魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~ 作:無淵玄白
「いやー、ただの子豚の丸焼きでしかないのに大変、美味しゅうございました」
「本当だよね。ここに来るまでにいろんな街の美食を堪能してきたけど、まさかここが一番の美食点になるとは……」
「ふふ。我が家の従者の自慢料理を堪能していただいて嬉しい限りね」
この2人はアールメンに来るまでに何をしていたのやらと思いながら、片付けをしていたところ……。
屋敷の外。広い庭の方で音が響く。
ブゥゥゥゥン―― そう振動するような音を立てる何かが、聞こえてきて窓を開けて見上げると、それは、鉄でできた、翼の生えた小さな船と言うべきような乗り物だった。
「
庭に着陸するそれに乗っていたのは、セツナとレオーネにとっても顔なじみ2人であり。
「ラファエルお兄様!!」
「よき若者になったものだ……」
来客2人にとっても片方は顔なじみであったようだ。
「なんだかアナタがこの家に来たときを思い出すわ」
「ラファエル殿とは役者が違いすぎますけどね」
あんな見事な様子でなかったことは聞き及んでいるのだ。
レオーネのからかうような言葉を受け流しながら妙な上から目線のイングリス・ユークスの言葉に疑問を持ちながらも、気楽に挨拶してくるケモミミ女含めて来客への対応をすることに。
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「それじゃあのプリズマーはここから国境に持っていくのですか?」
「ああ、その為の部隊指揮の為にここに来たんだ」
「ボクは万が一のため。あのプリズマーが何かの拍子で氷漬けの体から動き出したらば溜まったもんじゃないからね」
「それじゃ!やっぱりあの鳥は生きているんですね!!??」
ラファエルとリップルの言葉に目を輝かせて生き生きとするイングリスに白けた顔をしながらもポークサンドを作る手は止めないでおく。
そうしてゲストの為に従者として動いていたセツナであったのだが。
「さて、セツナ君。僕がオルファー邸にやってきたのは、別にこのカオルゥチュウサンドを食べるためだけじゃない……レオーネ嬢と共に君にもアカデミーに在籍するという命令書を持ってくるためもあったからだ」
「直裁ですな。そしてソレに関してはお断りを入れていたはずですがね」
「確かにウェイン殿下、カーリアス陛下の誘い水にも乗らなかった君だが、こうして命令書を持ってきた以上。もはや断れないよ」
その言葉をラファエルが放った際のセツナの表情を目ざとく見ていたイングリスは、どういうことなのかを察するが、それでも何故……従者として同道しないのかを疑問に思う。
「セツナ君はアカデミーへの在籍を拒んでいたの?」
「ここの管理をする者がいなくなるわけにはいかんでしょう。大旦那様が亡くなられて家人の殆ども解雇さぜるを得なくなったとはいえ、ここはレオーネお嬢やレオン若君にとっても帰るべき家なんですから」
ラフィニアの質問に対してそう答えつつ、セツナとしては最終的に断りきれないことは理解していたのだった。
だからこその値上げ交渉に利用させてもらったのである。
「にしても、王室まで動くほどにセツナ君はアカデミーに入れたい人物なんですか?」
イングリスの『こちら』を理解しているんだか理解していないんだか分からぬ言葉。いや、こいつは素知らぬ顔をしてこちらを探ってくる女であることを思い出す。
「オルファー家の従者としては武功が立ちすぎていたからね。事実、レオン先輩がいなくなった後にオルファー家の名代として戦場に立っていたんだよ」
「元々、身体を痛められていた大旦那様を戦場に行かせるわけにも、まだ成人もしていないレオーネを行かせるわけにもいかないからでしたよ」
「そうだね。気遣って後方に配置していたというのに、敵国の策略で後ろを突かれた時には焦った。けれど君は生き残った」
ラファエルの言葉に背面突きをしてきた『赤毛』のことを思い出して、げんなりしつつも……話は続く。
「ともあれヴェネフィクの『精鋭部隊』を前に、後方を維持していた君には今後のためにも相応しい地位に就いてほしいというのがカーライル王家の意向なんだ……其の為のアカデミーへの入学、受けてくれるね?」
ラファエルの真剣な表情での言葉と不安そうなレオーネの表情。面白がるようなリップルの表情。ラフィニア嬢は……まぁ普通である。
そして目を輝かせてワクワクしているらしきイングリス・ユークス。
精鋭部隊を前にという言葉辺りでそんな表情をしていたので―――ともあれ。
これ以上は無理だとして王都の騎士養成学園への入学は正式に成るのであった。
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まさかあの少年従者がそんなシビれる事をやっていたとはと感心と関心の2つで以て戦いを挑もうとしたのだが……。
『アカデミーに向かう前にお前さんのカタナの研ぎをやっておくようだ。ナマクラになってはいないが、そのまま振るわれることは鍛冶師としてあまり歓迎べからざることだ』
として戦いを空かされるのだった。そんなわけで今はあのプリズマーが空輸される前の解体現場にやってきているのであった。
ラファエルの指揮のもと大聖堂の天上……中央のそれが
