魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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プロローグ5

 

イングリス・ユークスという少女との決着。

打ち込まれたニーキックの一撃でレオンの意識は飛びそうになった。

 

何もなければ気絶していただろう。

踏み止まれたのは、別の刺激があったから。

自分が成し遂げたことを確認できたからだ。

 

突如、屋敷の建物の部分の壁が崩壊し、悲鳴が轟いたからだ。

 

 

「きゃあああああっ!?」

 

破壊された壁から飛び出て来たのは――ラフィニアと……レオンにとっての弟分だった。

ラフィニアを姫抱きのままに落着をしようとするセツナの姿を確認。

「ラニ!?」

 

イングリスは思わずそちらに注意を向け、ラフィニアの名を呼んだ。その彼女を保護しているのか、セツナがラニを姫抱きしていた。

 

いや、油断してはいけない。彼はレオンの従者なのだ。

彼も『旅団』に所属しているのかもしれない。ラニを人質にエリスを服従させようとしてくるかもしれない。

そんな思考を遮るぐらいに次に飛び出してきたものは、驚愕だった。

 

ゴアアアァァァッ! 巨大な――人の数倍はありそうな程の人型の異形が、姿を現していた。 その大きさを考えると、屋敷の壁を破壊したのは、こいつだろう。

上半身だけが異様に発達して肥大化した、ずんぐりとした体格をしている。 皮膚はごつごつと硬質化した岩のようであり、額や首や背には結晶化した宝石のようなものが埋まっていた。その色は水色、深い青、黄色、黒など――

 

「これは……!? 魔石獣!? いや……それより、ラニ!」

 

考えるのは後。ラフィニアだけは何をおいても護らねばならない。 それが武を極める以外に、イングリス・ユークスとして己に課す唯一の制約、誓いだ。 ゴアアアァッ! 人型の魔石獣が、巨大になった拳をラフィニアとセツナにに振り下ろそうとする。

「きゃ――!?」

「させない! はあぁぁぁっ!」

 

イングリスは神速で割り込み、敵の拳に自分の拳を叩きつけようとした瞬間!

 

虚空より現れた光の網のようなものが魔石獣を拘束した。もがき苦しむ大型の巨人を完全に拘束しきるほどに強い張力と硬度をもったものだ。

 

それをやったのは誰なのか分からぬ。だが……。ラニを抱きながらも手をラーアルに向けていた人間がいたのだ。

 

そう。セツナ・トオサカとなのるレオンの従者だ。

 

(まさか、こやつが!?)

 

ハイランダーが魔術なものを使うのは推測しているが、一見すれば地上人にしか見えぬ少年が使ったのではないかと思っていると、ラニをイングリスに預けてセツナは、レオンに視線を向ける。

 

「俺とラフィニア嬢が入り込んだラーアルの別邸には、多くの奴隷兵の死体があった。それは雷閃による惨殺が死因。そしてラーアルをあんな姿にしたのは――――若君、アンタだな?」

 

あの魔石獣がラーアルだというのか?という意味でラニに視線で問うと、何度も首を縦にふるラニ。どうやら事実のようだ。

 

「―――その通りさ。しかし、お前がラーアルの別邸に行くとは?エリスと同じくイングリスちゃんを助けようとしたのか?」

 

「違う。俺の目的はアンタの軽挙を止めようとしたんだ。大旦那さまはアンタがいつか天上領への反抗を目指すと危惧していたんだよ」

 

「そうか……親父は随分と俺を理解していたんだな。だが、見ての通りで先程、エリスやイングリスちゃんにも言ったんだが。俺は血鉄鎖旅団に鞍替えする。俺はこの腐った世界を変革するためにそうするんだよ」

 

沈黙。その言葉は軽挙ではない重さを感じさせたが、こんなやり方でなくても良かったはず。そう言いたくなるのだ。

しかし、最終的にはイングリス・ユークスに対するラーアルのやりようが『想像』させたのだろう。

 

彼の妹に対する想像を。

 

「セツナ、俺と来い。お前の武器鍛造技術こそは、天上領に対する反撃の嚆矢になりうる―――」

 

その言葉に青ざめた顔をするはエリスである。エリスは自分の『秘密』の共有者の一人でもある。エリスの様子から察するに恐らく最初に『確保』を試みたのだろうが……。

 

「俺は……大旦那様から禄を貰っている人間だ。若君、いやレオン。アナタの大義にどれだけの崇高さと道理があろうと、それを裏切るわけにはいかない」

 

「お前の兄貴分として―――義弟がこのまま朽ち果てるのは見たくない。ラーアル以前からお前とてみてきたはずだ。腐りきったこの世界の在りようを」

 

説得の言葉は重く、正しく響く。しかし―――。

 

