魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
いろは歌に合わせるのはムリっす
再会の喜びを特に感じることはなかった。
あちらは、どうだか分からないが、ともあれ鳥型の魔石獣がやってきているのは間違いなくて3人娘に合流をする。3人に近づくと同時にレオーネは聞いてくる。
「セツナ、残りはどれだけいる!?」
「5体。走鳥類が4に飛鳥類が1」
言葉の後には向こう側から疾風怒濤の表現よろしく走鳥類が駝鳥の疾走のごとくやってくる。
その疾走を守護するつもりか猛禽類が巨大化したような大鵬のような巨鳥が空を翔ける。
「ラニ、あの空飛ぶ巨鳥は私に任せて!! セツナもレオーネもいいね!?」
「どうぞお好きに」
主であるレオーネの身の安全を考えれば、それが最善であったのでセツナの判断はそれをよしとしていたのだが、ほか二人はそうではなかった。
「ええっ!? いいのセツナ!?」
「あの猛禽類の運動性能次第かな。まずは攻撃を喰らわなさそうな。喰らっても大丈夫そうなのに鉄砲玉になってもらいましょう」
「悪魔かっ!? けどそれだけクリスを信頼しているってことかな?」
女子2人から責められていたが。
「流石は一度はお互いに戦いあった仲、分かっていますね」
結局、
言いながらイングリス・ユークスが腰に携えていた剣を抜き放つ。
その形状にレオーネは驚いた様子だ。
鍔こそ豪奢で見たことがないわけではなかったが、その剣身の形状にこそ驚いたのだ。その一瞬の間に走鳥類は迫ってきていたのでイングリスを置き去りにする形で、セツナは走り出した。
『キィイイイイイイイ!!!』
鳥類特有の嘶きを発する飛鳥類だが、それが号令であるかのように走鳥類が速度を上げる。
しかしそれに動じずに、セツナは構える。構えた剣の柄にイングリス・ユークスが乗るのを感じたので、軽量化の術を掛けたうえで『超跳躍』の術式を柄に乗せた。
その上でイングリス・ユークスが跳び上がると同時にセツナの村正は、一つの術理を放っていた。
「射殺す百頭・刀剣乱舞式」
上にいる猛禽類はともかくとして、こちらは鳥の特徴よろしく首を一斉に斬り飛ばすことで絶命させた。
生体反応よろしくそのままでも駆け抜けることは可能だったが、その前に足にも斬撃は放っていたので、胴体だけがバタバタと羽ばたく結果に。
「流石に足だけでも動いてきたらばおっかなかったかな」
言いながら斬り飛ばした鳥の頭から『魔石』を取り出してガメておく。
「さて、上は――――」
意識をもう一体の巨鳥に、というか巨鳥を処理したイングリスに向けると。
「うわわっ!!! セツナ、受け止めてくださいぃいい!!!」
二度目の轍は踏まない。何があったのか分からんが、体勢を崩して降りてくるというか落ちてくるイングリス・ユークス。
彼女ならば特に何も無いだろうに、という予想を完全に崩された形だ。
純白のパンツが丸見えの状態で落ちてくる彼女に落下制御の術を掛けて軟着陸をさせようとしたのだが……。
(なんだ重量が増した?)
人間1人分の概念であったところに少々の重さが加わり、赤い顔をしたイングリス・ユークス。
仕方なく―――腕を使って抱きとめる。ジャンプしながら彼女を受け止めてからその体を保持したうえで着地をするのだった。
「大丈夫みたいだな。何か急に重くなったのはその小動物のせいか」
抱きとめたイングリス・ユークスの顕な胸の谷間に挟まる魔石獣としては
「どこを見ているんですかぁあ!!」
「助けてやったのに、この仕打ち!!」
軽いジャブ程度のパンチだが、抱きとめられたままのイングリスが赤い顔のままにセツナに食らわせてくるのであった。
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そんなラブコメな場面に落ちる前に、イングリスがやったこと。
以心伝心というほどではないが、やはり『理解あるつわもの』がいると言葉なしでもやりやすい。走り出したセツナの特徴的な構え。刃の方ではなく柄の方を振り上げる卦体な構え。
しかし、それを足場にしてイングリス・ユークスは跳び上がった。
構えた剣は既に斬り上げる姿勢を取り、飛鳥の翼を斬り飛ばしたが―――。
「片翼でも飛べるか。常識外ですね!」
イングリスが飛鳥の片翼を斬り飛ばした勢いのままに飛び上がり飛鳥の『上』を取った。完全にイングリスに敵意を向けた飛鳥がその嘴を輝かせながら上昇してくる。
既に落下軌道に至ろうとしているイングリスは、エーテルを利用して壁のようなものを作ってそれを蹴って飛鳥を下降からの攻撃で迎撃する。
なにかの熱を感じる光る嘴は、殆ど騎馬兵が
しかしながらイングリスは、それを迎え撃つ。
「行くぞ!!」
飛鳥のチャージに対して同じくチャージをするように剣を突くようにして落ちるイングリス。
その際に見た―――下にいるセツナが行った絶技を。
それに見とれてしまったことが失態であったか、飛鳥のチャージを受け止めた上で嘴と体を完全に切り裂けたのだが。
「ッ―――」
それが、飛鳥の体を足場にして落着しようとしていたイングリスの試みを狂わせたのであった。
そして……自分の胸が恋しくなったのか、アールメンに来る前に出来た旅の仲間が飛び込もうとしていたのであった。
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「で、なんでここに……っておおよその予想は着くけど」
「そういうことです!入学するために来たのです!!」
「ユミルからすれば、アールメンは遠回りだが……」
