倉庫   作:ぞだう

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足踏み(鷺沢文香)

 いったい何度思い描いたのだろう。

 プロデューサーさんと出逢ったあの日、今も忘れることなく鮮明に脳裏へ焼き付いているあの時から……いったい何度、プロデューサーさんとの夢を描いたのだろう。

 きっと十や百では及ばない。千や万、それほどの……もう数えきれないほど多くの数を繰り返してきたはず。

 プロデューサーさんとのこと。プロデューサーさんと結ばれてプロデューサーさんと愛し合う、甘く幸せな世界の妄想。これまでたくさんの書を読み触れてきた様々なこと、それを叶える夢想を。

 清く澄んだものだけじゃない。淫欲に塗れ、退廃的な悦楽に爛れたものも多くあった。……それどころか、実際はむしろそれらのほうが多いくらい。

 淫らな妄想を積み重ねてしまう自分を恥ずかしく感じ、それでもそれを止めることができずにいるのを『自分はなんという淫乱なのだろうか』と思いもした。感じて思って……けれど、絶つことなく繰り返して今へまで至った。

 プロデューサーさんを想って、プロデューサーさんとのことを。何度も何度も、現実に肌を重ねるようになってからも飽きることなく。頻度を落とすどころかむしろ増して。

 ……けれど。

 

(今のこのこれは、初めて……ですね……)

 

 二人きりの部屋の中。互いに纏う服は脱ぎ、ベッドの上で重なりあう。いつもの光景。これまで幾度となく繰り返してきた、何度繰り返しても求め願って欲してしまう、今の私にとって何よりも愛おしい時間。

 今日もいつもと同じ通り。ちゅ、ちゅう、と軽く啄み吸い合うような口付けを何度も重ねて交わしながら服を脱がせあって、纏うものの無くなった素肌同士で抱き締めあって。互いの肌の感触、胸の鼓動、心地のいい温もり、そんないろいろをたくさんの時間をかけて感じあって。それから、求めあって結ばれる。

 そんないつも通り。大好きで恋しくて、何より愛おしいそんないつも通りだった。そのはずだった。けれど。

 

(プロデューサーさん……あんなに、顔を快感に歪ませて……)

 

 目の前の、愛おしい人の顔を見る。するとそこにはいつものそれとは少し違う、快感と幸せに表情を緩ませ蕩けさせているそれとは違う……迫り来る快感に堪えるような、蕩けるのではなくて固く強張るような、そんな顔。

 普段するときには見せてくれない。普段するようなことでは浮かべることのない。普段と同じように快感で染められた、けれど普段と違う顔。

 

「……はっ、は……ぁ……っ」

 

 息が漏れる。

 は、はっ、と細かく小さく震えるように。自分の意思とは関係なく、自然に漏れて表れてしまう。

 胸が高鳴る。流れる汗が止まらない。ほんの数分前に絶頂へと昇り満足を得たはずの私が……満たされたはずの心が、震わされたはずの身体が、お腹の奥がずくん、と疼く。

 普段とは違うこれ。繋がり結ばれる中で、これまで一度もしてこなかったこれ。……プロデューサーさんの性器へ、足で奉仕するこれ。所謂、足コキ……というこれをして。

 

(なんて、いやらしい……)

 

 ベッドの上、両足を開いて陰部を晒すプロデューサーさん。それを左右から挟み込んで、そしてそのまま上下に何度も擦り上げる。

 足を使っての奉仕。当然体勢は限られる。ベッドの上で向き合いながら奉仕をする私は、プロデューサーさんと同じ体勢……仰け反った身体を後ろへ突き出した両手で支え、大きく股を開き、本来他人には隠すべき場所をあられもなく晒し出した体勢でいる。

 晒し合う。何一つとして隠さない。快感を得る表情を見ながら、快感を与える表情を送る。汗に濡れた身体がびく、びく、と動くのを、じんじんと広がる痺れに震える身体で確かめる。半透明な精液混じりの濃い先走りを止めどなく漏らし続けるプロデューサーさんの陰部、数分前に奥の奥……女性として最も大切な奥の部屋までを犯していたプロデューサーさんの男性部分、そこへ奉仕をしながら私も漏らす。注がれた精液と、まるで小水のような勢いで溢れ出てくる愛液。それらを漏らして身体の下のシーツをすっかり濡らす。そんな姿を晒して返す。

 

「プロデューサーさん……気持ちいいの、ですか……?」

「っ、……ふみ……」

「こう、したりなどは……」

 