「だとしても、そんな世界でも歯を食いしばって生きている人間もいる。あんたが、そんな人達を救いたいと思っても、その人達に苦難は発生する―――聖騎士であるアンタが抜ければ、まず第一に苦しみを受けるのは―――オルファー家の人間とその侍従たちなんだぞ」

 

「ああ、そうだな……親父や妹、そして仕えてくれている人間たちのことを考えれば踏みとどまるべきなんだろう。それが利口な選択なんだろう。けれど―――もう俺は我慢が出来ないんだよ!!聖騎士でもなく、オルファー家の長男としてでもなく、ただ一人の男として……もうこんなのは限界なんだ」

 

彼は多くのヒトと和して呑み込むべきところを呑み込むことは出来ていた。しかし、それでも多くの人間と関わるがゆえに、虐げられるだけのヒトを、暴虐に耐え抜くことを見捨てられなかったのだ。

 

(私が思っていたよりも、レオン……アナタは聖騎士としての職務を正しく務めたかったのね……)

 

多くの衝突などを取りなしてくれている兄貴分であったからこそ、理想と現実との違いに絶望していた。その気持ちに気付くべきであった。

 

エリスが苦衷を覚えている中でも、セツナは構わず『カタナ』を抜き放った。

 

「ここで止める。アンタを―――」

「それが出来るならばな」

 

瞬間、光の網の拘束を遂に破って。

 

『イングリスゥウウウウウウウ!!!』

 

その巨体の発声器官はどうなっているのかという塩梅で遂にラーアル(巨人)が動き出したのだ。

 

「ヒトが、というよりも天上人が魔石獣になるのか?」

「正解だ。お前は以前、虹の雨(プリズムフロウ)は天上人が意図して地上に振りまいている。いわば自作自演で地上に恩を売っているなんて想像をしていたが、どうやらアレはハズレだ。ヤツラにとってはあれを浴びるということはかなり危険なことのようだ……そして虹の雨を加工して作った粉がここにある」

 

地上にある動植物と同じく彼らにとっても毒であったものをレオンは服用させたらしい。

 

「実をいうとラーアルに呑ませる前にお前さんにも呑ませていたんだが、どうやらお前は天上人ではないようだ。良かったよ」

「賢明な判断だよ。海のものとも山のものともしれぬ得体のしれない存在だからな。俺は」

 

言いながらも手に持った鎖付きの小瓶を見ながら言うレオン。

 

瞬間。

 

再召喚された雷獣が一斉爆発。それだけでなく―――。

 

「雷鳥!?」

 

イングリスには見せていなかったのか獅子ではなく雷で身体を構成された巨鳥が空にいたのだ。

 

「じゃあな!! レオーネと親父を頼んだ!!」

「ヒトに頼むぐらいならば最初っから誘うな!!!」

 

雷鳥に乗ったレオンは恐るべき速度で遠くに去っていった。その背中に言いながらも追うことは出来ない。セツナの世界で言えば、ちょっとした軽飛行機の速度に一挙に上がってそのまま去っていったようなもの。

 

それを見ながらも事態は変化していく。

 

「どうやら殺すしかなさそうだな。俺の依頼者をこんな風にするとは」

 

信用問題だ。と憤慨していたのだが……。

 

「そういう問題?」

「そういう問題です」

 

エリスのジト汗混じりの疑問に答えつつ、剣を向ける。

 

「まぁ、ウチの若君がやらかしたことだ。俺の方で始末をつけるか」

 

結論としては、そういうことにしとくのだった。ラーアルへと敵意を向けると、どうやらそれに反応したのか……。

 

『マイスターァアアアアアア!!!』

 

声にバリエーションが出るのだった。

 

「女の名前だけ叫んでろよ!!」

 

神速で以てラーアルの足元へと接近。早業一閃―――。

 

巨木の丸太を思わせるラーアルの片膝を完全に切り裂くのだった。

 

『オアアアア!!!』

「上体の重量に対して下半身の支えが少ないのは見たままだな」

 

擱座したラーアルの後ろに走り抜けながら一回転したのだが。

 

そこに―――。

 

「すごいぃいい!!普通の武器にしか見えない剣で魔石獣の体をおお!!!」

 

セツナの後ろを同等の速度でついてきたのかイングリス・ユークス(満面の笑み)がやってきて、正面衝突するのだった。

 

こちらは少しだけ前傾をしながらの再びの攻撃をと思っていたところなので、タッパの関係でイングリス・ユークスの歳不相応な胸が顔面にぶつかりながらの激突。

 

抱き合うようにして硬い地面に少年少女の体が投げ出されるのだった。

 

『イ、イ、イングリシュウウウ!!!』

 

イングリス・ユークスに怪我をさせないようにとっさの判断で投げ捨てたカタナがラーアルの『尾』とでも言うべきものを地面に縫い付けて動かなくしていたのだが、それ以上に何か声が悲しそうなのが、ちょっとだけ可哀想にも感じてしまうのだった……。

 

 

 

 

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