騎士という職業軍人を育てるためのアカデミーという場所があったりするのだが、それは王都にあるわけで、彼女たちのいるユミルから寄り道になるわけだが。
「それはクリスの『こだわり』だったの……プリズマーを見たいと聞かなくて」
「成る程、苦労しているんですね」
疲れたような顔でイングリスの肩を叩くラフィニアに同情したところで。
「で、セツナ―――このラファエル様の妹さんと、この銀髪の美少女とどこで、いつ、どんな
食い気味に、セツナの肩を掴みながら鬼気迫る表情で問うレオーネ。
それに正直に答えるには、中々に重すぎたがそれでも覚悟を決める。
「……3年前、ビルフォード侯爵領ユミルにてです。レオーネお嬢様」
その言葉に気付かされ、雷でも食らったように硬直するレオーネ。忘れていたわけではないはず。そして、思い出した後には……。
「―――思い出した!! オルファーってレオンさんの!!」
イングリスの言葉からどうやら二人に自分の名前など自己紹介だけはしていたようで、彼女の素性が分かったことで、ラフィニアは気付く。
そのタイミングを狙ったようにアールメンの騎士団の防衛隊長……中年の人間が重そうな袋を4つ持ってきたりした。
「恩給を正式に支給するわけにはいかないが……それでも、これでなにか美味しいものを食べてくれ少年少女たちよ」
この街の防衛隊長が苦しげになりながらも、魔石獣の討伐に尽力してくれたことに、『4人分』の謝礼を出してくるのであった。
少しだけぶっきらぼうな様子、一番尽力したレオーネに感謝しないのかと言わんばかりにラフィニアが食ってかかりそうになるのをイングリスが抑えておきながら―――。
「あの事件は私もラニも他人事じゃなかったんだ。色々と教えてくれる?」
「ああ、あれ以来俺もユミルに行けなかったからな。あの後のことを教えてやるよ。そして―――レオーネには何の瑕疵もないこともな」
真剣な目をしたその言葉にセツナは覚悟を決めてオルファー家の屋敷に着くと同時に説明をするのだった。
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「そんな事件の処理だったの!?」
「声が大きいよラニ……確かに誰かが責任を負うべきことであるけど、シオニー監察官のご遺体を丁重に扱ったのは、レオンさんだったのに」
ラフィニアとイングリスの言葉はわかる。あの後の事件の処理として天上領及び王国の間に隙間風を起こさないようにするには、誰かをスケープゴートとして供さなければならなかったのだから。
そんな2人の反応を見たレオーネはぽろぽろと泣き出したのだ。
「わわっ!ごめんレオーネ!!」
「あ、謝らなくていいのよラフィニア。むしろ嬉しいの……ラファエル様から事件の顛末やセツナからも『真実』は違うって言われていてもどうしても実感出来なかったから、いま……こうして事件の当事者から言われて嬉しかったのよ」
涙をハンカチで拭いながらラフィニアがレオーネを慰めている間に、イングリスはセツナに口を開く。
「監察官及び天上人殺害の全ての責がレオンさんに押し付けられたか、それにしては街の人々はレオーネをあまり嫌悪していなかったな。まぁ大っぴらに褒めてもいなかったけど」
「元々、レオン若君はこの街の顔役というかガキ大将というか、まぁそういうヒトだったからな。ただ真実は知られずとも、なにかの事情を察しているヒトもいるんだろうさ」
「とはいえ、アールメンの領主家の長子の失態でもあるから、そこまで甘い顔も出来ないということかな」
察しが良くて何よりだが、この女がただの騎士の娘であるにしては、想定が深すぎることに疑念を覚えたりするが……。
「なにはともあれ―――出来たぞ。事前に調理しておいて温めるだけにしといたことが何よりだった」
「ただの豚の丸焼きとは随分と―――」
「野性的な料理だと思っているならば、とりあえず食ってから文句を言いな」
「ふっ、私とラニはここに来るまでに数多の街の美食を堪能してきた。グルメガール!!」
「簡単に舌を満足させられると思わないでねっ!!」
どんな名乗りなんだよ。と思いながらも2人のグルメガール(笑)にカオルウチュウを振る舞うのだった。
「レオーネ、食べ方を教えてやって」
「ええ、我が家の従者の料理だもの。ちゃんとした食べ方してもらわないとね。カオルウチュウはまずは皮を食べるものなのよラフィニア、イングリス」
そうして、美味しい昼食を提供している最中……遙か上空の彼方ではちょっとした会話が成されていた。
「いやー、これだけの大仕事。流石に私達がいかないとね」
「リップル様のお目当てはセツナ君でしょ。あんまり彼に接触が過ぎるといらぬ疑念を持たれますよ」
「いや、それはもう無理だと思うなー。だってウェインが言っていたけど、アルカードからスパイが来ているんでしょ?」
「そう聞いてはおります。けど目的はただ単に魔石獣との戦いで有用な何かを欲しているのかもしれませんから……」
あまり他人を疑いたくないラファエルだが、このような生臭い職務もまた騎士にはある。組織の暗部や生臭い不都合も呑み下す。
だが栄えある聖騎士ですらそれから逃れられない。
(レオン先輩が騎士団だけでなく国を見限る心も分かる)
理想と現実のギャップ。そのズレが大きくなりすぎた時に、ヒトはどうしても我慢出来なくなるのだろう。
その後には―――ラファエルの脳裏に一人の少女。あの頃はまだ赤子でしかなかった幼馴染のソレが思い浮かび、その顔を久しぶりに見たいと思うのであった。
この世界でラファエルが知る限り、一番にギャップがありすぎて、何より……自分の心を癒やしてくれる女神に会いたくなるのであった。