なんか救われない話を描きたかった。

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尽きた灰に華を添える

「これで…………! 最後だッ……! 貴様をこの世界から無限に追放してやる……!」

「馬鹿めがぁぁぁっ! お前とてタダではすまんというのにッ! ぐぉぉぉぉおおおっっ!」

 

 

 魔王城で繰り広げられた魔王と勇者の最後の戦いは壮絶を極めた。

 事の発端は今や不明だが、地上に住む人類を全て滅ぼさんとした魔王によって地上は壊滅的な被害を受けた、そんな人々の中から生まれた人類最高の存在、全てを背負う力を持つ者として勇者が現れた。

 勇者は人類代表として魔王に立ち向かい、見事魔界の最奥に位置する居城である魔王城まで追い詰めていた。

 

 そして最後の戦い、その最後の一撃は魔王を滅ぼす事が出来ないと悟った勇者の判断で一片すら残らない消滅と引き換えに無限とも思える遠い遠い狭間の次元へ追放する禁術で勝負を決しようとした。

 

「タダでは……死なん……! 勇者……お前も……お前も、ぉぉ、おおおっ!!!」

「まだそんな力が……! くうっ!」

 

 その時、魔王の抵抗により異次元への追放自体は成功したが魔王の呪いを受け、消滅するはずの体が消滅せず片腕を片足を失う結果に終わった。結果として勇者は生きて魔王討伐の英雄として故郷へ凱旋することができたが、それは決して手放しで喜べる状況ではなかった。

 

「奴め……最後の抵抗に俺の体を呪いやがった……俺の全てを支払うことで完成する術式だった……その代償が正しく発生していない、つまり……魔王は近い内に戻って来るかもしれない……」

 

 勇者は未来に残した不安の種を抱えながら、無くなった右腕と左足がせめて一分一秒長く魔王を彼方へ追放していることを願った。

 

 

 それから数年後。

 

 

 勇者は故郷の村で小さな家を買った。それと義手と義足を付け、自ら歩けるようになっていた。まだ走ることはできないが日常生活にほとんど支障はないレベルだ。

 

「魔王……」

 

 勇者は窓辺から空を見上げて呟いた。いつ来るか分からない、しかし因縁がある、次来る時は以前より力を増しているのだろう、魔王とはそういう存在だったのだから。

 年を取り、満足に戦えない自分が不甲斐なく、そして恐ろしかった、守りたい物を自分の手で守れないことに。

 

「勇者様、お体に障りますよ……」

「あ、あぁ……済まない、エイミー」

 

 勇者の側に歩いてきたのは共に魔王討伐の旅路を歩んだパーティーの一人、魔法使いのエイミー。彼女は勇者が魔王との最終決戦の時に最後まで戦いを見届けていた、そして勇者が何をしようとしていたのか理解し、心の底からの謝罪と、恩に報いるために勇者に一生を捧げようと決め、共に暮らしていた。

 

「勇者様、いえ、今はシュラクト様とお呼びいたします。あなた様のご活躍により魔王は遠き次元の彼方へ追放されました。並の存在なら数億年掛かってもかえっては来れません、わたくしの力でも何万年とかかってしまいます。ですから、少しは緊張を緩められてもよろしいかと」

 

 エイミーは献身的だった、ただひたすら勇者、シュラクトの事だけを心配していた。常に、本当に常日頃から、あの時から魔王が再び来る事を警戒し緊張を緩めることがなかったのだ。このままではシュラクトが壊れてしまうと心を痛めている、しかし……

 

「ダメだ、一度緩めたらあのときの覚悟が無駄になる。もう一度命を捨てる覚悟は俺には出来ない。だから、すまない……」

「……シュラクト様」

 

 エイミーはシュラクトを後ろから抱きしめた、潰れてしまいそうなくらい強く、合わせて一個であるかように。

 もう苦しむ必要はないと言ってあげたい、もう勇者の使命は終わったと声をかけたい、そもそも魔王が彼の寿命の内に来るかもわからない。一生掛けて魔王に囚われているようなものだ、これが魔王の狙いだったのか、最後の呪いは術式を不完全にすることが目的ではなく、勇者を永遠に魔王という存在に縛り付けその自由を奪い続ける事が本命だったのではないか? 今となっては居ない魔王の考えだか。

 

「シュラクト様……わたくしは一生ついてゆきます、あなたが命を捨ててまで魔王を退けたように、わたくしは命懸けであなたに尽くします」

「エイミー、お前は本来王都にいた初恋の男と結婚する筈だった、魔王を仕留め損ね生きて帰ってきてしまったこんな男と一生を共にする必要はない。今からでもその男に会って」

「やめてください」

「しかしなエイミー」

「良いんです」

「……エイミー」

「……今だから言えますけど、実は彼も理解しています、わたくしがあなたに一生を捧げる理由を。快く許してくれました。こんなわたくしに笑顔で許してくれたんですよ? 良い男ですよ、だからわたくしよりももっといい娘と結ばれますよ」

「……顔を上げてくれよ、そんな泣きそうな声で強がらないでくれ。俺は君を泣かせるつもりはなかった」

 

 シュラクトが今度は抱きしめた、エイミーより大きい体で、包み込むように抱きしめた。互いの傷を舐め合う、それが彼らの慰め方だった。

 

 エイミーはシュラクトと出会ったのは、まだお互い名も無い冒険者だった頃、年数で言えば十数年前に各地から依頼が集まる場所、ギルドで出会った。まだ駆け出しだったシュラクトはその時名うての魔法使いエイミーと酒場で意気投合して、仕事を共にこなすぐらいの、この世界ではよくある関係性だった。