 両側から挟み込み上下に擦る。その動きへ別のものも取り入れる。

 ずりずり、と擦り上げる合間、時折動きを止めて片方の足を頂点へ。温い先走りを漏らし続ける亀頭の先、尿道の辺りを指で握り込む。

 ぎゅ、ぎゅ、と。開いて閉じて。充血しきって敏感なはずのそこを刺激する。

 

「あ、ぁっ……っ……」

 

 いつか読んだ中にあった描写。それをふと思い出して実行した思い付きからの行動だったのだけれど、どうやらこれはとても効果があったらしい。我慢できずに零した喘ぎ声が耳へ届く。ぶるり、と大きく震えたのが足の先から伝わってくる。プロデューサーさんが、私の足に感じてくれている。

 ぐじゅ……くちゃ……と粘った水の音を響かせながら嬉しくなる。精液混じりの先走りに濡れたプロデューサーさんのそこを、今日まだ清めていない蒸れた足で昂らせて。そうして卑猥な音を部屋中へ響かせながら、高鳴る胸に呼吸がどんどん荒くなる。

 

(あんなに感じて、必死になって我慢して……。可愛い……可愛くて、そしてたまらなく愛おしい……)

 

 そんなふうに思われるのは、もしかしたら男性としては喜べるものでもないのかもしれない。けれど思った。可愛い、と。可愛くて愛おしくて……たまらなく好きだ、と心底思った。

 好き。好き。好き。これまでずっと好意を抱いていたこの人のことを私はやはり好きなのだ、と。そう思う。改めて思わされて、そうして好意に満たされる。

 そして。

 

「気持ちいいのですね……。……いいですよ。もっと……私の足で感じて、ください……」

 

 同時に満たされる。好意に満たされるのと同じく、退廃的な悦びに。

 男性にとって他の何よりも大切なはずのそこ。それを、こんなふうに足で弄んでいる。本来そんな大切な部分へ足が触れるなんて、きっと忌避されるはずのこと。汚いから、相応しくないからと。それを……しかもその上清めもせず、蒸れきったままのこんな状態で今、私はそれを叶えている。

 屈辱的なはず。本来はきっとそのはず。それなのに……私にそうされて、プロデューサーさんは感じてくれている。屈辱的なはずのこの行為を、私が相手だからと望んでくれている。それにたまらず込み上げる。退廃的な、嗜虐的な悦びが。

 

「ふみ、っ……文香……っ!」

 

 上擦った声で名前を呼ばれる。それにまたゾクゾク、とした快感を覚えてしまう。

 これまではまったく意識もしていなかった。自分がこんな行為を介して、こんな悦びを覚えてしまうだなんて思わなかった。だからこそこれまでそれに類する行為の表現を目にしたときも、大きな興味は持たなかったのに。今日この行為を提案されるまで、したいと願うこともなかったのに。

 

(体験してみなければ、その真価は分からないものですね……)

 

 今はこんなにも満たされてしまっている。きっと淫猥な形へ緩んで溶けた表情を隠してもいられないほど、どうしようもなく満ちている。

 好意や恋慕、嗜虐心や悦楽、いろいろな感情がない交ぜになった想いが溢れてしまって止まらない。それと同時に吐息も汗も愛液も、何もかもが溢れ出して漏れていく。

 これまでのすべて……アイドルとして歩み出して初めて知ったいろいろなこと。今では私にとって替えの利かない大切にまでなったたくさんのもの。それらと同じ。またプロデューサーさんに教えられた。気持ちのいいこと。とてもとってもイケないこと。

 

「……あぁ…………」

 

 戯れに一度足を少し離してみれば、間に粘ついた橋が架かる。にちゃ、と音を立てながら長く伸びて千切れないその糸の橋を視界に収めて、その光景に思わずごくりと喉が鳴る。

 プロデューサーさんが感じてくれている。プロデューサーさんを感じさせられている。そのことに胸がきゅんと、お腹の奥がずん、と震え疼いてしまう。

 

「……ふみか……もう、……」

「もう……? ……出てしまいそう……ですか……?」

 

 潤んだ瞳を向けて、ぽつりと零すような声を漏らすプロデューサーさん。震える声に余裕はなくて、休まず跳ねる陰部からは決壊間際の波が伝わってくる。これまで何度も感じてきたのと同じ。手で、口で、膣内で感じてきたのと同じ。絶頂へ達する直前、プロデューサーさんが出してしまうその直前の予兆。

 それを感じて、だから動きを速くする。挟み込む力を強く、擦る動きを速く、そうして最後へ向けて加速する。

 ぐじゅぐじゅ、にちゃにちゃ、と。音を上げて何度も擦る。

 

