魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

6 / 41
プロローグ6

 

 

ムラマサを構えるセツナを見て興味津々と獲物を横どられた的な顔をしたイングリス・ユークスを見たエリスは。

 

「やめときなさい。セツナの戦いの邪魔はしないように」

 

今にも駆け出しそうなイングリスの肩を抑えてから言うのであった。このバトルマニアとて流石に分別を弁えてくれると思っていたが――――――。

 

「なんでですか!? 私はあの武器の性能を知りたいんです!!」

 

―――それは甘い考えであったようだ。少し前のエリスとの戦闘の終わりの際のように泣きながら戦闘継続を求めてきたイングリスの顔。

 

それを再び見て、『げんなり』しながらも伝える。

 

「それならば、ここからでもいいでしょう。とにかく邪魔はしないで」

「クリス、ここはエリスさんに従おう―――」

 

しかし、イングリス・ユークスは退かぬ媚びぬ省みぬ!!

 

あの武器とセツナの性能を見定めるためにも!!

 

「ラニには悪いけど、私は征く!!」

「クリスゥウウ!!!」

 

ラーアルのような声を上げて制止するラニを振り切って一足早く駆け出したセツナの背中に追いすがる。

 

(速い!! まさか自分以外に、ハイラル・メナスでもないというのに、ここまでの身体能力を発揮するとは!!)

 

イングリスのように『霊素』(エーテル)を使って身体を保護・強化している様子はない。何か別の術理が働いているのかもしれないが、ともあれ―――その反りを持った剣……直刃でも両刃でもない片刃の剣がラーアルの膝を両断したのを見届けた。

 

ただの鋼の武器にしか見えないのはイングリスの目が節穴かもしれないが、それ以上に純粋に武芸の技巧に驚嘆した。

 

その様子に純粋に一人の武人として感心をしたがゆえに気付けなかったのだ。

 

「すごいぃいい!!普通の武器にしか見えない剣で魔石獣の体をおお!!!」

 

眼の前の少年が次撃を放つために反転していたのを、同じような軌道で走り抜けたイングリスは気づけずに正面衝突してしまうのだった。

 

 

その後には、組んずほぐれつな中々に卑猥な光景が広がっていたりするのだが、当人たちはかなり深刻な状況に置かれていたりする。

 

「ちょっ! どこを触っているんですか!?」

「だったら離れろ」

「ひぃっ!なんか硬いものがお腹に当たっている!!」

「余計に動くからはずれない!!」

 

外から見ると、どうやらイングリス・ユークスの革鎧の留め具がちょうどよくセツナの下の方のベルトに引っかかる形だからだ。その結果としてセツナには顔が胸に当たり、イングリスには……まぁ『象徴』が当たる形になったようだ。

 

「「外れたぁ!!!」」

 

ようやくのことでお互いに離れあった2人の男女だが。折り悪くも。

 

「イングリスゥウウ!!マイスターァアアア!!!」

 

遂にラーアルが自由の身になった。

空中で放り出されたカタナを(そら)(さら)ったセツナは構える。

 

「その剣でラーアルを切り裂くのですか?」

「斬りやすい部分だけだがな」

「ならば、その隙は私が作り出しましょう!!」

「ミス・イングリ―――」

 

次は自分が武技を見せる番だとでも言わんばかりに超速で駆け出したイングリス・ユークスは巨人相手に格闘(グラップリング)を挑んでいる。

 

重量差・身長差をものともしない。体重差を活かして押しつぶすようにしていれば―――とも思うがイングリス・ユークスの動きは速い。

 

(元の世界でならばサーヴァント級の速さだ。しかも攻撃の一つ一つは重いようだしな)

 

少しだけ感心しながらもギャラリーのままでいるわけにはいかないので、村正を手に駆け出す。イングリスの打撃は『ラーアル』の体を揺らすが、基本的に傷を負わせているわけではないようだ。

 

しかし、魔石獣……特に人間が変化・進化したとしてなくせないものがある。

彼らが元の『生物』からどれだけ頑健になっても無視できない要素。

 

彼らがまだ『生物』であるうちは、生物的特徴は捨て切れない。

つまり感覚器で情報を取り入れ、中枢神経で情報を判断し、末端神経で身体を動かすということだ。

 

すなわち―――。

 

「イングリス・ユークス! 顎を叩け(アタック・ジョー)!!」

「そりゃあああ!!!」

 

人間としての弱点、急所は存在しているのだ。

 

懐に潜り込まれたことでその長い腕は彼女を叩けなかった。それどころか何かの力が付与された拳が下から上に突き上げられた。

 

アッパーカットである。飛び上がった彼女の攻撃を受けたことで顎から―――。

 

(脳髄が揺れているな!!)

