星屑チルドレン―Protect your Eterein―   作:星の子

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騒音少女、アカリ

 結局、学校に到着したのは、一時間目終了の時刻であった。教材の一部が見当たらず、部屋中を探しまわっていたら、とんでもない時間になってしまった。ちなみに大好きな玉子スープは食べられず終い。無念なり……。

着いてすぐ、まだ残っていた担当教師に、遅刻理由ねぼうを伝えると、「またか」と、僕にとってはド定番の台詞を吐かれる。彼の表情に、怒りの素振りは全く無い。

何度も遅刻を繰り返すと、やはり教師側も慣れてしまうということか。

 その後席に着き、机に突っ伏し、憂鬱な気持ちが無意識に、吐息と共に、口からも流れ出る。その様は、まるで念仏を唱える釈迦のようだったらしい。姿勢以外。

「……ついに悟ったか」

 誤解だ。隣の席のベガはジト目だった。

「休みは三日欲しいんだよぉ……」

 対してベガは、「気持ちは分かるけどな」と応えてくれた。

本日二度目のジト目だった。

 休みの翌日は、誰しも登校はしたくないよね。隣のクラスでも、欠席者は常に四人は居るらしい。このクラスの欠席者がゼロ人なのが、あまりにも不思議だ。

「あぁぁ布団が名残惜しいぃ……」

 未練たらたらにダラダラと過ごしていると、元気すぎる声がボリューム最大で聞こえてくる。

「ど・お・し・た・の・お寝坊さーーーーーーーん!!」

 僕の気分に見合わない爆音だ。

彼女の名前は「夢空(ユメソラ) (アカリ)」。容姿端麗の、学校内でも突出した美人。チアリーディング部に所属していて人気を博している。その水色の長い髪がとっても綺麗で魅力的である。が、そんな彼女の唯一の欠陥が、この騒がしさだ。

神は全てを完璧にはしないと言うが、アカリは正に、それを体現したような存在なのだ。

「おきろぉぉぉぉおおおおお!」

「起きてるよ!」

 彼女から発せられる突拍子もない言葉は、放たれる度にビクッとする。それと同時に気分を悪くさせる。言うなれば、まるでメガホンを使っているかのように。

 流石は残念美人(キチガイ)。周りの者は皆、そのように呼んでいるらしい。そんな彼女は何故か、僕のことを非常によく気に入っているようである。僕はあまり歓迎できないんだけどね。

「悪いけどさ、声のトーン下げて……」

「なんでよー!?」

 気分の淀んだ僕にとってみれば、選挙カー並みの騒音である。

「もー。折角空気持ち上げようとしてるのにー……あ、そうだ、チア部らしく、応援したげるよ。 ガンバレーガンバレー! よどんだ空気、フットバセー!!」

言っても分かってくれない。

 鳥頭なのだろうか。更にうるさくなった。

今度は公害レベルと言っても過言ではない。チア部の人気を揺るがすのではないのか。

 励ましは薬になることもあるが、その度が過ぎていれば話は別。相手は公害なのだ。それ相応の対策をせねばならないだろう。政策も作られば。環境汚染の対策だ。学校議定書発布だ。国際会議だ。

 ……最早自分にも意味がわからない。

そしてやかましさは更にエスカレートしてきた。勘弁してください。

「ファイッファイッファイッファイィィィ!! オーーーーードゥユアベスッ!!」

 しかもこの光景を見てベガはただ笑って見ているばかりだ。タスケテクダサイ。

 光化学スモッグに包まれる環境に、僕の心は既に限界です。

「姉さん、随分と賑やかだね」

「ガヤが増えた……」

その正体は「夢空(ユメソラ) (トモリ)」。アカリの妹である。彼女はアカリよりも髪が濃い藍色をしていて、アカリと同じロングヘアーである。部活は無所属。

「あー、トモリちゃん丁度いいところに来たー。今ルイくんを元気づけようとしてるんだ!」

「それは見れば解るよ。面白そうだし、わたしも見てることにするよ」

「おお、珍しくトモリちゃんが乗り気だ。これはわたしも本気出さないとね!」

 え、本気って。というかトモリたすけ……。

「問答無用、目覚ましぱーんち‼」

「プロキオン‼」

 

 ――僕の身体が軋む音が、教室内に響き渡る。僕はそのまま机に横たわってしまう。

 

「姉さん。流石に……これはマズいよ。ルイさん泣いてるし」

「ノンノン、泣くぐらいが丁度いいよ! だってルイ君だもん!」

 僕を何だと思ってるんだ……。アカリの玩具じゃないんだよ。痛みも全て理解できる、立派な人間だよ。

「ルーイ、生きてるか―?」

 ばっちり生きてるよ。でもこれがあと数発来たら多分、魂が別世界に旅立ってしまいそう。

「でもまあ、よく見ると、ルイ君幸せそうだよ。見て、こんな笑顔になっちゃって!」

「どこがだよ。そんな癖は抱えてないよ」

「そんな癖『は』?」

 

