魔法世界「エル・アストリア」。それは魔法が生活の中心として存在する世界。
中でも主要都市「アルヴァーナ」には多くの
そんな多くのメイジが集うアルヴァーナは、魔法の力「エストルム」で満ち溢れ、昼夜問わずその光が絶え間なく都市全体を照らしていた。しかし今、その光は弱々しく揺らいでいる。空に浮かぶ光の塔はまるで命を失ったように、いつもの輝きを失い始めていた…。
シオンはいつものように都市の下層部であるノクタの苔むした石畳を歩きながら、その空を見上げていた。
彼の周囲を取り巻く世界は、相変わらず厳しい。エストルムを扱えない、つまり魔法を使えない「
「またか…」
消えゆく街灯を横目に心の中で呟く。上層のルミナでは、エストルムの力を使う者たちが光の中で栄え続ける一方で、ノクタの街では光が消え、闇がゆっくりと忍び寄っていた。だが、これが自分の運命だと、シオンはいつの間にか諦めるようになっていた。
「シオン!」
聞き慣れた声に振り向くと、そこにはリーナがいた。
幼馴染である彼女は、幼少期と変わらない笑顔をシオンに向けていたが、その背後に漂う空気はどこか緊迫感を漂わせていた。
「また光が弱くなったね…。ルミナでも…みんなざわついてる」
シオンはリーナの言葉に軽く頷いた。
彼女はいつも明るく、前向きで、シオンが自分をどれだけ無力な存在だと思っても、それを笑顔で打ち消す存在だった。
しかし、この都市の光が消えゆく中で、シオンの心にわずかな感情が生まれていた。それは、こんな無力な自分でも、何かアルヴァーナのためにできることはないか――そんなかすかな希望だった。
「…あの光が完全に消える時、何が起きるんだろう」
シオンは思わずそう呟いた。その言葉に、リーナは一瞬驚きの表情を見せたがすぐに微笑んだ。
「そんなの誰にもわからないよ……でも、私たちは今できることをやるしかない」
彼女はそう言って、シオンの手を握った。その温かさは、今のシオンには重く感じた。
「私、ルミナに戻らなきゃ!また今度、お茶でもしようね!」
リーナはそう告げると足早に駅へと向かった。
「ああ…」
返事になっているかどうか怪しいほど小さな声が喉を通る。
ヌルであるシオンはルミナへはそう簡単に行けない。このアルヴァーナでは魔法が使えない者は「ヌル」として蔑視されている。
ルミナには多くのメイジがおり、ヌルであるシオンが足を踏み入れれば、どうなるかは想像がつくだろう。
だが、それでも構わなかった。
ノクタではヌルたちが自分たちの技術を使って魔法に頼らない生活が営まれており、独自のコミュニティが形成されていた。
そんなノクタでの生活に満足していたからだ。
「ったく、メイジのくせにわざわざ下層部まで降りてきやがって。嫌味が言いてえなら直接言ってこいって話だよなぁ」
彼はガイルズ。シオンが所属する「ニューエストルム調査隊」の副隊長だ。
「大体あの女、アルカナだろ?ノヴィスやマギアスならまだしも、アルカナクラスのメイジがわざわざ来るのが気に食わねぇ」
メイジにはノヴィス、マギアス、アルカナという三つの
「そもそも、「エストルム」がなくなって困るのは
彼をはじめとして、ヌルたちの間ではメイジに対する不満が募っていた。
アルヴァーナに漂うエストルムはすべて都市の中心にそびえる巨大な浮遊クリスタル「
しかし、ここ数年で急激な発展を遂げたアルヴァーナにルクス・ハートのエストルムは見る見るうちに吸い取られてゆく。
その結果、近年のアルヴァーナはエストルムの枯渇問題が発生しており、政府は魔法がなくなっても影響が少ないノクタから供給量を抑え始めていた。
もちろんそんなことをすればノクタの住人やヌルたちから多くの不満が募ることになる。そこで政府が発足したのが「ニューエストルム調査隊」だった。
ルクス・ハートが力を失いかけた今、エストルムに替わる新しい魔力エネルギー、いわば「ニューエストルム」を探し出そうと考えたのだ。しかし、もう気付いているだろう。それはあまりに無謀な考え過ぎることを。
この調査には、何の根拠も裏付けもない。つまり、そんな物がそもそもあるかすらもわからないのである。当然ノクタの民衆も同じ疑問が沸いたが、そんなものはすぐに消え去った。
何とこのニューエストルム調査隊に入隊したものは、毎月5,000,000