「う……っ、あ……」

「いい、っですよ……っ。出してください……私で、出して……っ」

「文香……っ」

「気持ちよくなって……私にかけて……私を、プロデューサーさんの精液で、汚して……ください……!」

 

 私がそう言うのと同時、大きく身体を震わせて後ろへ仰け反ったプロデューサーさんが達して果てた。

 びゅく、びゅるる、と溢れ出る。ほんの数分前一度出しているのに濃くて多い、とても熱い精液が。

 飛び出すように放たれたそれが私の足を汚していく。触れた足先はもちろんふくらはぎや太ももも、決壊してしまったかのように愛液を滴らせる私の蕩けた陰部まで、余すことなく塗っていく。

 

「……っ、あぁ……プロ、デューサー……さん……!」

 

 それを見て、肌に感じて、たまらず身体が跳ねてしまう。

 足でしているだけ。触れられず刺激もない。なのにそれでも跳ねてしまった。プロデューサーさんの姿を見て、声を聞いて、そして……私も達してしまった。

 軽く、でも確かに。一瞬視界が白に染まって、頭の中がチカチカと。甘い痺れに震わされた身体の奥が、どうしようもなく駄目になる。

 

「は、あっ……はっ、あ……」

 

 はっ、はっ、と整わない息。二人揃って乱れながら、しばらくじっと見つめ合う。

 言葉もなく、ただまっすぐに見つめ合うだけ。荒く繰り返される互いの息と時折響く粘ついた音、それだけが部屋を満たす。

 そうして時を重ねて尽くして……たっぷりと、絶頂の余韻を感じて浸って。それから……そんな熱い余韻を味わってから、囁くような声でそっと言葉を紡いで送る。

 

「プロデューサーさん……私の足で気持ちよくなって、くれたのですね……」

「……ああ。……文香の足で、俺……」

「嬉しいです……。プロデューサーさんに気持ちよくなってもらえて……気持ちよくできて……。私も、またイってしまいました……」

 

 合間に何度も吐息を挟みながらの会話。互いに肩を、胸を上下させて。時折びくん、とまだ収まらない絶頂の余韻に震えながら。……達しているのに、けれどまだ熱に浮かされた……昇り詰めたまま降りてこられない、次を次をと求めるような、そんなどうしようもなく淫らに濡れた瞳で見つめ合って言葉を交わす。

 疼いて止まらない身体を抑えようともせず、むしろそれに突き動かされるようにして。見つめ合いながら言葉を交わし、ゆっくりと身体を寄せる。

 ベッドの上、何もかもを裸で晒したプロデューサーさん。そこを目指して前へ進む。精液に塗れた足を拭うこともせず膝立ちになって四つ這い。体勢をそう変えて、座るプロデューサーさんのもとへと進む。

 

「でも……」

 

 くちゅ、くちゃ、と。這う度にシーツを精液と愛液で汚しながら前へ。そしてやがて辿り着く。愛しい愛しいプロデューサーさんのもと。

 そして。

 

「ごめんなさい」

 

 押し倒した。

 ほとんど力の入らない身体、押し倒すというよりもただ寄り掛かっただけなのだけど。それでも私と同じように力の入らないプロデューサーさんを下にして、跨がるように上へ乗る。

 

「まだ……足りません……。もっと……また、してほしい……です……」

 

 ぽたぽた、と滴り落ちる。

 唇の端から零れた唾液がプロデューサーさんの顔を。胸の先から落ちた汗がプロデューサーさんの胸を。溢れて止まらない愛液がプロデューサーさんの陰部を。滴るすべてがプロデューサーさんを汚していく。

 

「だから……」

 

 互いのいろいろに塗れたプロデューサーさんのそこ……出したばかりだというのにまだ硬さを失わないそこを、もうすっかり蕩けきって口を開いた私のそこへと宛がう。

 我慢できずに思わず先端を迎え入れてしまいながら、けれどそこで必死に耐えて。今すぐにでも入れてしまいたい。恥も外聞も理性も何も、何もかもを投げ捨てて腰を振ってしまいたいのを抑えて耐えて、そしてまたそっと囁く。

 息の混じり合う傍の距離。鼻と鼻が擦れ合う、相手以外の何もが見えないような距離。そこでそっと、叶う限り淫らに艶やかに、誘うように言葉を注ぐ。

 

「してください……。プロデューサーさんのそれで……私のこと、もっとたくさん滅茶苦茶に……壊れてしまうくらい、犯してください……」


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