 エイミーとシュラクトはビジネスライクとも言える仲だった、お互いそれ以上踏み込もうとする勇気がなかったし、シュラクトにら好意を寄せる人物が別にいた。

 ある日の依頼、シュラクトが受けた仕事は当時の彼らからしたら破格の報酬が設定されたものだった、こういった高額報酬は滅多に出回らず運が良くないと話すら聞かない、幸運だと二人は喜び、依頼を受けた。その依頼は人物の護衛、対象は国教の神官だった。目的地もそれほど遠くなくまた暗殺をされる程狙われるような人物でもない、何事もなく送り届けた。

 

「おぬしこそ、人のなかより選ばれし勇者。人類の代表じゃ」

 

 その依頼の去り際、神官からそう言われたシュラクトは何かの冗談かと聞き流していた、同じくエイミーも。しかし後日王都から派遣された騎士団がシュラクトを迎えに来たことにより、冗談ではなくなった。

 エイミーは抗議した、シュラクトは勇者ではないと。

 これは決してシュラクトを馬鹿にしているわけではない、勇者という過酷な運命に向かわせたくない彼女なりの思いやりだ。しかし騎士団は認めない、勇者であることは証明済みだったから。神官を送り届けたあの時、神託を受けた神官があの依頼をだしたのだと言う。

 エイミーは抗議した、人に手を差し伸べたことのない神の声を信じるのかと。騎士団は言葉を受け付けない。人類の人柱、人身御供、全てを背負う代行者、絶滅の淵に立たされた人間が唯一魔王に一矢報いる方法はこれしかないのだと言葉を繰り返した。

 

「なら、わたくしもいきます。勇者一人で行かせません」

「エイミー! 君まで来る必要はない!」

「嫌ね、わたくしとあなたはチームですよ……?」

 

 それから、彼ら勇者として使命を果たす為、魔族、その王である魔王に立ち向かうため必要な者と物を集め、最後に訪れた国教の聖地にて、勇者は最後の術式を体に刻み込まれた。聖地の管理人、大神官の言葉はこうだ。

 

「これは、使ってはならない、しかし、使わねばならない時が来るやもしれぬ、努々忘れるな、これは、禁術、使えばお前は居なくなる、しかしお前にしか使えぬ、勇者にしか使えぬ」

 

 そして、冒頭の戦いの通りになった。

 不完全な術式、不成立の禁術はシュラクトの体を奪っただけで終わった。名誉の負傷だと言うものもいる、しかし、そんな物……使命を課した者からすれば……

 

「勇者よ、お前は……なぜ、生きて戻った。禁術の発動はコチラでも把握している……魔王もいない、だがなぜ、生きている。お前は……何をした? まさか、失敗したのか?」

 

 勇者は人の為その全てを投げうったのに、帰ってきたらこの対応、生還を喜ばれるどころか死を望まれるような声もある。心の底から吐き気がする、エイミーはありったけの罵倒を浴びせ、身体の不自由なシュラクトを彼の故郷へ連れて行った。

 シュラクトはしばらく心が死んでいた、それも当然だと思った、エイミーはシュラクトを必死に世話をした。婚約者の男にも断りを入れて、たいそう怒られ、頬を打たれもしたが、そもそも親が決め婚約者だったので未練はない。だって最初から好きだったのはシュラクトだから。チームとして働いていた時から惹かれていた、だけどシュラクトには好きな人がいた、手を出さなかったのはそのためだ。

 

 しかし今は違う、手足が不自由な彼は今やエイミー無しには生きられない、しかもシュラクトは魔王討伐の前に好意を寄せていた人に別れを告げている、告白すらしていない。もはやエイミーの想いはシュラクトの独占一択であり、それ以外はない。シュラクトの全てを彼女は受け入れた。彼女は全てをシュラクトに捧げた。文字通り全てだ。心と体の全て。ずっと秘めていた重くドロドロとした濃い感情がエイミーに悦楽を与え、脳天から爪先まで染め上げる、シュラクトの生殺与奪の権を握ったエイミーはシュラクトを愛した、愛させた、そうなるよう仕向けた。色欲も情念も全てエイミー中心になるようにした、シュラクトは勇者だから想いを受け取れば否定しない、あとは良いようになるだけだ。

 

 そして最近、シュラクトの一番の核である勇者の使命もエイミーによって無くなろうとしていた。シュラクトが命を捨てる理由になって、今も縛り付けられている使命、魔王はそれを利用していつまでもシュラクトを勇者にし続ける。なによりエイミーが一番になれない、だがそれも瓦解の時は近い……

 

 

 

 翌朝、シュラクトが起きるのが遅いので部屋まで見に行くとそこには置き手紙が置いてあった。

 

『エイミー へ

 

 エイミー、俺はもう君を縛り付けたくない。君の愛も、否定したくない。俺は俺の責任がある、エイミー愛しているよ。でもそろそろ勇者しての覚悟がなくなりそうだった。君のおかげで普通の人間になれると思った……けど、俺は勇者なんだ、使命がある。本当にわがままだけど、俺は旅に出る。いつ魔王が出ても良いように。一生の旅路だ。

 

 さようなら

 

 シュラクト より』

 

 

 

 

 

 後日、彼。いや、誰だったか。誰かが再び現れた魔王を消し去った。誰だったのだろう。魔王が消える瞬間、泣き叫んだ女がいたが、その後舌を噛んで自殺したらしい。

 

 

 


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