっともラーアルにレジストマジックの道具や心得があればどうなるか分からない。

 

などという内緒話をしている間にラフィニア嬢がガン泣きでイングリスを1人で行かせられないなどなど縋り付くように言い募るのを見ながら―――。

 

「セツナ、エリス。シオニー殿のご移送、手伝ってくれるか?」

 

他のことがあてがわれる。

 

否も応もなくレオンのその指示で今にも崩れ落ちそうなシオニー殿のお体を丁寧に棺に入れてから三人で担ごうとした時にエイダが駆け寄ってきた。

 

「私もお手伝いします……シオニー様は私を助けようとして、このようなことに」

「あなたは悪くないですよミス・エイダ。本当に悪いのは―――立場と権力を傘にして、多くの人間を不当に貶める存在です」

 

真剣な言葉と表情を見せるレオン。それに対して以前から大旦那様に言われていたことを思い出して『マズイな』と感じつつ、自分たちもまたパーティー会場から一度は去ることに。

 

まだ疑惑でしか無いのだが、それでも……。

 

予感はあったのだ。

 

 

深夜、その前から『楽しいお姉ちゃん方と飲んでくらぁ』などと『くさくさ』した気分を紛らわすとでも言わんばかりのレオンの色街・歓楽街行き宣言を聞いていた。

 

『大人しく寝てろよ。今日は色々と悪かったな……お前さんを連れ出したばかりにこんなことに』

 

気にしちゃいないと言いながら、布団に籠もるふりをして部屋から抜け出て『翡翠の使い魔』でレオンの行き先を見ながら尾行を開始。イングリス・ユークスのことはまぁ気がかりではあるが、初対面だし、何より彼女自身……何かの方策があるものと思って放っておいた。

 

それ以上に、初対面の少女なのであんまり深入りしたくはなかったのである。

 

そんなわけで、レオンを追っていた文鳥だが……。

 

強烈なチカラの流れでコントロールが効かなくなった。

 

(ラーアルの別邸に向かったのは分かるが……)

 

何をするつもりだ。まさか天上人となったラーアルを殺す気か?

色々と考えていると、誰かに当たった。相手は柔らかな声で呻いたようだが。

 

既にラーアルの別邸の裏口に至ったここで、何故彼女が?

 

「ミス・ラフィニア……何故ここに?」

 

「あ、あなたこそなんで?もしかしてクリスを助けるために?」

 

「期待されているところ申し訳ないですが、別件です」

 

「よかった~。ここでクリスにいい所を見せてクリスを口説こうとしているんじゃないかと危惧していたんだよ〜。クリスの『いいヒト』はラファお兄様じゃなきゃね」

 

クリスというのはイングリス・ユークスの愛称なのだろう。心底ホッとしている様子のラフィニアの言葉から彼女は、ラファエルと彼女がいい仲になることを願っているようだ。

 

年齢差とか殆どラーアルと変わらんとか思いつつも、その辺を突っ込まずに聞くと、やはり彼女としても親友である少女があんな下衆に手籠めにされるのはイヤだとして屋敷に忍び込んで一発かましてやろうと考えていたようだ。

 

無茶苦茶すぎるが……。

 

「彼女ならばどうにでもなりそうですけどね。あれだけの武芸者が、ラーアルのような奸策にばかり長けた相手に手籠めに出来るわけがない」

「セツナ君も分かるの?」

「カンですけどね。ドレスを着ていても歩き方に武芸達者の人間特有のテンポを感じましたから」

 

驚いたラフィニアに返しながら、どうしたものかと思う。

 

「とりあえず中に入りましょうか。俺はレオン若君がここで何をするつもりなのかを調べなければなりませんから」

 

「うん!よろしく!!」

 

別に護衛騎士というわけではないが、姫君1人を館に行かせるわけにもいかないので、連れ立ってラーアルの別邸に入り込むことにする……。

 

そしてあっさり、奥間までたどり着く。

 

「あの巨漢の奴隷兵が大量にいるもんだと思ったんですけどね」

 

天上人が利用しているという精神と肉体を操作された奴隷兵の類が徘徊しながら警備していると思っただけに、この状況は不可解だ。

 

「そうよね。もしかしてラーアルは別の部屋でクリスを……」

 

だがこの別館の元々の所有者であるビルフォード家の長女であるラフィニアが『ゲスト用』の一番豪奢な部屋まで案内してくれたのだから間違いないはずだが……。

 

不意に廊下にて気配を感じた。それは……。

 

ラフィニアには暗闇で良くわからないだろうが、セツナは理解した。

 

(奴隷兵の遺体が散乱している)

 

その殆どがシオニーほどではないが焼けていることに気付く。

 

(これは炎などの焼熱によるものじゃない。何かの『電圧』を用いた斬殺)

 

この手口を自分は知っている。同時に、何故このようなことをしたのかの疑問を覚える……。

 

「ねぇセツナくん。もしかして廊下には……」

「あまり見ないほうがいい。女の子が積極的に見るものではないです」

 

廊下の様子にどうやら暗闇でも気付いたらしきラフィニアが戸惑うように問いかけるが、多くを語らずに少しだけラフィニアの眼を遮るようにしながら進む。

 

「ここがラーアルの部屋のはず……忍び込める場所があるからついてきて」

 

この手の貴族の屋敷というのは何かがあった際に一番偉いヒトの部屋には『室内』から『室外』『別室』はたまたあるいは『外』へと逃げるルートがある。それは領民の反乱やら暗殺者の危険から逃れうるためのものだが……。

 

こういうことにも使えるらしい。

 

入り込んだ室内では―――。

 

「ぐぅああああ……うぐっ……!! な、なんだこれは!?聖痕が!!あ、アツい!!!!」

 

((何事!?))

 

ラーアルが苦悶の声をあげながらベッドの上でもがき苦しんでいた。

 

どういうことなのか考える前にラーアルの腕が巨大化を果たしていく。硬質の質感を持った巨人の腕と呼ぶのが相応しい変貌。

 

部屋すべてを圧迫するのではないかという予感。

危険がセツナの背中を走り抜けると同時に。

 

「逃げるぞ!!」

「う、うん! えぇええええ!!!???」

 

ラフィニアを姫抱きで保護、ドアを蹴破ったうえで逃げ出すのであった。

 

そうしている間にも、どうやらラーアルの体は膨張仕切り、屋敷が崩壊するのは早かった。

 

 

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