 ――墓穴を掘った。なんだかこのネタまたどこかで使われそうな気がする。そしてアカリにまた嘲笑われるんだろうなぁ。

 

「はい、ストップ。そこまでだよ。アカリ」

 ようやくトモリによる(ドクターストップならぬ)シスターストップがかかった。いやいや、もっと早くに出してよ。殴られる前でもよかったんじゃないのかな。

「えーつまんないの。だって元気無い人を元気にしてこそのあたし―チア部としての誇り―だから、重たい空気の人は見過ごせないのー。元気にしてあげたいだけなのに」

 発言だけを聞けば、テンションが下がったように見えるだろうが、いやいやそんなことはない。今度は手元がやかましいのだ。その手は髪をクルクルと弄ったり、両手は開閉を繰り返したりと、あまりに落ち着きがない。ステップを始めたり終わらせたりと、本当に煩わしい。

「姉さんの気持ちは分かるよ。でも、そんなの自分勝手な考えだと思うよ。姉さんはいっつもそう。クラスにいる時は、いつもルイさんの近くでうるさくして、周りが見えてないんだよ。ほら、周りを見て」

「そうかなあ……ん?」

 呟くアカリをよそに、僕もつられて周りを見る。

 睨み、哀れみ、迷惑、見て見ぬフリ、耳を塞ぐ、嫌そうにひそひそと話をする。これらを行うクラスメートの視線が一気に直接、アカリの方へと向かっていた。

 アカリの顔に目を向けると、既にその顔は一変し、青ざめていた。

「あ……ぁはは……」

 例えるならば、突然遭遇した悪夢から、逃れることのできない表情だろうか。そして、少女は瞬く間に、変わり果てた姿へと変わっていく。

「……ごめん……なさいね。わたしの……せいだね……」

 彼女の変化はあまりにも大きかった。その名前に見合った明るい性格までも、どんよりと、薄暗く変わってしまったように見える。歩き方も先ほどのハキハキと近づいてくるものとは全く違い、フラフラと、今にも倒れてしまいそうで心配になる。

 

 トモリ曰く、アカリは、周りの人から嫌悪的な目線を大量に浴びると、癇癪を起こしてしまうらしい。それにしてもここまで酷いと、過去に何かがあった……としか考えられない。

 初めて見たときから感じるが、アカリはこの調子で、果たして生きていけるのだろうか。

 

「トモリ……これ、大丈夫なの?」

 席に戻って行くアカリを見ながら、僕は問う。自分の表情も引きつっているのを実感できる。

「……多分ね」

「そうなのかなぁ」

 フォローしておけばそのうち元に戻るよと、トモリは笑う。本当にそれでいいのかな。

「トモリって、姉のことどう思ってるんだ? オイラ、それが気になってる」

「僕も思った」

「……えーっと」

 トモリを見ると、穏やかな笑顔のようで、それでいて、どこか切なそうな表情を浮かべている。

「姉さんは、確かにうるさいよ。色々と迷惑なこともするし、わたしも本当に怒っちゃうほどの時があるけれど、でもね。良い所だってあるんだよ」

 貴方たちは知らないと思うけど……と。この後の言葉が少し詰まってしまい、数秒ほど、僕らの時間が静止する。

「長くなりそうだし、今度話してあげるね」

 何とか発した一言から、想像できないほどの重みを感じるが、何だかはぐらかされた気分だ。この後彼女は、それじゃあねと言い、自分の席に戻った。

僕たちが知らないだけで、実は彼女たちは、波乱のある人生を送ってきていたのだろうか。

 そういえば、彼女ら姉妹は、六月までは一度として、学校へと登校してくることは無かった。名簿にしか名前の無い二人に関して、好奇心と興味で、担任に理由を尋ねる者も居たが、「家庭の事情なんだ」と一蹴り。そこから明白かつ妥当な答えは得られなかった。

 しかし、彼女らをよく知る人物の話によると、トモリが致死率の高い、深刻な病にかかったと噂されていたとのことだった。だとしたら、姉を含めて不登校に関してだけは合点がいくが、アカリの癇癪については理解ができない。

 そして彼は思い出したかのように「もしかしたら」と、もう一つ教えてくれた。

 今と過去のアカリを比べると、全く別物のように思えるのだという。元々アカリもトモリも、落ち着いた性格であったが、ある日、登校を再び始めた辺りから、ガラリと性格が一変していたらしい。

 今の姿からは全く想像できないが、少なくとも小学校時代は、二人とも似ていたということか。

「……まるで、全く別の彼女と入れ替わったかのようだった」と添えて、彼の話は終わった。

 これを思い出したせいか、ますます分からなくなってきた。

 

 僕はどうしても、彼女たちの過去について、知りたくなってきた。

 

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