 

完全に全身を痺れさせた『ラーアル』に対して。

 

一閃(Ein)二閃(Zwei)三閃(Drei)―――これで終いだ!!持っていけ!!」

 

村正による高速連斬が決まった。

 

夜闇に輝く蒼い軌跡と炎による軌跡が斬撃の跡を追って『ラーアル』を切り裂いた―――のだが。

 

『イングリスウウウ!!!』

「―――斬り落とすべきは頭の方であったか」

 

セツナの斬は決して軽くなかった。腕一本と足を切り裂いて腹を半分は喪わせたのだが。

 

どうやら『再生能力』が強く先程とは段違いの早さで腕と脚が『くっつき』腹の肉も再生を果たす。

 

(確かに生物とて重篤な部位喪失を起こしたとしてもある程度の再生・機能代替は可能だが)

 

こうなるならば、総体を消し飛ばすほどの熱攻撃か再生不可能な斬撃を食らわせるべきであった。しかし再生しきったとはいえ、まだ動くには時間がかかるようだ。

 

「セツナくん、アナタの攻撃でラーアルを倒すことは出来ますか?」

「ここが街中でなければな。直線放射状に放たれるエネルギーが家屋を巻き込むことは間違いないな」

 

いつの間にか、自分の隣にやってきたイングリス・ユークスは、そんな質問をしてきたので正直に答えると、少しだけ驚いた顔をしてから顔を厳しくする。

 

「それは許せません。ユミルは私達の故郷です。外敵を倒すために領民を踏みにじることは出来ません」

「だろうね。それじゃ―――街の外にご退場願うしかないか」

 

わかり切った応答をしてからどうするか。そうしていると、ビルフォード侯爵が完全武装をしてやってきた。あれだけの偉丈夫が武装をしているとかなりの威圧感だが、それ以上にどこか焦った様子であることが少しだけ彼から『領主』というよりも『父親』としての顔をしている。

 

軍馬から降りて娘であるラフィニアに駆け寄る。嬉しそうなラフィニアだが、呼びかけから近づいたイングリスとしては少し焦っている様子だ。

 

ユークス団長が残した騎士たちは優秀だろうが、それでもあんなモンスターを前にしては戸惑っている様子だ。

 

(さて、どうしたものか)

 

自分(セツナ)の異常性を知られるのはあまり好ましくない。ヒトが集まる前に終わらせておくべきだった。などと後悔しても遅くて。

 

「待ってください!!あの魔石獣は強力です!! 大丈夫です!!天恵武姫たるエリスさんが手伝ってくれますから、すぐに済みます!!」

 

なんか……ものすごく嘘くさいことを言うイングリスの声が聞こえる。騎士団長の娘であるからか、それとも何か理由があるのか。ともあれユミルの騎士たちはその言葉で止まり……。

 

イングリスに手を引かれながら『ラーアル』に吶喊を仕掛けるエリスの姿が。

 

「えええっ!? セ、セツナ!!たすけ―――」

 

殆ど強引にエリスを巻き込んだ形のイングリス。連れて行かれるエリスは気の毒だが何となく程度にイングリスの『思惑』を理解したセツナは、眼を『変化』させて『ラーアル』を縛り付ける。

 

魅了の■■は自分の視界に入るものを縛り付けるものだが、これほどの巨体となると、中々に難儀するが―――明らかに動きが止まった『ラーアル』に対して双脚が上に振るわれる。

 

突き上げられた美少女(?)と美少女(?)の蹴り上げが『ラーアル』を街の外まで叩き出した。あれだけの質量と重量がサッカーボールのように飛んでいった事実に殆どの人間が驚き仰天していたがあからさまなヨイショをエリスにするイングリス。

 

(流石にエリスさんがハイラル・メナスだからとあんなバーサーカークラスの筋力はしていないよ)

 

どう考えても動揺しているエリスの姿。ある意味、ピエロも同然にさせられたエリス。イングリスの言いようは自分の『実力』を隠蔽するという意味では正しいかもしれないが―――。

 

あんまりにもあんまりすぎて流石にエリスが気の毒になり言ってやろうかと思った時に。

 

(待って、待ってセツナくん。クリスにも色々と事情があるの。だからエリスさんには悪いけどお口にチャックでお願い!!)

 

ラフィニア嬢のナイショ話よろしくの言いようと仕草。別にユミルに縁もないし、何よりこのコとも深い付き合いがない。今日知り合ったばかりだ。

 

遠慮をする必要もないはずだが……ユミルという街の領主の娘がそういう以上、自儘なことも出来ないのは自分が余所者だからだ。

 

何よりラフィニア嬢が年頃の男に近づいているからかビルフォード侯の眼がキツくなっているので、余計なことは言わないことにした。

 

その後に語ることは多くない。

 

外に追い出された『ラーアル』はまだ健在であった。まぁそのことは特別驚くことではないのだが……そのラーアルを消滅させるためにイングリス・ユークスがやったことは『魔術』と呼ぶのも烏滸がましい『魔弾』の上位互換でしかない『魔砲』あるいは『魔閃光』とでも呼ぶべきものであった。

 

『弓』のカルヴァリアほどに凄ければ警戒もしたが、まぁ今は特にどうでもいい。

 

イングリスの放つ圧倒的な熱と光圧。総体を消滅させられた『ラーアル』に思うところはあれど、それは後々の話であった。

 

結局のところ、この大退治すらも自分ではなくエリスの功績にしろというイングリスに外野の身としては何も言えない。

 

しかしながら少しのアドバイスというかコンサルタントのように言う。

 

「あとで思いっきり『吹っ掛ければ』よいのでは?」

「それもそうね。それじゃこの事は、『大きな貸し』ということにしておくわ。あとで利子を付けて返してもらうわよ」

 

少しだけ青い顔をしたイングリスに溜飲を下げながら、その夜は過ぎていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。