政府からの発表があってからはこの好条件に喰らいつくもので溢れた。
しかし、それはそれほどにこの仕事が過酷であることを意味している。
まだ見ぬエネルギーを探すため、当然未開の地へと出向くことになるが、そこには何があるのかわからない。強大な魔力を持つ謎の集落や行く手を阻むモンスターの群れなど、不安は募るばかりだ。
もちろん、予測は的中する。最初は数万人といた調査隊の面々も今ではたったの50人程度だ。
シオンやガイルズはヌルでありながらもなんとかメイジと負けず劣らず活躍し、調査隊の中で確たる信頼を得ているのだった。
「なぁ、聞いてんのか?おい、シオン!」
ガイルズが声を荒げる。
「ああ、すみません、考え事をしてました」
「ったく、最近ボーッとすることが増えたんじゃねぇか?ちゃんと眠るんだぞ」
「はい、気をつけます」
「それはそうと、あのリーナって子、幼馴染なんだろ?どうしてヌルであるお前と、今やアルカナのメイジさんが仲良く出来てるんだ?」
「ああ、それは…」
シオンが口を開こうとした時、ルミナから轟音が鳴り響いたーー
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「運命が動き始めたようだな」
男は仲間へ向けて言葉を続ける。
「この腐った世界を浄化する時が来た。さあ、革命を始めよう」
影のように自分に忍び寄っている存在に、まだシオンは気付いていない。
牛歩にはなりますが、思いつき次第続きを書いていこうと思います。よろしくお願いします。
今回出てきた用語
・魔法世界「エル・アストリア(El Astoria)」
魔法が生活の中心にある世界。しかし、すべての人が魔法を使えるわけではなく、魔法を使えない者も一定数存在する。
・主要都市「アルヴァーナ(Alvarna)」
「星々が光り輝く場所」を意味し、魔法と文明が融合した都市。巨大な浮遊クリスタル「ルクス・ハート」を中心に据えた都市であり、エストルムのエネルギーが絶えず供給されている。
・エストルム(Esturm)
エル・アストリアを支えている魔法エネルギー。魔法を使ったり、魔力を使って動かしているものなどありとあらゆるものの力の源となっている。
・巨大クリスタル「ルクス・ハート」
アルヴァーナの中心にあり、大気中や地中などから流れ出すエストルムを吸収してアルヴァーナに供給している。供給量は政府や企業によって管理されているが、自然の生成するエストルム量に対してアルヴァーナのエストルム消費量は大きく、昨今エストルムの枯渇問題が浮上している。
・上層街「ルミナ」(Upper Alvarna:Lumina)
「光」を意味し、高位魔法使いや貴族が暮らすエリア。街の上層に位置し、豪華な浮遊式の建物や空中庭園が広がっている。
・下層街「ノクタ」(Lower Alvarna:Nocta)
「闇」を意味し、ヌルが生活するエリアで、地上に広がる商業・居住エリア。ここでは、魔法に頼らない生活が営まれており、ヌルたちが自分たちの技術を使って生活している。
・メイジ(Mage)
エル・アストリアで生きる魔法使い。三つのクラスに分かれており、下級から上級にかけてノヴィス、マギアス、アルカナとなっている。
・魔法が使えない者「ヌル(Nulls)」
魔法の才能を持たない者たち。彼らはエストルムに触れることができず、日常生活で魔法を利用することができない。ヌルたちは、魔法技術に頼らない技術や機械を使って生活しているが、社会的にはメイジに対して劣等感を感じることも多い。
・ニューエストルム調査隊(New Esturm Exploration Unit)
エストルムに替わる新たな魔法エネルギー源を探すため政府がノクタの住人から集めた調査隊。存在するかもわからないエネルギーを探すため過酷な任務である。それ故に報酬も高い。
・通貨単位「ギルダ(Gilda)」
商売などに使われるアルヴァーナの通貨単位。平均月収はクラスによって異なりノヴィスは1,000,000G、マギアスは4,000,000G、アルカナは10,000,000Gほど。ヌルの平均月収は800,000G。しかしニューエストルム調査隊の月収は5,000,000Gにも及ぶ。