氷漬けの巨大質量に巨大な鎖ーーー恐らく天上領で作られたもので持ち上げて国境に持っていく算段のようだ。
そんな風に見ていた矢先、リップルという天恵武姫……獣人の女性が色々と聞いてきた。どうやらエリスは同僚である彼女にだけは、自分のことを話していた。
そしてレオーネがイングリスに関して全く知らなかったことから、セツナは自分の事に関しては何も言っていなかったということだが……。
(あれ?なんだかムカつくぞ)
こちとら色々とセツナの剣技を考えて、三年前に見たあの姿を追うようにカタナを振るっていたというのに……。
「そもそもセツナ君って何者なんですかね?」
「おーっと、ソレはあちらにいるラファエル君を少しだけ動揺させる質問だね」
別に女として異性への興味ではないとして否定しようとする前に、からかうようなリップルはーーー神妙な表情を浮かべる。
「実を言うと全然分からないんだ」
「え?」
「冗談を言っているんじゃないんだよ。彼はいきなりこのアールメンの空から落ちてきたんだ。偶然なのか意図的なのかは分からないが、オルファー家の庭に彼は落ちてきた……意識を失った状態でね」
その言葉に『どういうことだ?』と疑問は尽きない。だがリップル曰く一番ありえそうな答えである『天上人』ではないとのこと。
しかし……。
「不可思議な術を使うことは確かなんだよ。ただそれはハイランダーの術ともまた別系統とも感じるし、何より……これが最大級の疑問につながるんだけど」
困惑した顔から改めて更に神妙な顔つきをするリップルはーーー。
「彼の鍛える武器は、『無印者』であっても魔石獣を倒す、切り裂くことが出来る。魔石獣の特殊能力や疾さ、膂力の類に対抗できる術さえあればね」
特大すぎる秘密が爆露された。
その言葉の示すものは多すぎて、『巨大』すぎた……。確かに、イングリスも彼の得物の特異性には三年前から気づいていた。
それは彼の特殊能力……即ち『魔印』が特殊だからこそだと思っていたのだ。今さらながらあの事件の色々でセツナの能力判定を見誤りすぎていた……。
「ちなみに言えばセツナくんもイングリスちゃんと同じく魔印を持たないんだよ」
「衝撃的すぎますよ……」
イングリスが持つ『サムライブレード』もエーテルないし変換したマナを込めれば魔石獣を切り裂けるが、あれはラーアルの用意した柄の為だと思っていた。
(いや、よく考えればそう誘導してくれていたんだな!!)
三年前のユミルでの事件のあとの会話を詳細に思い出すと重要な核心部分をボカシていたとも取れる。当然、ラーアルを悼む心もあったのだろうが……。
前世では英雄王イングリスとして多くの敵将・敵軍師などなど知勇兼備の綺羅星の如き人間たちとも戦場で智略を競っていただけに、彼には『一本』取られていたのだと気付かされる。
「この事実を知っている人間は?」
「三年前の時点では出奔したレオン君、レオーネちゃんもかな。そしてエリスとボク」
「そう云うからには、その三年間の間にセツナ君の特異性・特殊性は4人よりも多くの人間に知れ渡ったんですね?」
「まぁ薄々はラファエル君もウェインも『もしや?』ぐらいに考えていた節はあるよ。ただレオン君とウェインは馬が合わなかったからなー。詳細は知らせなかった節はあるね」
天恵武姫とはいえ、王子殿下を呼び捨てに出来るとは……。
リップルとウェイン殿下との関係を少しだけ気にしつつも、この話のキモはーーーーーー。
「彼の存在は良くも悪くも天と地のバランスを崩す」
「そういうこと♪」
神妙に放ったイングリスに対して人差し指2本で戯けるように正解だとするリップル。正しく世界の破壊者と言うに相応しい存在であることを認識して危険度を上げる。
「―――ヒトのいない所でヒトの噂話とは趣味がよろしくないですね。リップルお婆ちゃん」
「事実はそうだとしても、それを口にしないのがジェントルメンの基本だぞーセツナ〜〜」
そうしていたところに武器を数振り持ちながらやってきたセツナ。殆ど気配を感じなかったところから、何かをやっていたと感じつつ、笑顔で怒りながらほっぺたを抓るリップルに短刀を渡すセツナ。
「………」
短刀を受け取ったリップルはラファエルに呼ばれてイングリス達から離れていく。
2人だけの状態が少しだけ居心地悪いが、それでも来るべきときは来る。
緊張の一瞬。そのカタナを受け取ることに少しだけ躊躇をするも、その手から渡された鞘込めの得物の重さ、そしてその手から感じる分厚さに、それは無くなった。
それでも……イングリス・ユークスは守ると誓ったラフィニアの為に言葉を吐き出す。
「キミはナニモノなんだ?」
「それはお前にも問い返したいよ」
どういう意味だ?表情だけで問う。
「―――俺の目にはお前が老境の域に達した人間にしか見えない。外見こそ少女のソレだが、全身から迸るオーラとも言えるもの全てがそういう風にしか見えないんだよ」
その言葉に心臓が高鳴る。自分の『真実』を見抜いている存在に警戒をすべきだというのに、それでも……その事実が、何故か嬉しく感じて顔が上気してしまうのを抑えられなかった――――。
などという場面は少しだけ遠くにいたラファエルにも見えており、年頃の男女の触れ合いにしか見えず、言葉こそ明瞭ではないが、それでも……イングリスの方の様子からもやもやしたものを覚えさせるのであった……。